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54話 モンスターに気を付けろ

 広間の隅にある丁度よい段差に腰を下ろして休憩するアルたち。少し先の通路にはモンスターがうろついているため、気付かれないように息を殺す。

 そこへ二人組の男たちが姿を現した。


「教会関係者だな?」


 立ち上がったアルは問い掛ける。

 それに面食らった男はこちらを品定めするかのような視線を向けた。


「どこかで会ったか?」


 何かを思い出そうとしているのか、男は顎に手を当て首を捻る。


「さぁ? どこだろうな」

「悪りぃけどよ、全然思い出せねえわ」


 メアたちも立ち上がり、アルの隣に並ぶ。

 地面に薙刀を突き立てるメア。その姿を見て男が呟いた。


「いや、待てよ。変な服装の女にデカい武器」


 アルの予想したとおり、こちらの容姿は共有済み。組織の人間であることが確定した。


 人数差がある今が好機。ここで確実に仕留める。


「気付いたか?」

「もしかして、ザグ……サグレ……なんだっけ?」

「ザグレイスト・ローディエル司教ではなかったか?」

「そうそう、そんな感じだったな。その司教を殺ったのはお前らか?」

「そうだ」


 名前など知らなかったアルだが、カルロスが覚えられそうにない名前だったので肯定しておくことにした。


 相手にも戦う理由を提示し、逃げるという選択肢を無くす必要がある。

 休憩しているフリをしていたのもそのため。祭壇まで迷わず進んでいたことから風の精霊の力で索敵していたと考えるのが妥当。尾行していたことを悟られないよう偶然を装って出遭う必要があった。



「お前らが神獣の存在を隠していたことも知っている。全て調べた」

「モルドー家の人間か。何を知ったかしらねえが、全部吐いてもらうぜ? エイクス、全力でいいぞ。二人くらいなら殺しても問題ねえ」


 勘違いさせてしまったのは誤算だが、それ以外はアルの想定通りの展開。


「こんな場所で戦う気か? 周りはモンスターだらけだぞ」

「ビビってんのか? せいぜいモンスターにやられねえよう気を付けるんだな」


 長剣を抜いた男は目をギラつかせる。それに対してアルは呆れた表情を見せ、剣を右手に構えた。


「お前こそ怖気づかないんだな。二人だけで大丈夫か?」

「ちょうどいいハンデだ。デカい口たたくからにはすぐに死ぬんじゃねえぞ」


 男はアルに向かって走り、剣を振る。それを受け流しながら距離を取る。

 そこへヨルの刺突が男を捉えた。肩を掠めながらも致命傷を避ける。


「やるじゃねえか」

「どうも」

「風の精霊よ、空気の膜を作りて――「させない!」」


 続けざまに刺突を繰り出すが、相手は詠唱しながら大きく間合いを取った。


「我を永続的に護り賜え――【ウインド・シェル】」


 アルも剣を袈裟に振るうが、男はいとも容易く受け流しながら刃を滑らせアルの手首を狙う。

 【俊足の極】を強く意識し、半歩下がってそれを躱す。


 長剣を振り抜いたばかりの相手を襲うヨルの刺突。男は来るのが分かっていたと言わんばかりにヨルから距離を取りつつ詠唱を続けた。


「土の精霊よ、その知恵と知識を以って金剛なる力を授け賜え――【ストーン・スキン】」


 身体を強化する魔力の操作に加え、精霊術を行使するための魔力操作。それを同時に行う男はやはり相当な手練れであった。

 カルロスのように戦闘に慣れており、しかし、カルロスと決定的に違うのはこちらに向けられた殺意。あの時とは違い殺すつもりで振るわれる剣は、アルとの実力差を如実に表した。




