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20話 教会

 オルラント王国。

 来年、建国から九〇〇年目を迎えるこの国は、元々は平凡な小国であった。

 それが広大な領土と人口を有する大国にまで成長したきっかけはダンジョンである。


 そこから産出される魔鉱石の力をいち早く利用し、軍事的にも経済的にも大きく発展。そして周辺国家に攻め込み、時には経済的に支配しながら領地を拡大。

 今ではダンジョンのある地すべてを領内に治め、大陸の覇権を確立していた。



 そんなオルラント王国には他の地では見られない珍しい組織があった。


 ――聖王教会。


 人々に教会と呼ばれているその組織は、聖王を信奉する者たちが集まって結成された組織である。

 元は初代聖王が建てた孤児院から始まったと伝えられており、それはこの国の各地で今もなお続いている。

 ダンジョンのあるこの国特有の組織と云えよう。


 そして教会の目的は聖王の生まれ変わり、もしくはそれに準ずる者を探し出すこと。

 神託の儀とはその一環なのである。





「さぁ、落ち着いてこの石に触れなさい」


 親に付き添われた八歳前後の子供たちが一組ずつ聖堂に入り、精霊石に触れる。


「君は精霊との親和性が高いようだね」

「あの、詳しく視てもらえないでしょうか」


 精霊の存在は四種確認されている。

 相性の問題もあるので、親としては詳しく調べてほしいと思うのは当然であった。


「では、心付けを」


 後ろに控える司祭が一歩前へと出る。

 金銭を受け取ると、後ろへと下がる。


「一度、心を落ち着けてゆっくりと呼吸をしなさい。意識を集中して。では、石に触れなさい」


 しばしの沈黙の後、司教は口を開いた。


「水の精霊との相性が良い。火と地はあまり宜しくない。あと、多少ではあるが闘士の資質も持ち合わせているようだ。全体的にバランス良く伸びるだろうが、あまり期待してはいけない。地道に精進しなさい」


 心付けの額が大きいほど、より具体的に導いてもらうことができる。

 その内容に満足した親は深く頭を下げた。


「ありがとうございます!」


 そうして親子は聖堂を後にした。



「次で本日、最後になります」


 神託の儀は朝、昼、夕の三回に分けて行われる。

 それぞれ一時間ほどで終了するため、毎日行列ができていた。



「落ち着いてこの石に触れなさい」


 最後は十歳くらいの子供。この年齢になると、外れることはまず無い。


「これは……。君は、召喚士としての資質があるようだね」

「ありがとうございました」


 その親子は詳しく視てもらうことなく聖堂を後にした。

 子は嬉しそうに「何にしようかな」などと、ペットでも飼うかのようにはしゃいでいた。




 本日の儀を終えた司教は告げる。


「明日から暫くの間休養を取る。後の事はノルディ、お前に任せる。それと、今の者に監視を付けろ」

「仰せのままに」




------




 大事件から三日後。

 モンスターの間引きは順調そのものだが、今日は休息を兼ねて武器屋に寄ることにした。

 武器のメンテナンスを頼むのと、防具を新調するためだ。


 意識を集中させるためには万全の精神状態を維持することが重要である。

 なので、不意の攻撃を受けたりなどで怪我をしないよう念を入れる。錯乱状態に陥ると、召喚が解除されてしまうくらいには繊細な技術なのだ。

 もっとも、召喚している状態が常のアルにとっては関係のないことなのかもしれないが。



 お目当てはウインド・シェルという精霊石が埋め込まれた胸当て。風の力により衝撃を和らげてくれるという、精霊防具で一番人気のある品だ。なので商品自体は必ず置いてある。

 それと、靴と皮手袋もそろそろ買い替えないと擦り切れてしまう。

 この際、上等な物を揃えるのもいいだろう。


「やっぱり高いなぁ」


 精霊武具は高い。胸当て以外も揃えようと思えば結構な出費になる。

 維持費のことを考えると、そう簡単に手を出そうとは思えなかった。


 冒険者の中には無理して買ったはいいが、維持費が捻出できずに精霊石が砕けたまま着用している者もいるくらいだ。そうなると、ちょっと質の良い防具程度に成り下がってしまう。

