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22話 開花

 剣戟を重ねるアルとカルロス。お互いの力が拮抗し、その一撃の威力は凄まじい。

 武器が耐えられる限界を超えていると判断した二人は手数で勝負をしていた。


「やっぱり強いじゃねーか!」


 嬉しそうに剣を振るうカルロス。


 二人の力は互角だった。

 速度で勝るアルだが、リーチと剣術の腕はカルロスが上回っていた。


「そりゃどうも!」


 リーチ差を埋めようと【俊足の極】を強く意識し、距離を詰めるアル。

 

「おっと!?」


 突き出された短剣。その刃先を狙い、剣を滑らせるようにして軌道を逸らすカルロス。

 距離を詰めることには成功したが、体勢を崩されたところへカルロスが前蹴りを打ち込んできた。

 咄嗟に左腕で受け止めつつ、威力を殺すようにして飛び退く。


 勝負は仕切り直しとなった。


 距離を詰めようにも体術まで駆使してくる相手に攻めあぐねる。

 カルロスは戦闘に慣れていた。


「どうした? もう終わりじゃねぇよなぁ?」


 横目でリルの方を見る。

 先ほどから火球が飛び交っている中、リルも攻めあぐねているようだった。

 老人はローブの中にも精霊石を隠していたようで、はだけたローブの隙間から鈍く光る精霊石が見えた。


 いや、これは精霊石ではない。召喚石と呼ばれていた物だった。

 辺りには十数体の召喚獣が駆け回っている。老人が放つ魔術はその召喚獣にも命中するほどに手当たり次第といった様子。


 やはり組織の人間。

 召喚獣を道具としか思っていないのだろう。


「よそ見してんじゃねーよ!」


 こちらの射程を意識しつつ袈裟に振るわれた剣を躱す。返す剣を受け止め肉薄する。


「お前らのやり方には反吐が出る」


 口も態度も悪いカルロスだが、どうにも悪人には思えなかった。

 それはそこの老人や、ナレク村付近で襲ってきた男たちとはどうも毛色が違うように見えた。

 ただ、アルがそう思っただけで、それは勘違いだったようだ。


「俺はただ、強いやつと戦いたいだけだ!」

「召喚獣を奴隷のように扱いながらか?」

「? なんの話だ?」


 そんな時、一際大きな音がした。

 音のほうを確認するアルとカルロス。


「レオ!? 大丈夫か!?」

「よそ見してんじゃねぇよ!」


 アルは怒りに任せてカルロスを蹴り飛ばした。

 シーレの能力で確認したアルとは違い、カルロスは一瞬目を離した。その隙をついた形だが【力の象徴】への意識が薄れていたため、ダメージはそこまで入っていないだろう。




 土煙の中から顔を出すレオ。

 微かな光と共に、その姿を変える。


 三メートル近い巨体に黄褐色の立派なたてがみ。

 群れの長としての威厳を漂わせる姿は王者としての貫禄を見せていた。


「そいつ……そんな強いのかよ」


 蹴り飛ばされたカルロスが立ち上がり、呟く。


「メア!?」


 大きな獅子がメアを襲う。

 薙刀の柄で受け止めるも、勢いよく弾き飛ばされるメア。

 その圧倒的な存在感は、まさしく神獣のそれであった。


「あーあ。どうなっても知らねぇぞ俺は」


 薙刀の柄がくの字に大きく曲がっている。

 あれ程までに太く、丈夫な薙刀がだ。

 いったいどれほど重い一撃だったのか。


「良い一撃であったぞ」


 立ち上がるメア。無事なようで安堵するアル。


「どうやらきつい仕置きが必要なようじゃな」


 そうしてメアも姿を変えた。


「おいおい、マジかよ」


 狼狽えるカルロスであったが、その目は少年のように輝いていた。


「やはりそやつであったか。カルロス、早く仕留めろ!」


 老人がこちらを見やる。


「てめぇは黙ってろ!」

「なっ!?」

「この戦いを間近で見れんのかよ」


 まるで子供のような顔付きで、カルロスは二体の神獣に釘付けになった。


