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「ルドヴィク! すぐにジュスティーナさんを説得して婚約破棄を撤回してもらうんだ!!」
「謝り倒すのよ、ルドヴィク!! 我が家の繁栄のためにも、ティローネ家にお嫁に来るのはあの子でなければならないの!!」
両親は悲壮な顔でそう言ってきた。
しかし、そんなことを言われても、ジュスティーナが契約石を割ってしまったので二度と同じ婚約は結べないのだ。
気が重いが、それを伝えて諦めてもらおう。
そう思って口を開きかけたとき、父は地に響くような低い声で言った。
「……ルドヴィク。もしもこのままジュスティーナさんとの縁が切れるようなら、後継については考え直すからな」
俺は開きかけた口を閉じる。
ティローネ伯爵家の後継を、俺でなく弟にするとでも言うのだろうか。
冗談じゃない。どうして長男である俺が後継の座を奪われなければならないのだ。ジュスティーナとの婚約がなくなっただけなのに。
後継でなくなり家を継げなくなるなんてごめんだ。家を継がない弟は将来役人になって身を立てようとしているようだが、俺はあんな風に地味で地道な努力なんてしたくない。
俺が呆然としているうちに、父は怒りで肩を震わせながら部屋を出て行き、母もどうしましょうどうしましょうと大騒ぎしながらそれに続いて行ってしまった。
一人残された部屋で、俺はどうにかこの危機を乗り切ろうと頭を回転させる。
ジュスティーナと再婚約はできない。そもそも、俺が結婚したいのはフェリーチェだ。しかし、ジュスティーナを取り込めなければ、後継から外される恐れがある。
一体どうしたら……。
考え込むうちに、ふと俺の頭にとてもいい考えが浮かんだ。
(結婚はフェリーチェとして、ジュスティーナは妾として別邸か何かに住まわせつつ、農地の仕事をさせればいいんじゃないか?)
あまりに素晴らしい考えなので、自分で自分を褒めたくなった。
正式な結婚が出来なくても、妾にするならどうにでもなるではないか。
ジュスティーナが契約石を割るなんて異常な行動に出たのは、きっと衝動的なものだったに違いない。きっと今は後悔しているはずだ。
なんせ、婚約者がいなくなったことに焦って、顔半分が醜い痣に覆われたラウロ・ヴァレーリに媚びを売っているくらいなのだから。
それに、あいつは俺のことが好きだったはず。
いつも俺の顔色を窺って、怒らせないように必死だったのがその証拠だ。妾としてでも娶ってやると言えば、泣いて喜ぶだろう。
フェリーチェを正妻として迎えて贅沢な生活をさせてやり、ジュスティーナを妾にして働かせれば、きっと何もかもうまく行く。妻が二人になるのはフェリーチェには申し訳ないが、そこは我慢してもらうしかない。
この前のダンスパーティーで見たジュスティーナの姿を思い出す。
見栄えのしない女だと思っていたのに、ライトグリーンのドレスを着て髪をアップにしたジュスティーナは思いのほか悪くなかった。
あれなら妾にしてやるくらいは許せる。
「はは……っ、待ってろジュスティーナ。俺が迎えに行ってやるからな!」
誰もいない部屋で高らかに宣言する。
さっきまでの焦燥感はすっかり消え去り、全てがうまく行くような万能感に包まれていた。




