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13話 西へ

「これにする」

「こっちのが良くない?」

「これがいい」


 アルたちは今、リルの武器を買うため武器屋に来ていた。


 賊を憲兵に引き渡して得た褒賞金と、魔鉱石の代金を合わせて受け取った今のアルは小金持ちである。

 なのでもっといい武器をとアルは奨めたが、リルは安物を欲しがった。


 メアと同じく少し珍しい武器で、小太刀がお気に入りだそうだ。

 この国では両刃の武器が好まれる傾向にあり、片刃の小太刀は使用者が少ない。

 両刃の短剣ならもっと良い物があるので、アルはそれを奨めたのだが断られてしまったというわけである。


 次の機会があればオーダーメイドで上等な武器を買おう。そう思いながら会計を済ませ、店を出る。

 代わりにと言う訳ではないが、例の高級店へ向かう。

 明日にはこの街を出る予定なので、最後に良い物をと思った次第である。



 やはりと言うべきか、メアはマロンケーキを注文。栗が大の好物らしい。飽きるまでずっと頼んでいそうだなとアルは口元を緩ませた。

 リルは果物が好物のようで、フルーツタルトを注文する。

 二人とも食が細いのか、食べる量は慎ましい。

 それに対してアルはというと、今日は贅沢をしようとサイドメニューまで注文していた。


 ケーキを食べるメアは頬を緩ませていたが、リルの表情はあまり変わらない。その顔から感情を読み取るのは難しいが、とても満足だったらしい。




 宿に戻って一息つくと、アルは今更ながら疑問に思ったことを口にする。


「そういや二人とは意思疎通できないみたいだけど、何か知ってる?」


 シーレと意思疎通を図るように、感情の読み取れないリルとの意思疎通を試みたアル。しかし、彼女の感情は読み取れなかった。


「妾らは言葉を使って意思の伝達を行っておる。幾千年の時をそうして過ごしてきたのじゃ。ならば退化もするであろう」


 それもそうだとアルは納得する。

 ただ、アルの感情は何となくではあるが、感じ取れるらしい。強ければ強いほど察することができるようなので、これまでを振り返り少しだけ気恥ずかしくなる。

 これからは心を強く持とうと誓うアルであった。




 翌朝、シアンたちに別れを告げるべく、少し早い時間にギルドへやってきた。


 シアンたちがギルドに寄るとは限らない。それはダンジョンに潜るだけならギルドへの報告義務は無いからだ。

 安否確認を取りやすくするために毎日報告する者もいる。そうすると何かあったとき、知り合いの冒険者に助けてもらいやすくなるからだ。

 それに、ギルドの掲示板には様々な情報が張り出される。それを確認するだけでもギルドに足を運ぶ意味は大いにある。


 シアンたちならば、毎朝ギルドに通っていることだろう。

 そうして暫く待っていると、彼らがやって来たので声をかけた。


「おはよう。今日、この街を立つことにした」

「そうか。長居しないとは聞いてたけど、思ったより早くて残念だ」

「せっかく仲良くなれたのにね~」

「またヴァンに戻って来ることになったらその時はよろしく頼む」

「こちらこそだ。メメクの情報を無駄にして悪いが、俺たちはまだこの街でやっていくことにした」


 賊も全員捕えることに成功したので、これからヴァンの街も平和になるだろう。

 暗躍していた犯罪組織も恐らく壊滅している。政敵が絡んでいるのだろうが、それを失墜させれば政策も順調に回り出す。貧民街の問題もいずれは解決を見せるはずだ。


 それをヴァンの街に戻ってきた時の楽しみにして、シアンたちと別れた。




 街を出たアルたちは西に向かって歩く。

 ここからは幾つかの街や村を経由してアマツキの街まで向かう。

 それぞれの街や村との距離はそこまで離れているわけではないので急ぐこともないだろう。


 リルは表情こそ変わらないが、その足取りは軽快だ。腰の後ろ側で横向きに差した小太刀を意識している。