「育ててもらった恩義を忘れるとは。一体誰のお陰だと思っている!?」

「うるせぇよ。確かに俺は孤児だ。育ててもらった恩義はあるが、それは孤児院と、それを経営する教会に対してだ。てめぇに恩義はねぇよ」


 二人の関係性が見えてきた。

 そして、組織とやらは教会のようだった。

 それは教会全体なのか、派閥なのか。はたまた個人なのかは分からない。


 しかし、今考えるべきは――。


「メア! 大丈夫なのか!?」

「手を出すでないぞ。これは妾がやらねばならぬ」


 言うなればこれは頂点を争うための闘い。

 一対一で雌雄を決する必要がある。


「こんな輩が出る程に、妾は長い間閉じ込められておったようじゃな」

「ネメアの獅子様、ですか。お久しゅうございます」

「すまんが妾はお主を個として認識しておらぬ」

「私は唐獅子(からじし)。あなたが姿を消されたので、一族を纏めさせていただいた者です」

「そうであるか。ならばその座、退いてもらうぞ」


 こうして神獣二体の熾烈な闘いが幕を上げた。




 圧倒的質量から繰り出される攻撃により大地が揺れる。その巨躯からは想像できないほどの速さで動く二体の獅子。いくら大広間といえど、巨体を動かすには狭すぎる空間。

 そして、ここは入り口に近い場所。当然にして、周囲は脆くも崩れ始める。


「リル! 一旦外に出るぞ」

「わかった」


 ここに居ては巻き添えを食らうと判断。二人は外へと出る。


「勝手なことばかりしおってからに」

「おい、崩れる前に俺らも外に出るぞ」

「奴を倒す機会を棒に振る気か!?」

「俺は護衛として雇われただけだ。それ以上でもそれ以下でもねーよ」


 老人の首根っこを掴んで無理やり外に連れ出すカルロス。


 周囲の木々を巻き込みながら沈下していく大地。入り口の場所が分からぬほどに崩れ去る。


 そこに石礫(セキレキ)を撒き散らしながら二体の獅子が飛び出した。


「もう少し距離を開けよう」


 地面を蹴るたびに飛び散る礫。まさに頂上対決といった具合で、とても割って入れるような状況ではなかった。



 足場の不安定さなどお構いなしにぶつかり合う。殴り飛ばされた巨体にぶつかった木々が薙ぎ倒される。


「こいつらマジですげーな」

「いつまで掴んでおる! 早く奴らを殺せ!」

「それは俺の仕事じゃねーよ。あと、妙な真似はすんなよ?」

「この役立たずめがっ!」


 カルロスはこの闘いを見守るようだ。


 世界に隠されてきた神獣。

 その神獣同士が戦う姿など、滅多に見られるものではない。


「メアは、すごいね」


 リルも興味有り気に闘いの行方を見守っていた。

 それは両者が交互に殴り合うという、どちらも一歩も引かぬ泥臭い闘いに発展していた。


 引いた方が負けとでも言わんばかりのプライドを懸けた闘い。


 お互いの気迫が――。

 (ほとばし)る闘争心が――。

 我こそが絶対の王者であると主張していた。


「リルも凄いと思うけど」

「そうじゃなくて」


 言葉少ないリルの言わんとしていることは解らないが、自分よりも大きな相手に一歩も引かないメアの気概あふれる姿は尊敬に値する。


「よくみて」


 お互いに殴り合い、その姿は傷だらけになっていた。

 しかし、リルが言うようによく観察すると、劣勢と思われたメアの傷が浅い。

 相手には大きな傷が目立つ。


 暫く観察すると、その理由がはっきりと見て取れた。

 メアだけ傷の治る速度が尋常ではない。それはどんどん加速するように、治癒速度が上昇しているように見えた。


「これは……」

「たぶん、覚醒」


 召喚獣が覚醒するという話は聞いたことがないが、思い当たる節はあった。

 モンスターや召喚獣に稀に見られる特殊な力。自分よりも優れた相手に立ち向かうとき、それは逆境を跳ね除ける力となって現れる。


 それが今まさに開花しようとしていた――。

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