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「十分すごい能力じゃないか。人間に効く魔法ばかりがいい魔法だとは限らないだろう?」
「そうでしょうか……」
「それに君の髪も目も美しいと思うが。髪は艶やかで真っ直ぐだし、目も深みのある色で綺麗だ。君の繊細な顔立ちによく似合う色だと思う」
彼が照れるでもなく真面目な顔で言うので、私は思わず赤くなった。
「そ、そんなことは……! 気を遣わないでくださいまし」
「? 俺は思ったことを言っただけだが」
「でも……そんな……いえ、ありがとうございます」
私は赤くなった頬を覆いながら、どうにかお礼を言う。そんなことを言われたのは、生まれて初めてだ。
「君はもっと自分の魅力に気づいた方が良い。あまり自分を卑下しては君自身がかわいそうだ」
追い打ちをかけるように、彼は少し微笑みながら言った。
一体この人はなんなのだろう。こんな気難しそうな顔をして、真面目そうな雰囲気を出しておいて、実は口のうまい女たらしなのだろうか。
私は赤い顔のまま、どうにかうなずいた。
「そういえば君、名前はなんて言うんだ? 俺はラウロ・ヴァレーリ。クラスは一年F組。というか普通にタメ口で喋ってたけど先輩じゃないよな……?」
「ジュスティーナ・ローレです。私も一年生ですのでご安心ください。クラスはA組です」
「そうか、よかった。クラスが離れているから今まで見たことがなかったんだな」
ラウロ様はほっとしたようにそう言う。それから続けて言った。
「俺はそろそろ行くよ。よかったらまた花に魔法をかけるところを見せてくれ」
「ええ、喜んで」
私が答えると、ラウロ様は真面目な顔をしたまま手を振って去って行った。
気難しい顔をした背の高い男子が手を振っているアンバランスさがなんだかおかしい。私はくすくす笑いながら手を振り返す。
ラウロ様の姿が見えなくなると、私はしゃがみ込んで再び花壇と向き合った。
なんだか胸がくすぐったい。あの人は私の話をあんなに興味深そうに聞いてくれた。
そっと髪に手をやってみる。好きではなかったはずの暗い茶色の髪が、なんだか少しだけ好きになれる気がした。
***
明るい気持ちのまま花壇を後にする。そろそろ家に帰らなくてはならない。
今ならフェリーチェに嫌味を言われても軽く流せそうだ。
そんなことを考えながらフェリーチェのいる中等部校舎まで行こうと庭を歩いていると、校舎の裏のベンチに見慣れた二つの人影が見えた。ルドヴィク様とフェリーチェだ。
二人はぴったりくっついてベンチに座り、楽しげに何か話している。こちらに気づく様子はない。
私は思わず木の影に隠れてしまった。
「フェリーチェは本当に可愛いな。ジュスティーナの方は生真面目で可愛げがないのに、姉妹でも大違いだよ」
「まぁ、ルドヴィク様。お姉様は婚約者でしょう? そんなことを言っていいんですの?」
「誰も聞いてないんだ。構わないだろう。それにジュスティーナよりフェリーチェのほうが可愛いなんてみんなが思っていることだ」
「ふふっ、ルドヴィク様って悪い方ですわね」
二人はくすくす笑い合っている。ルドヴィク様に好かれていないのは重々承知していたけれど、直接本音を聞いてしまうとやはり落ち込んだ。
ラウロ様と話して軽くなった気持ちがあっという間に沈んでいく。




