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44話 監視

 目を覚ましたアルはそのまま天井を見つめていた。

 何をするでもなく、ただただ呆けたように視線を向け続ける。


 いつもなら上体を起こし、軽く体を伸ばす。そうしているうちにメアたちも目を覚ます。

 しかし、今朝はいつもと様子が違っていた。


(魔力供給量が低下してるんだろうな)


 メアたちが起きてこない理由はすぐに見当がついた。

 頭は正常に働いている。存外、今のアルでも冷静に状況を分析できるらしい。

 だが、心だけはどうにもならなかった。



 癒えたと思っていたものはまだそこにあった。

 それに蓋をして見えないよう隠していたのだと今になって気付く。


 なぜイクス村に留まっているのか。

 急がずとも日没前にはエリアルに到着する距離であり、普段のアルなら先に進んでいる。

 そうしなかった理由を今はっきりと理解した。



 自分がどうしたいのか。

 どうすべきだったのか。

 正解なんて無いのかもしれない。

 何をしても後悔するだけかもしれない。

 しかし、このままでいいのだろうか。

 いつかは折り合いを付けなければならない。

 そんな事は分かっている。


 冷静な頭で考えるが、その答えをアルは持ち合わせていなかった。



 【生命の躍動】に意識を傾ける。強く、それを意識する。

 その場しのぎにしかならないことは分かっていた。それでも思考を前向きにすることで何かが変わるかもしれない。


 強く、強く。



 願いを込めて――。




------




 教会本部では枢機卿たちが一堂に会していた。

 全員が席に着くと、聖王の言葉より先にマクシムが切り出す。


「始める前にひとついいかな?」

「聞こうか」


 聖王フロージ・クリストファーが先を促す。


「たぶん、としか言えないんだけどさ。最近、かぎまわってる奴らがいるっぽいんだよね」


 周囲がざわつく。

 フロージに根拠を問われた彼は、周囲の様子を気にすることなく軽い口調で答える。


「ここ数日、野良猫が増えたと思わない? いきなりみんなが集まってきたから怪しまれてるんだと思う」


 街中を野良猫がうろついていても不自然ではない。ゴミを漁る者同士、烏と喧嘩をしている場面に出くわすこともある。

 猫は街に溶け込んでいるため、尾行などにはうってつけの召喚獣だった。


「根拠、としては少し弱い。皆はどう思う?」


 それぞれで意見を出し合う。


 野良猫が増えたという感覚に同意する者はいなかったが、それでも神獣の存在が世間に公表されてすぐに枢機卿が集まったことを怪しむ人物がいるという意見には賛同する者が多い。


