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「植物が元気になる魔法。そんなものがあるのか」
「はい。光魔法の一種なんだそうですけれど、私の魔法はなぜか人には効かないのです。代わりに植物にだけよく効くのですわ」
「光魔法……植物に効く……」
彼は私が光魔法と言葉にした途端、目を見開いた。それから考え込むようにぶつぶつ言っている。
「あの、それがどうかしましたか……?」
「ああ、いや。俺も花や木を見るのが好きなんだ。うちにも俺専用の温室があるくらい。だからちょっと興味が湧いて」
「まぁ、本当ですの!?」
意外な言葉に私はすっかり嬉しくなってしまった。この人も植物が好きなのか。同じものを好きな人というのは、それだけで親近感が湧いてしまう。
「こんな厳めしい顔をしているのに、似合わないよな」
「そんなことありませんわ! 木々や草花の魅力は誰をも魅了してしまいますもの! あの、その温室ってどんな風なんですか? 専用の温室を持ってらっしゃるなんて憧れてしまいますわ!」
思わず詰め寄ると、その人は少し驚いた顔をしていた。
「急に元気になったな」
「あ、すみません……。ちょっと興奮してしまって」
「謝ることはないだろ。そうだな、うちの温室は種類の多さが自慢なんだ。自国だけじゃなく国外の植物もたくさん育てている。研究用の植物が多いんだ。育てること自体も好きだけれど、生態を調べるのに興味があって」
「まぁ、すごく素敵ですわね……! 植物の研究っていうのも心惹かれますわ……!」
私がうっとりしながら言うと、その人はくすくす笑った。
「そんなに植物が好きなのか」
おかしそうに言われ、少し恥ずかしくなる。私は言い訳するように言った。
「はい、小さな頃から少しずつ大きくなる芽や、同じ種類でも一つ一つ違う顔を持つ花を眺めているのが好きだったんです。自分の魔法が植物に効くとわかってからは余計に好きになりまして……」
「そうか、珍しい能力だもんな。そんな貴重な力が現れたら活かしたいと思うのもよくわかる。好みにぴったりの能力を授かってよかったな」
彼は感心したようにそう言った。
「貴重だなんて……! 光魔法としては半端な能力です。人には効かないんですもの。でも、私、それ以外に取り立てて能力がないし、土色の髪に濃い緑色の目で容姿も地味だしで、唯一の能力をどうにか使うしかなくて……」
そう言いながらも、こんな卑屈な言い方をしたら反応に困るのではないかという思いが頭をよぎった。
けれど褒められ慣れていない私は、どうしても褒め言葉を聞くと否定したくなってしまうのだ。
おそるおそる顔を上げると、彼は別に困った顔はしていなかった。
ただ不思議そうな顔でこちらを見ている。