 対するメアは既にマロンケーキが恋しくなっているのか、少し元気が無さそうに見えた。


「次の街にはまた別の美味しいお菓子があるだろうな。和菓子を探してみるのもいいかもしれない」


 それを聞いて表情が明るくなるメア。


「そうじゃな。色んな甘味を味わうのも旅の醍醐味じゃな」


 メアは予想通りチョロかった。

 食事代がかさむ訳でもないので手綱を握るのは容易いだろう。


 休憩を挟みつつ他愛ない話をしながら歩いていると、最初の村に到着した。


「すみません、宿をお借りしたいのですが」

「あぁ、それならあの家に行くといいよ。村長の家だ」

「ありがとうございます」


 ここから見える位置にその家はあった。

 村の規模は五〇〇人程度だろうかとアルは概算する。

 親族同じ屋根の下で暮らすことが多い村の家は、他より少しだけ大きな造りをしている。そんな家屋がそこら中に散見された。

 建物の数に比べて人口が多いのだろう。


 そんな事を考えながら村長の家の扉を叩いた。


 中から出て来たのは初老の男性。村長にしては若いという印象を受ける。

 一宿一飯の恩義にあずかれないかと、アルは事情を説明した。


「それなら空き家があるから使うとええよ。こっちきんさい」


 そうして案内されたのは近くにある小さな家。村の端の方にあり、家族構成によって家が割り当てられるシステムになっているのだろう。

 これは珍しい事ではない。

 村の住人みんなで協力して家を建てることから、家は個人の財産ではなく村の財産。快適に過ごせる広さの家に住みたいと思うのは当然で、それを成すためには効率が良い。


 そして、村は街とは異なる管理の仕方をしている。

 一番の違いは村単位で一括の徴収を受けることだろうか。

 物々交換などで金銭のやり取りを行わない村が多いため、街とは違って人口により税の額が変わる。それを取り纏めるのが村長だ。

 そのため村長の発言力が強まるのと同時に、結束力も街の住人より高くなる傾向にあった。


 そして旅人は村にとっては収入源の一つ。ここである程度のお金を落とすことで、村人の態度が変わると言っても過言ではない。


「お菓子や果物があれば頂きたいのですが」

「果物ならたくさんあるよ。ここは森の恵みも多いでな」

「助かります」


 後で用意してくれるらしいので、それに甘えることにしたアルは部屋の掃除を開始。と言っても特段汚れている訳ではなく、埃を払うだけである。

 一晩だけといえども快適に過ごしたいと思うのは人の道理。二人もそれに賛同してくれた。


 綺麗になった部屋で寛いでいると、村人が呼びにやって来た。


「食事の用意ができたから取りに来てくれんか」

「今行きます」


 そうして村長の家へと向かった。


「わざわざすまんね。うちは人数も多いから食事を摂る場所も限られてるでな」

「いえ、急に押し掛けたうえに食事まで用意してくださり恐縮です」


 幾ばくかの金銭を渡し、料理を受け取るアル。


「ええ体付きしとるが冒険者か?」

「はい、ヴァンから来ました」

「なら少なかったかの。足りんかったらパンと果物ならあるでいつでも言いなされ」

「ご厚意、痛み入ります」


 こうして村長の好意に感謝しながら夜も更けていくのであった。




------




「ヴァンから来た冒険者とのことです」

「屑どもの生き残りというわけか」


 男は顎に手を当て、暫し考える。

 こんな状況に陥ったのも、考え無しの冒険者が先走ったことが原因。それさえ無ければ露見することもなかっただろう。


「私の研究の偉大さを知らしめてやろう。監視を怠るな」

「御意」

「それに、これの試用もしておかねばなるまい」


 鈍く光る石を見て嗤う。


「明日は実りのある日になりそうだ」

実際の小太刀の刀身は60センチ前後らしいですが、リルの持つ小太刀の刀身は30センチ程度となります。

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