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底無し魔力の召喚士~各地に封印された神獣と契約して最強へと至る者~  作者: 半分のリング


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63話 時として言葉は人を呪う

「おっちゃん、四本頼む」

「おう、早速行ってきたのか。サイコーだったろ?」


 朝陽を堪能したアルは街に戻るや否や、店主にお礼をするためやって来た。

 宣言通りに焼き鳥を買い、とても気に入ったのだと伝える。


「あれ、すげーな。太陽の周りがキラキラしてて凄かった」

「そうだろそうだろ。あれには女もイチコロってやつよ」


 珍しく知能指数の下がった会話を繰り広げてしまうほどである。


「実はよ、あの場所はウチの女房口説いた場所でな。おめぇは成功したのか? 誰狙いなんだよ?」

「いや、別にそういうわけでは……」

「そうテレんなって。それとも全員とか欲張りなこと言ってんのか? やめとけやめとけ」


 アルの後ろに控える少女たちは人の姿こそしているが、その全員が神獣である。

 召喚獣相手に恋愛感情も何もないだろうとアルは思うのだが、それを説明することはできない。

 思春期真っ只中の会話にどうしたものかと唸っていると、奥から怒声が響いた。


「くっちゃべってないで仕事しな!」

「おぉ怖っ。……全員がそのうちこうなるんだぜ?」


 聞こえないよう小声で忠告される。それに乾いた笑いでしかアルは応えることができなかった。

 幾千年の時を生きる神獣が、たかだか数十年でそこまで変わるのだとすれば、それは最早ホラーである。


「また来いよな!」


 これも一種の惚気だよなと思いつつ店主と別れたアルは、感謝の四本串を食べながら街の中心へと向かって屋台を巡る。

 目的地は図書館。飛ばしてきた街の名所や特産などを調べ、王国南東部での用事を済ませた後にそこへ向かう。ここでその予定を立てるつもりだ。



 残りのダンジョンは四か所。

 その内、中央部にある二つは過去に潜ったことのある場所。当時のことを否が応でも思い出してしまう。


 上位冒険者の後を追っていた頃の記憶。彼らが持ち切れないと判断し、その場に残していった魔鉱石を採取していた惨めな過去。

 生きていくためには仕方のないことだと割り切ってしまえれば、どれほど楽だっただろうか。


 ――貴族たる者、民衆の規範足れ――


 幼少の頃よりそう教育を受けてきた彼にとって、それは呪いの言葉であった。

 模範となるべき存在が、人のおこぼれを拾うような卑しい行為を是とする姿勢は恥ずべきことである。

 彼もさんざん葛藤したが、今ではそれも吹っ切れている。追放されたのだから、もう関係ないのだと割り切ることができた。


 しかし、イクス村での一件もあるため、先に【丘陵回廊】と【大地の裂け目】から攻略する。そのために南西部から一気に駆け抜けてきたのだ。



 急ぐ必要があるとはいえ、心をないがしろにしないとアルは誓った。ならば、心を育むことも疎かにはしない。

 どちらも解決する必要があるのだから、結局は捨てることなど出来はしないのだが。




 そうしてやって来た図書館でさまざまな書物を読み漁る。

 ある程度の予定が立った後も、気になったものは取り敢えず読む。彼は読書に慣れているため、苦にはならなかった。


 武術や剣術の指南書。魚図鑑や穀物に関する書物。果てはどこの誰かも分からぬ人物の旅行記まで。

 もちろん、召喚獣に関する書物を探すことも忘れない。



 メアとリル、そしてテンの三人は各々好きな書物に手を伸ばす。

 ヨルとエリは書物自体には関心を示さなかったが、アルが読んでいるものに興味を抱いた。


「それはどういった本なんだ?」

「あぁ、これは麦に関する本だな。パンとかビールの原材料で、種類も色々あるみたいだから調べてみようかなって」

「主様は食糧についても関心があるのですね」

「そういう訳でもないんだけどな。この街に来る途中に大きな穀倉地帯があったみたいだから、一度は目にしておこうかなと。これはその延長かな」


 暗がりで見えなかったのか、あるいは道筋が逸れていたのか。道中には気付かなかったが、見渡す限りの麦穂は一見の価値ありとのことだ。

