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十六年前、ラウロ様と共にこの短剣に呪いをかけたというロジータ妃。短剣に巻き付いている蔦は、なんだか悲しげに見えた。
まるで望んでいないことを強制させられているみたい。
ぐるぐると剣に巻き付く蔦が、私には悲鳴を上げているように見える。堪らなくなって私はラウロ様に尋ねた。
「ラウロ様、この蔦に光魔法をかけてみてもいいですか? その、なんだか苦しそうに見えてしまって……」
「苦しそう?」
ラウロ様は不思議そうな顔で私を見る。
私は少し恥ずかしくなった。植物が苦しそうなんて、おかしなことを言っているのはわかっている。
けれど、どうしてもこの蔦が助けを求めているように見えて仕方ないのだ。
「あ、でも、呪いに関係する重要なものなので、無闇に魔法をかけるのはよくないでしょうか……」
気まずくなる私にラウロ様は微笑んで言う。
「ジュスティーナ嬢は植物の気持ちがわかるんだな」
「え、ええっと」
「その短剣はすでに散々調べたから、試したいことは自由に試してくれて構わない」
ラウロ様は快く了承してくれた。
私はほっとして、短剣を真っ直ぐ見つめる。
じっと見つめていると、どんどん蔦の悲しい思いが流れ込んでくる気がした。私は短剣に向かって手をかざす。
この蔦が解放されるように。もう望まないことをさせられないように。
そう願いながら力を込めると、ふわふわと光が舞って蔦に絡みついた。すると、黒い色をしていた蔦は、どんどん生き生きとした緑色に変わっていった。
本来の色を取り戻したのかもしれない。私は光魔法をかけ続ける。
すると、突然前からガシャンと崩れ落ちるような大きな音が聞こえた。
顔を上げるとラウロ様が左頬を押さえてしゃがみ込んでいる。
ラウロ様の周りには、しゃがみ込んだときに落ちたのか、テーブルの上にあった本や置物が散乱していた。
「ラ、ラウロ様!? 大丈夫ですか!?」
慌てて短剣を置いて、ラウロ様の元へ駆けよる。彼は真っ青な顔で冷や汗をかいていた。
まさか私が短剣に光魔法をかけたせいだろうかと、一気に血の気が引く。
「ラウロ様、大丈夫ですか……!? ごめんなさい、私が魔法なんてかけたから……! すぐにエルダさんたちを呼んできます!」
動揺しながらどうにかそう言って部屋を出ようとすると、顔を押さえたままのラウロ様に引き止めるように腕を掴まれる。
「ジュスティーナ嬢、大丈夫だ。それより魔法をかけ続けてくれないか」
「で、でも……」
「頼む。その短剣には魔法をかけ続けなければならない気がするんだ」
ラウロ様は肩で息をして、随分苦しそうだった。
一刻も早く人を呼びたかったけれど、彼の声があまりにも真剣なので、私は躊躇いながらも短剣を手に取る。




