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17話 展望

 この一週間、内部の把握と魔鉱石探しはどちらも順調に進んだ。手前側は網羅したと言っても過言では無いだろう。

 稼ぎも申し分なく、金銭的にも余裕が出てきた。なので武器の新調をしようとしたところ。


「妾はこれで充分であるぞ」


 メアの使用する薙刀は、破壊力だけなら精霊武器にも引けを取らない威力を誇る。

 それを扱えるメアが異常なだけであって、むしろ耐久力の面で圧倒的に勝ることから遠慮せずに振るえるという強みがあった。


 対してリルの武器は完全に安物。なので新調を勧めるのだが――。


「わたしも、これでいい」


 大人しい性格に反してリルは強情だった。

 狼の姿で戦えば問題は無い。それよりアルの方こそどうにかするべきだと諭される始末。

 そう言われると、アルには返す言葉がなかった。


 なので、アルは片手剣を特注することにした。それが昨日の出来事である。




 そして今日、待ちに待った兵士たちがダンジョンに潜る日がやってきた。

 街は歓喜の声で溢れている。不満を漏らすのは冒険者くらいだろうか。


 大量の魔鉱石が街に持ち込まれることにより、一時的に相場が下がる。そうすると、生活に欠かせない精霊石の値段も必然的に下がることになる。

 タダ飯食らいと陰で揶揄されるような存在が、目に見える形で街に恩恵を齎すのだ。それは庶民の不平不満を解消するための手段としても効率がいいだろう。

 つまり、冒険者以外の庶民にとっては喜ばしいことなのである。


 圧倒的支持の下、三六名の兵士たちは北門を潜り、【奉仙峡】へと向かった。




 悟られないよう細心の注意を払いながら後を追うアルたち。

 まさしく山を越え谷を越えやってきたその場所は、通常では見付けられないであろう深い所にあった。


 高低差が激しいために迂回しながら進んでいたが、メアならその必要はないだろう。

 細かな道順を覚える必要も無く、ほぼ真っ直ぐ突き進むだけで辿り着ける。そんな場所だ。



 兵士たちは小休止を挟んだ後、ダンジョンへと潜った。少し間を置いてからアルたちもそれに続く。


 最初に目に映ったのは大きな広間だった。

 その壁の上部にぽっかりと開いた穴が入り口となっている。そこから崖のようになっているが、左側に小さな階段状の段差があった。

 恐らく土の精霊の力を借りて作ったのだろう。ここまでしっかりしたものを作るとなれば、相当な術者か、もしくは上位の召喚獣によって作る必要がある。


 この日のために用意したのだろう。ありがたく利用させてもらう。



「おっ、この魔鉱石はかなり質が良さそうだな」


 そうして兵士とは逆方向にある道を進むとさっそく見付けた。ギルドで聞いたとおり、奥の入り口の利用者はいないみたいだ。

 幸先のいいスタートを切れて満足気なアル。奮発してもっといい武器を買っても良かったなと欲が出てくるほどだ。


「機嫌が良さそうじゃな」

「短時間でこれなら期待できそうだからな」

「お主と出逢った場所にいくらでもあったじゃろうて」

「あの時はまぁ……変なのに絡まれたくなかったからな。でも、もうそんな事を言ってる場合じゃないのかもしれない」


 目立った行動を取らなくても襲われる。それに、狒々の言っていた奴らという組織。

 強制的に契約させられた神獣が他にも居るだろう。

 できることなら助けたい。そのためにはどうしても強さが必要なのだ。


 さすがに国やギルドから目を付けられない程度には抑えるつもりではある。


「狒々の言った事、気にしておるのか?」

「そうだな、何とかしてあげたいと思う。組織を相手取るには俺一人の力じゃどうにもならないけど、神獣の力を借りれば何とかなるかもしれない」

「それは妾も賛成じゃ。奴らのやり方は気に食わん」


 神獣という強大な力。

