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そんなことを話しているうちに、パーティーの開始時間になった。学園長先生の短い挨拶の後、早速音楽が流れ始める。
ラウロ様は気を取り直すように咳払いしてから、こちらに手を差し出した。
「ジュスティーナ嬢、俺と踊ってくれるか?」
「喜んで!」
差し伸べられた手に手を重ねると、ラウロ様に優しく引っ張られる。
前回よりもぎこちなさのなくなった動作でリードされ、ステップを踏んだ。
やっぱりすごく踊りやすい。ラウロ様と踊るのが一番楽しいと思った。
キラキラ光るシャンデリアに、軽やかな音楽。まるで夢の世界にいるような気分になる。
あんまり楽しくて、自然と笑みが溢れてしまった。
「君は笑うと天使のように愛らしいな」
視線が合うと、ラウロ様は目を細めてそんなことを言った。
女神の次は天使。ラウロ様の大げさな誉め言葉にはいつまで経っても慣れない。けれど、心がふわふわと軽くなる。
私は自分で思っている以上に浮かれているのかもしれない。
やがて音楽が緩やかになり、周りに目を向ける余裕が出てくると、会場の至る所から視線が集まっているのに気がついた。
やっぱりラウロ様は目立つのだろう。
頬を染め、夢見るような眼差しをラウロ様に向けるご令嬢が何人も目に入る。
きっと私は会場中のご令嬢たちから恨まれているのだろうなと苦笑いした。
さっきフェリーチェが言った通り、私とラウロ様とでは全く釣り合わないから。
けれど、私を柔らかな目で見つめるラウロ様を見ていたら、この人といられるなら多少恨まれてもいいかもしれないなんて思ってしまった。
曲が終わり、会場の真ん中から端の方へ移動する。
ご令嬢たちに睨まれるかもしれない。もしかしたら直接文句をつけてくる子もいるかもと思いながら見ていると、どうも思っていた反応と違った。
やはり注目はこちらに集まっていて、こちらを不愉快そうな目で見ている子もいるにはいるのだけれど、大部分は明らかにうっとりとした表情でこちらを見ているのだ。
「まるで絵物語のようね……!」
「王子と姫君みたい……」
「素敵……お似合いですわ……」
こちらを眺めながら頬を染めて囁き合うご令嬢たちに首を傾げる。
パーティーの華やいだ雰囲気にあてられたせいなのか、私の耳は随分と図々しい聞き間違いをするようになってしまったらしい。
ラウロ様が絵物語の王子様みたいなのはわかるけれど、というか正真正銘この国の王子様なのだけれど、私は褒められるような存在じゃない。
そのうちに、ラウロ様の周りにご令嬢たちが集まって来た。
うっとりとこちらを見ていた子たちとは別の子たちだった。彼女たちはラウロ様に甘い声で「次は一緒に踊りませんか?」と誘いかけている。
思わず止めたくなってしまったけれど、一曲目の後にパートナーを替えるのは何も悪いことではない。
むしろ婚約者以外と何曲も続けて踊るほうが問題なので、私はラウロ様に向かって伸ばしかけた手を引っ込める。




