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12話 お金の魅惑

 まだ仄暗(ほのぐら)い空の下、王国東部にある街から一台の馬車が出立した。

 馬車には黒のローブを身に纏い、フードを深く被った男たちが乗っていた。


「余計な事をしてくれたものだ。金に目が眩んだ輩は思慮に欠ける」

「奴らに非難する口実を与えたことになります。いかがいたしましょう」

「ふん。奴らが何と言おうが関係ない。今の私にはこれがある」


 男はその手に持った鈍く光る石に視線を落とす。


「ようやく手に入れたのだ。私の功績が認められた証だ」


 奴らとやらを黙らせるに足る能力を秘めているらしい石を見て、男はほくそ笑む。


「無能な奴らなど放っておけば()い」


 男たちの乗る馬車は西に向かって進む。




------




 翌朝、アルたちは少し遅い時間にギルドへ向かった。


 例の高級店へ行こうとせがむメアを、金欠だからのひと言で一蹴したアル。事実、今は金が無い。


 質の良い魔鉱石を鑑定に出したはいいが、代金をまだ受け取っていなかった。

 昨日のうちに終わっているはずなのだが色々あって受け取るのを忘れていたのだ。



 そうしてギルドへとやって来たアルたちだが、中に入ると人だかりが出来ていた。

 昨日とは打って変わって騒がしい。何かあったのかなと様子を窺っていると、シアンが声をかけてきた。


「おはよう。昨日はよく眠れたみたいだな」

「お陰様でな。それより何かあったのか?」


 人だかりが出来ている掲示板を指して問う。


「少しややこしい事になった。賊討伐に参加しろって話だ」

「なんでそんな事になってるんだ」


 これはギルドからではなく、領主のお触れだろうなとアルは推測する。

 ギルドにそこまでの権限はない。つまりは上からの指示だろうが、相手は冒険者。素直に従うとは思えない。

 のらりくらりと理由を付けてサボるのが冒険者なのだ。


 シアンの話によると、組織と関わりのある冒険者が森の奥へ逃げたらしく、その捜索と討伐が目的らしい。

 冒険者の不始末は冒険者で付けろということだ。


 そしてギルドは冒険者の預金を(しち)に取った。

 なんたる悪辣非道なことかと金欠なアルは思ったが、そもそも自分のせいなのだから文句を言える立場ではなかった。


「つまりこれは強制参加か」

「だな。不参加だと周りから袋叩きだろうな」


 そう言って苦笑するアルとシアン。両者の表情の意味は少しだけ違っていた。




 程なくして兵士の一人が現れ、目的の場所まで先導する。


「ここより奥へと散った痕跡が見付かっている。やり方までは問わない。各自、好きに励むように」


 それだけ伝えると、兵士は街へと戻っていった。


 監視すら必要ないと思っているらしい。

 預金を質に取られている今、お互いがお互いを監視している状態と言える。

 不真面目な冒険者は森の奥。そして、ここに居るのは真面目な冒険者の集まりだ。確かにこれなら兵士が居なくても問題ないのだろう。


 しかし、必死の抵抗が予想される。こちらも無傷とはいかないだろう。

 蜘蛛の子を散らすように逃げていった賊も、再び集結している可能性が高い。武器を置いたまま逃げた者も多かったのが救いか。



 そうして奥へ進んでいく冒険者たち。それは纏まりがなく、兵士の言ったように各自で好きにやるようだ。

 シアンたちも同意見らしく、軽く言葉を交わすとそのまま森の奥へと消えていった。


冒険者(自分)の不始末は冒険者(自分)で付けろ、か」


 アルは自分に言い聞かせるように呟くと、意識を集中させる。

 指向性を持たせたシーレの能力で賊の集団を探した。



 高低差の激しいこの土地は隠れるのに適している。集団を探すのならともかく、少数を見付けるなら索敵能力がないと難しい。

 その点、アルにはおあつらえ向きと言えるが、これはアルに限った話ではない。

 シーレ程ではないにせよ、索敵に向いた召喚獣を従える者も多くいる。それに、風の精霊術ならばシーレと同程度の力を扱うことも不可能ではない。

 長時間使用することができないというだけである。



 暫くすると、賊を捕まえたパーティが現れた。どうやらまだ集結していないようだ。


 それにしても、一人ずつ街まで運ばないといけないのかと肩を落とすアル。運ぶための馬車くらい用意して欲しいものだ。