 しっかり検討してから購入するべきだろう。



 不必要な精霊武具、及び精霊石の購入は推奨されていない。それには正当な理由がある。


 魔鉱石や精霊石は常に光を放っている。そのため中に込められている魔力を常に消費しているのだ。

 使用していなくともそのうち自然と砕け散る。質の悪い魔鉱石が二束三文なのはそのためである。

 良質な魔鉱石なら数年、あるいは数十年放置しても問題はないのだが。


「これなら胸当てのランクを上げた方が良さそうだな」


 精霊武具は使用される精霊石の質により値段が大きく変動する。


 魔鉱石を削りながら加工される精霊石だが、腕の悪い職人がやると、加工途中で割れることがある。下手をすれば全ての魔力が漏出し、塵となって消えてしまう。

 良質な魔鉱石ほど魔力の含有量が多く、加工するのが難しい。同じ形をしていても、精霊石の性能はピンキリなのだ。


 その性能差を人が判別するのは非常に困難で、魔鉱石の鑑定よりも難易度が高い。なので加工も鑑定も土の精霊の力を借りて行う。

 職人の腕の差が色濃く表れる重要な部分である。



 結局、靴も皮手袋も上等な物を選んだが、精霊防具は胸当てだけにした。

 不意の攻撃に備えるという点で優れているのと、どんな状況でも一定以上の効果が得られるからだ。

 その使用回数が増えるほうがいいだろうと判断。一番高い物を選んだ。




 昼も近いので街を散策しながら手頃な店を探す。食性の違う三人が食事をするのは案外手間が掛かるものだ。

 出店で各自好きな物を買うのが手軽なのだが、今日は時間に余裕があるので落ち着いて食事を楽しむことにしたアル。休息日に休息できないのは本末転倒である。


 それに、時間がある時にこそ新しい店の開拓をしておきたい。大きな街なので店舗数が多く、いろいろな料理が楽しめることだろう。



 そうして入った店には知っている男がいた。グルーエルだ。

 五人でテーブルを囲んでいるようだが、その中に見知らぬ男がひとり。

 黒目黒髪で線の細い見た目をしているが、背丈は隣に座るグルーエルよりも少し高いだろうか。

 ギルドではまだ見掛けたことはないが、とても強そうに見える。


「まだ諦めてないんだな」


 グルーエルも兵士たちがどうなったのかは知っているはず。それでも人を集めるのは余程の自信があるのか。

 信頼関係はそう簡単に築けるものではない。ただ人を集めただけでは烏合の衆にしかならず、お互いに足を引っ張ることになりかねない。アルはそれを身をもって経験しているのだ。



 グルーエルもこちらに気付いたようで、お互いに片手を上げて挨拶をすると、それ以上は干渉せずに食事を続けた。


 料理は可もなく不可もなくといった感じで普段利用している店と大差なかった。

 品揃えが多少違うので、気分によって変えればいいだろう。



 その後は街の散策を再開し、別の武器屋にも足を運ぶ。数件見て回ったが、やはり大きな店のほうが安心感があった。


 商品の良し悪しはアルには判らない。

 見慣れた魔鉱石でさえおおよその判別しかできず、自信を持って値を付けることなど出来はしない。

 良く見えるようで実は粗悪品だった、なんて話も聞いたことがある。

 商品の質が安定しないのは信用問題に関わるので、大きな店ほどしっかりしているだろうってだけの話だが。




 日が傾いた頃、ギルドに顔を出した。

 掲示板を確認すると、ダンジョンについての注意事項が掲載されていた。


 要約すると、自身の力量を自覚して無理をしないように、といった内容だろうか。兵士たちの身に何が起こったのかについては触れられていなかった。

 今回の探索は大失態であり、それは兵士のみならず、国の沽券に関わると判断したのだろう。

 予想していた事ではあったが、やはり自分の目で確かめるしかないようだ。



 明日はもう少し奥へと潜るため、今日は早めに就寝することにしたアルたちであった。

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