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「といっても、まだ全然準備を進められていないのですけれど……。何週間もラウロ様の家にお世話になってしまって申し訳ないですわ」
「いや。君は俺の呪いを解いてくれたのだから、期間など気にせずいくらでもうちにいればいい」
恐縮する私に、ラウロ様はきっぱりそう言ってくれる。そして迷うように視線を動かした後、思い切ったように口を開いた。
「……いや、呪いのことは関係ないんだ。ジュスティーナ嬢さえよければ、この先もずっとうちにいてくれて構わない」
「まぁ、ありがとうございます、ラウロ様……! けれど、さすがにずっとお世話になるわけにはいきませんわ。どうにか住み込みで働けそうなところを探してみますから、心配なさらないでくださいませ」
「いや、そうじゃなくて……」
あまりに寛大な申し出に、私は感動してお礼を言う。しかし、ラウロ様に複雑そうな顔で見られてしまった。
不思議に思って見ていると、ラウロ様は私の手を取り、そのまま両手でぎゅっと握りしめる。
そしてこちらをじっと見つめながら真剣な声で言った。
「ジュスティーナ嬢、住む場所なんて探さなくていい。学園を卒業してからも、ずっとうちで暮らせばいい。俺はこの先もずっと君にそばにいて欲しいんだ」
「え……っ、あの、それは……」
さすがにそこまでしてもらうわけにはいかない。というか、そんな言い方をされると勘違いしてしまいそうで困る。
まるでプロポーズみたいなんて考えて、慌てて首を振る。
私は頬が熱くなるのを感じながらラウロ様を見上げた。
「ジュスティーナ嬢、俺は……」
ラウロ様が真っ直ぐに私の目を見つめ、何か言いかける。
痛いくらいに心臓が早く鳴っていた。
その時、バルコニーの扉の方から、突然賑やかな笑い声が聞こえてきた。
そちらに視線を向けると、ドレス姿のご令嬢たちが数人、談笑しながらバルコニーに出てくるところだった。
楽しそうに話していた彼女たちは、私たちの存在に気づくと途端に恍惚とした顔になる。
「見て、ラウロ様とジュスティーナ嬢がいるわよ……! 尊いわ……!」
「何を話していたのかしら!? お邪魔しちゃったかしらね?」
「私たちは出て行きましょうか、お邪魔したら悪いわ」
「え、いやだ。見ていたい! ここはこっそり眺めて、目に焼き付けておくべきよ!」
本人たちは声をひそめているつもりのようだけれど、辺りが静かなので、会話は丸聞こえだった。
私はラウロ様と顔を見合わせる。
「ジュスティーナ嬢、この話はまた今度にしようか」
ラウロ様は苦笑いしながら言った。
私はほっとしたような、残念なような気持ちになりながらもうなずく。
「はい。また今度聞かせてください」
「……また言える勇気が出たときに言うよ」
ラウロ様は真面目な顔で、少し残念そうに言う。
うっとりした顔の女の子たちに見られながら、そんな会話をしているこの状況がなんだかおかしくなる。
先ほどまでの緊張感が緩んでつい笑ってしまった。
くすくす笑う私を見てラウロ様はちょっと拗ねたような顔をした後、つられたように笑っていた。