 しかし、賊を捕えると少しばかりの褒賞金が支払われると聞けば、冒険者に協調性などは生まれないだろう。


 かく言う金欠アルも褒賞金目当てなのだ。


「おっ、見付けた」


 崖の影に隠れるようにして移動する集団を発見した。

 何かから逃れようとする足取り。恐らく、索敵能力で冒険者の誰かが引っ掛かったのだろう。


「急ごう」


 こちらの動きに気付いた様子はない。風向きが味方している間に距離を詰める。


「……近い。わたしが、やる」

「一人で大丈夫なのか?」


 アルが言い終わる前にリルは姿を消していた。

 その数秒後、先程までアルの後ろを走っていたはずのリルを、シーレの能力で捉える。


 それは樹上からやって来た。


 何がなにやら解らないうちに倒れ伏していく影。実際に目視していたとしても、その全てを把握することは不可能だろう速さで片が付いた。



「……大丈夫、なのか?」


 現場に到着したアルは、倒れる七人の賊を見てぽつりと言う。

 先程のリルに対する問いとは違い、賊が生きているのかという意味での発言であった。


「大丈夫」


 その意味を履き違えてはいないだろうかと心配になったアルだが、どうやら生きているようだ。

 どうやったかは解らないが、全員気絶していた。


「なかなかの手際じゃな」


 リルは思いのほか器用らしい。

 全員生かしたまま捕えることに成功したため、褒賞金にも期待できるというもの。

 後はどうやって運ぶかだが。


「燃える物を集めてくれ」


 手分けして落ち葉や枝など燃えやすい物を拾い集める。アルは狼煙を上げることにしたらしい。

 集まった冒険者に褒賞金の分け前を渡すことで、物事を円滑に進める腹積もりだ。


「それならこうした方が早いじゃろうて」


 その言葉の後、轟音が鳴り響いた。

 メアは近くにあった大岩を薙刀で粉砕したのだ。


「やるならせめて先に言ってほしい」


 確かにこれならすぐに駆け付けてくるだろう。

 しかし、おおよそ人が執らないであろう行動を、突拍子も無くやられると肝を冷やす。言い訳を考えないといけないので、その時間くらいは欲しいものだ。



「すげー音したけど、もう終わってんじゃん」

「本当。少し残念ね」


 数分もしないうちに二人組の冒険者がやって来た。

 二人とも腕には自信があるのか、既に終わっていることに肩透かしを食らっていた。


「あぁ。運ぶの手伝ってくれないか?」

「ちゃんと分け前くれるならいいぜ」

「そのつもりだ」


 ギルドから拘束用の縄は支給されている。しかし、急に用立てできるはずもなく、数が足りていないのだ。

 現在、二束。取り敢えずこれで四人を拘束する。



「凄い音がしたと思ったらアルか。ファルグも」

「俺はついでかよ、シアン」


 そうこうしている間にシアンたちのパーティも顔を出した。


「七人も捕まえたのか。それにしても……激しい戦いだったみたいだな」


 つい先程までそこに存在していた大岩の辺りを見て呟くシアン。砕け散った破片を戦闘の痕跡だと勘違いしたようだ。


「まぁ……大変だったな」


 遠い目をしながら答えるアル。誤魔化すことすら諦めていた。


「気絶しちゃってるみたいだね~」

「今のうちに拘束する」

「頼む」


 シアンたちは縄を二束持っていた。これでどうにか七人全員の拘束が完了した。


「さっさと叩き起こそうぜ」

「水でもぶっかけちゃう?」


 シアンとラティはどうやら過激派らしい。これまでの恨みつらみが溜まっていたのだろうか。


「お前ら容赦ねーな」


 好戦的な印象だったファルグは穏健派のようだ。


「水の精霊よ、強い圧によりて――「待て待て待て!」」


 その詠唱にファルグが待ったをかける。


「なに?」

「お前それ攻撃術だろ。水ぶっかけるだけなら詠唱要らねーだろ」

「そう?」


 精霊術は詠唱が無くても行使できる。

 詠唱を行う意味は、その威力を大幅に上げること。ファルグの言う通り、水を掛けるだけなら詠唱など不要なのだ。


「無力化してる相手にそこまですることねーだろ」

「そう?」


 その様子を見てファルグに少しだけ親近感を覚えるアル。

 頭のネジが外れているのはどうやら人間の方かもしれない。そんな事を考えている間にラティが大量の水を掛けて叩き起こしていたのであった。

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