 ヨルの刺突を寸でのところで捌きながらも詠唱を続ける。


「水の精霊よ、純然たる浄水により我に癒しの力を授け賜え――【ミスト・ヒール】」


 いくつもの詠唱を重ねることで自己を強化していく男。全ての資質が高いレベルで纏まっている。

 人の姿で戦っているとはいえ、神獣の攻撃を幾度もいなす男は今のアルよりも数段格上だろう。

 万全な状態で臨めなかったのが悔やまれるが、人数有利な状況で組織の者を間引くことができる絶好の機会を逃す手はない。



「後ろの道からモンスター三体! 俺が処理する!」


 戦闘音を聞き付けたモンスターが広間へとやって来る。

 アルはシーレの能力で全体を把握しながら戦っているため、この男の相手は主にヨルが務める。

 メアたちの行動も常に把握し、再召喚が必要な場面を見逃さないようにしていた。


「いい索敵術持ってんじゃねえか。それで俺の背後も確認してくれよ」


 アルが離れたことにより冗談も言えるようになったらしい。


「お前の後ろにも居るぞ」

「はっ! その手には乗らねえよ」


 しかしそれは事実。少し離れてはいるが、これにより相手の索敵範囲を大方把握。


「左からも三体! 約十五秒後に接敵」

「わっちが相手をするとしよう」



 角鹿は主にメアが担当。

 軽快なステップを踏みながら、大きな角でメアを襲う。

 それを薙刀で払い除けながら自身も横へと跳んで回避。

 モンスター三体を倒し終えたアルは、メアの華麗な動きに感心する。


 反射速度の速さ。

 巧みな重心移動。

 それは直前までどこへ移動するのか解らないほどに洗練されていた。




「風の精霊よ、風の凶刃となりて敵を深く切り刻み賜え――【ウインド・スラッシュ】」


 その刃は男の後方から迫るモンスターへと放たれた。


「まじで来てんじゃねえか」


 上位詠唱を行う男は恐らく無詠唱で【サーチ】を使っている。

 その索敵範囲はアルと比べるとかなり見劣りするが、不意を突くことは不可能だろう。


「左側、別の道からも一体」


 この広間には六本の道が繋がっている。相手も警戒を怠らないようにしながら、それでもヨルの攻撃を凌いでいた。

 アルも戦闘に加わるが、決定打を浴びないよう慎重に距離を見極める。



 剣の鞘を落として合図を送り、柄頭に取り付けた火の精霊石を使う。


「おっと!?」


 その光は右奥の通路へと消えていった。


「攻撃の精霊石付けてんのか。もっと近くで撃たねえと当たんねえぞ」


 ヨルの刺突よりも遅い攻撃を避けることなど造作もないらしい。



「またモンスター二体! 俺が処理する」


 薙刀で角鹿を弾く音が遠くまで反響しているようで、戦闘中に何度も横やりが入る。

 その度にメアとヨルは一人で相手をすることになったが、どちらも危なげなく対処できている。

 これなら作戦通りに事が運ぶだろう。


 緩みそうな口元を引き締め直し、再度叫ぶ。


「右奥からモンスターの()()!」


 いつでも対処できるように移動を開始。男とモンスターの群れ、どちらも視認できる位置を確保する。


 そうしてやって来たのは()()()()

 男から少し離れたアルは、先頭の狼目掛けて剣を突き出した。




「ガハッ――」


 それはヨルが刺突を繰り出した直後だった。

 突然、脇腹を深くまで引き裂かれた男が大地に膝を付ける。


 ――予想外の攻撃。


 致命傷となる一撃により精神異常を引き起こし、角鹿が霧散する。

 四体のモンスターを処理したアルは男の前に立つ。


「モンスターには気を付けるんだな」

「モン……ス……ター、だと……!?」

「ほら、そこに居るだろ? モンスター」


 視線の先には一メートル中ほどの、美しい銀の毛並みをした狼の姿があった。


 息も絶え絶えといった男はそのまま地面に倒れ伏す。


「もう見えないか」


 アルはひと思いに男の首を刎ねた。




「どうやら作戦がうまくいったようじゃな」

「あぁ。これでこっちの戦力を誤認させることができる」


 人の姿と言えど、神獣が本気を出せばこの男では太刀打ちできない。防戦一方になり、やがては致命打を受けることになるだろう。

 魔力消費を抑えると同時に、端的に言ってしまえば手加減をしていたのだ。


 角鹿からこちらの情報が洩れたとしても、強敵に成り得るのは神獣相手に巧く立ち回っていたメア一人。

 それでも突破口がない体を装っていた為、さして脅威にはならないという印象を植え付けるだろう。


「リル、角鹿に姿は見られた?」

「ううん、あっち向いてた」

「再召喚も必要なかったし、作戦は大成功だな」



 神獣の存在を隠し通せたことに満足したアルは、死体をまさぐり封印石を探すのであった。

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