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ようやく馬車が学園に着き、フェリーチェは中等部に、私は高等部の校舎に向かった。
駆けて行くフェリーチェの背中を見ながら、今日もルドヴィク様はフェリーチェに会いにいくのかなとぼんやり考えた。
ルドヴィク様が休み時間や放課後に頻繁にフェリーチェに会いに行くので、私は周りの生徒たちから同情の目で見られている。
こんな日々が卒業まで続くのかと思うと憂鬱だった。
卒業したら解放されるわけではなく、むしろ憂鬱の種であるルドヴィク様と結婚してずっと一緒にいることになるのかと思うと、余計に胸が重くなる。
私はいつまでルドヴィク様とフェリーチェのことで悩まなければならないのだろう。
***
重苦しい気分のまま一日が過ぎた。私は放課後、学園の庭の花壇へと向かっていた。
学園の花壇はとても広く、私は毎日ここへ通っている。気分が塞いだ時もここに来ると少しだけ元気になった。
私は花壇に向かって手をかざし、光魔法をかける。光の粒が空気を舞って、雨のように花たちに降り注いだ。植物が元気になるのが伝わってくる。
ずっとこの様子を見ていられたらいいのにと思った。ルドヴィク様のこともフェリーチェのことも忘れて、花たちを見ていられたらいいのに。
「今のはなんだ?」
ぼんやり花壇を見つめていると、後ろから突然低い声が聞こえた。驚いて振り向くと、見たことのない男子生徒が立っている。
黒髪に切れ長の青い目。その人は難しい顔で睨むようにこちらを見ている。
何より特徴的なのは、顔の右半分を覆う黒い文様のような痣だ。頬から額にかけて、黒い蔦が這うようになっている。
禍々しい顔の痣と、彼の睨みつけるような表情に怯んでしまって、なかなか言葉を返せないでいると、彼ははっとしたように痣のあるほうの頬を撫でた。
「ああ、すまない。いきなりこんな痣のある男に声をかけられたら気味が悪いよな。いつもは気をつけているんだが、君の魔法に驚いて思わず尋ねてしまった」
「あ、いえ……! 少しぼうっとしていて、すみません。今のは植物が元気になるように魔法をかけていたのですわ」
私は慌てて言葉を返す。どうやら元々きつめの顔立ちをしているだけで、睨んでいたわけではなかったらしい。
彼は鋭い目つきのまま困ったように眉尻を下げ、申し訳なさそうにこちらを見ている。