 組織により巧妙に隠されてきた存在。

 それを封印することで誰も召喚できない状態にし、存在を知る者は消していく。そうして長い年月をかけて、人々の記憶からも忘れ去られることになる。

 それをやってのけるほどの組織。アルが立ち向かおうとする相手の脅威度は計り知れない。


 メアたちを封印したのもその組織なのだろう。


「今はまだ組織と事を構えるのは避けるべきだろうな」


 神獣の存在が露見すると、恐らく組織に目を付けられる。それだけは避けたい。

 まずはアル自身が強くなる必要がある。


 神獣と契約すればするほど強くはなるが、魔力がどれだけ持つのか分からない。

 それら全てをアル一人で賄わなければならないため、途方もない量の魔力が必要になる。

 召喚士としての鍛錬は大事だが、魔力を捻出できない場合にも備えたほうがいい。装備の充実を図るのはその一環である。



 まずは資金の調達。そのために魔鉱石を探している訳だが、あれから質の良い物は見付かっていない。そこそこ以上の物なら何度も見掛けたが、より良い物をと放置してきた。

 帰りに充分な数の魔鉱石が採れるのを見越してのことだ。


 そうやって進んでいると、身に覚えのある構造をシーレの能力で捉える。この先は西側の入り口へと続く道。時間的には少し早いが潮時だろう。


「そろそろ折り返すか」


 進むより戻ったほうが金銭効率がいい。それに、別の道から帰ることで内部をより正確に把握することができる。

 アマツキの街から奥の入り口までの道を、もう一度確認しておくことも重要だ。




 帰りにいくつかの魔鉱石を採取する。

 これだけでも三日分の稼ぎにはなるだろう。手前側ではなかなかお目に掛かれない品質だ。

 初めに採取した魔鉱石の値がどれ程になるかは判らないが、明日も同じ稼ぎを叩き出せれば精霊武器を買えるくらいにはなりそうだ。


 文句の付け所のない稼ぎではあるが、一つだけ懸念があった。冒険者に難癖を付けられる可能性だ。


 ここ一週間、他の者よりも明らかに稼ぎがいい。アマツキに来たばかりの新参者がだ。

 つまりそれは、自分たちの稼ぎが減るということ。不満も溜まろうというもの。

 そして今日。これだけの魔鉱石を鑑定に出している姿を見て、暴発する輩が現れないとは言い切れない。


 何か対策をとる必要がありそうだと思案しながら帰路につくアルであった。




------




 報告を受けた男は焦っていた。

 どこの誰かも分からぬ者に、石が奪われた可能性が出てきたからだ。


 ブルガルドはナレク村にほど近い森の中で死体となって発見された。

 近くの街道には戦闘の痕跡。神獣を隷属していたはずの男が殺されたのだ。


 これがつまらない策略によるものならば、まだ救いようがある。

 しかし、正面切っての戦闘で負けたとすると、相手はどれほどの強者であろうか。

 そしてその者が石を手にした場合、取り返しが付かなくなることだろう。


「周辺の街の往来を調べろ。その中に必ず居るはずだ。徹底的に洗い出せ」

「仰せのままに」


 部下が退出したことを確認すると、男は頭を抱えた。

 どうしてこんな状況に陥ってしまったのか。ブルガルドという天才を見付け、それに固執してしまったのが原因か。


「さすがに私の手には負えない状況になりつつある」


 男は天を仰ぐ。

 いつまでも隠し通せると思うのは楽観的だろうか。

 しかし、男にも野望はある。いくつ歳を重ねようとも色褪せることはなかった。


「ブルガルドの成果を手土産に命乞いでもするか? いや、今の私は正常な判断ができていないな」


 それで許されるはずがない。

 そもそも、この知識は男の切り札である。


「少しばかり危険を伴うが、致し方あるまい」


 男は手紙をしたためると、その部屋を後にした。

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