 そこはワセトから二日ほどの距離なので、中央部に戻るついでに寄ろうかとアルは考えている。


「壮大な景色を眺めていると、心が奮い立ちますよね」

「そうなのか? うーん、どうなんだろうな」


 深く考えたことはないが、景色に目を奪われることは多い。テンに指摘されてからは何気ない風景にも特別なものがあるのだと気付いた。


 なぜ心をくすぐられるのか。アルは考察をしてみるが、答えと思われるものはすぐそこにあった。


 長期にわたって幽閉されていた彼は、外の景色を――色鮮やかな世界を、その美しさを知らなかった。

 屋敷の中ですべてが完結していた彼は、知る機会を得られなかった。

 それは誰しもが当然にして訪れるものであるため、教え示してくれる人など存在しなかった。


 視覚から得られる経験の乏しさからか、しおれた花が懸命に水分を吸収するかのように取り込んでいるのだと。アルはそう感じた。




 そうしてワセトに到着して六日目。本日より探索を開始する。


 東門から街を出たアルたちは、ダンジョンへと向かう人の流れに沿って進む。ここからだと三つのパーティが確認できる。

 その流れは南東方面へと続き、丘を一つ越えた先に入り口があった。


 中は窮屈だったが、人がすれ違うぶんには問題ないといった広さ。膝上ほどの段差をいくつか下りると、緩やかな下り坂がまっすぐと延びていた。

 道中には分かれ道がいくつかあり、その全てがさいの目状に広がりを見せる。回廊と呼ぶに相応しい構造をしていた。


「これはちょっと戦いにくいな」


 剣を横に振るスペースがない。モンスターの影は今のところ確認できないが、この構造が続くとなれば少し面倒だった。


「盾か槍がほしくなるな」


 定期的に現れる段差越しに戦闘を行えば、そのどちらかがあれば楽に戦えそうだと零した独り言。それにエリが反応する。


「盾ならばここにあるではないか!」


 大盾を掲げるエリ。

 自信に満ち溢れたその仕草はとても頼もしいものであった。


「なら、先頭を任せてもいいか?」

「我がすべてを払い除けよう!」


 人ふたりが横並びになるスペースはある。エリ自慢の大盾で攻撃を防ぎつつ、隙間から剣を突き出すことで安全に対処できるだろう。


 そうしてエリはアルの前までやって来ると、続けざまに一言。


「貴殿に脅威が訪れることはない!」


 そう言い放つと――。


「うおおおぉぉぉおお!!」


 大盾を構えて走り出した。


 突然の奇行に呆気に取られるアル。護るべき存在を残して一体どこへ行こうというのか。


「まさに猪突猛進じゃな」

「とても猛々しい人ですね」

「やる気があるのは結構じゃが、どうやら空回りしておるようじゃの」

「この感覚、なんか久しぶりな気がする」


 ため息を漏らしつつ、エリの再召喚を行う。


「何をしているのだ! 我に続くのだ!」


 また大盾を構えようとするエリの首根っこを掴み、走り出すのを阻止する。


「待て待て。まずは団体行動をだな……」

「急ぐ旅なのだろう? ならば!」

「確かにそうなんだけどな」


 何から説明すればいいのか。思考を巡らせたアルは、シーレの能力を伝えていなかったことを思い出す。


「あんまり走り回られると、遠くまで確認できないんだ」


 集中すれば数キロメートル先まで確認できる能力だが、走りながらだとそうもいかない。アルはそれを懇切丁寧に説明した。


「納得した! その能力で探索すると早い、ということだな?」

「まぁ、端的に言えばそうだな」

「ならば! 我が貴殿を運んでやろう!」


 そう言って大盾を地面に寝かせ、上に乗るよう促すエリ。


「そ、それは……ちょっと」

「遠慮することはない。貴殿を安全に運んでみせよう!」


 その姿を想像したアルは、何とも言えない顔になった。滑稽と言わざるを得ない恰好に乾いた笑いすら覚える。


「良いではないか! 全部やるのであろう?」


 なぜ半笑いなのか。その表情はいたずらっ子のそれであった。

 しかし、全部やろうと言ってしまったのは事実。


「……」


 アルは無言で大盾の上に座った。

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