「警戒するに越したことはない。気取られぬよう迂闊な行動は慎むように。特にテュルティ」

「はーい」


 気のない返事でその場をやり過ごすことにしたテュルティ。

 心ここにあらずといった様子。


 しかしそれはテュルティに限った話ではなく、この会議に意味を見出せない者が多数を占めていた。

 解決策などどこにも無く、迂闊に動くことで却って疑いを深めることになる。


「そもそもこの会議に意味はあんのか? 何しても逆効果だろ」


 全員が大なり小なり思っているであろうことをディルム・ジルソールが突き付ける。

 ここまで大ごとになってしまった以上、神獣の存在を隠し通すことなど不可能。

 ならば召喚獣を封印する技術と、それを可能にするケルベロスの存在を秘匿するのが関の山。


 会議に身が入らないのは仕方のないことであった。



「どうやら勘違いさせてしまったようだ。神獣の露見はきっかけに過ぎない。私はこの会議で後継者を決めてほしく思っている」


 ざわつく周囲をスキルヴィングが諫める。


「皆の者、落ち着くように。……聖下、ご自身でお決めにならない理由も含めて話していただけますか?」


 静まったのを確認したフロージは、周囲を一瞥してからゆっくりと口を開く。


「私はもう長くはない。私が指名すると、恐らく反発を生むであろう。ならば先に、皆に納得のいく形で決めてほしい」

「そのようなことは――」

「私は次代の聖王にリーブルを推薦したく思っている」

「――なっ!?」


 立ち上がるスキルヴィング。

 一番の動揺を見せる彼はそのまま反対の意を唱える。


「お言葉ですが聖下! 彼の者は危険過ぎます! 思想が偏りすぎている」


 フロージは片手を挙げて落ち着くよう諭す。


「では聞くが、この中にあちらへと渡れるほどの者がいるというのか」

「それは――」

「かれこれ数百年、そのような人物は現れてはおらん。状況は差し迫っている。このままではダンジョンを閉じる者が現れる日も近いだろう」


 静まり返る室内。

 その沈黙をテュルティが破る。


「ロプトならいけるんじゃない?」

「僕かい? 僕はちょっと自信ないなぁ。それより、ヘズリム猊下はどう?」

「俺か。十数年前に聖下と踏み入ったことはある」

「どうだったの?」

「吐いた。半日も持たなかったな」

「ヘズリム猊下で無理なら、やっぱり僕も無理だろうね。そもそも精霊との親和性と魔力量を両立してるのって、やっぱりテュルティじゃない?」

「あたしはダメダメ」

「あはは。言うと思った」


 スキルヴィングが咳払いをし、軽くなった空気を再度引き締めようとする。


「私はマクシムが指名されると思っていた。将来性を考慮するなら一番の適任。聖下、ご再考のほどを」

「それを決めるのは私ではない。私の意見はひとつの参考として、皆で決定してほしい」


 全員で決めたという事実を作ることで、自身の死後、要らぬ諍いを起こさぬようにと配慮するフロージ。

 しかし、彼はリーブルが次代聖王になるよう誘導していた。

 聖王の言葉はそれほどまでに重い。


「少し疲れた。私は先に失礼させてもらうとしよう」

「聖下、お供いたします」


 フロージに付き添い、スキルヴィングも退出。

 そのまま会議は続いたが、話は平行線を辿る。




------




 グルーエルはエリアルの街でアルたちの到着を待っていた。


「やっぱり見付からないね。もう到着しているはずなのに」


 タガラの能力でアルを補足していたが、ラルの街で視て以降消息が掴めないでいた。


「彼の身に何かあったのでは?」

「その可能性は低いかな。たぶん、進路を変更したんだろうね」


 思考を巡らせてみるが、どれも可能性としては弱い。


 ガンドルを出た彼らはまた人数が増えていた。

 そして封印石という、神獣を封印することのできる石の存在。

 恐らくダンジョン奥地には神獣が封印されている。それを彼らが解いて回っているのだとグルーエルは推測する。


 神獣が少なくとも二体。

 そんな彼らを害せる者が存在するとは思えない。

 何らかの理由でエリアルを後回しにすることにした。が、その理由は定かではない。


「ダンジョンが目的では無かった、というのは?」

「それも考えられないかな」

「ですよね。直前まではエリアルに真っ直ぐ向かってましたもんね」


 直前で進路を変更する意味。こちらの動きを察知された可能性はある。


「タガラはどう思う?」

「私の能力を看破できる者などいないだろう。私の知り得る限り、監視者より優れた捜索能力は存在しない」


 この世に存在する全ての烏の目を通して視ることができる能力。

 それは他者が召喚した烏の目でさえ能力の範囲内に収める。

 カトラス家が代々受け継いできた神鳥、八咫烏の加護である。


「エリアル……直前で……」


 考え込むゲルド。

 その様子に気付いたグルーエルが声を掛ける。


「どうしたんだい?」

「いえ、関係あるかは分かりませんが、エリアルの領主ってヴォルテクス家でしたよね?」

「そうだね。それがどうかしたのかな?」

「確か、ヴォルテクス家は子供が四人居たはずです。長男は王子たちに指南していると聞いています。長女は既に嫁いでいますし、次男は賊の討伐などで何度か手柄をあげていたかと」

「つまり、大々的に功績を吹聴しているヴォルテクス家の三男だけは何も情報がない、と」


 グルーエルは暫く考え込むと、顔を上げてゲルドに告げる。


「大手柄かもしれない。少し、調べてみようか」



 こうしてグルーエルはカトラス家が治めるノマクサの街へと戻ることにした。

少しずつ書き溜めていた過去話を投稿している間に書きあがったので投下。

4日ではなく5日連続更新になりました。

また低速更新に戻ります。よろしくお願いします。

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