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殿下が行ってしまうと、ラウロ様はぱっとこちらを振り返った。
「ジュスティーナ嬢、大丈夫か? 兵士たちに掴まれて怪我でもしなかったか」
「私は大丈夫です。それより、ラウロ様の首の怪我が……」
「これくらい平気だ。君がコルラード様を止めてくれたからかすり傷で済んだ」
ラウロ様はそう言って首を軽く抑える。
「ジュスティーナ嬢、コルラード様が乱暴なことをして悪かった。王家には今日のことをちゃんと報告しておくから心配しないでくれ。コルラード様が頭に血が上りやすい方なのは皆理解しているから、あの人の言い分だけを聞いて君に被害がいくようなことにはならないと思う」
「はい……」
ラウロ様は安心させるようにそう説明してくれる。殿下のことも気になっていたが、私の頭は別のことでいっぱいだった。
しばらくためらった後で、私は口を開く。
「……ラウロ様、一つ聞いてもよろしいでしょうか」
「なんだ?」
「殿下が言っていた王子と言うのは……」
「……それは」
この国の王子は、第一王子と第二王子の二人しかいないはずだ。正妃様がお産みになったサヴェリオ殿下と、第二妃様がお産みになったコルラード殿下。
正確には、正妃様はもう一人王子をお産みになっている。しかし、その第三王子は不幸なことに生まれて数日で病にかかり亡くなってしまった。
第三王子は、生きていれば私と同じ年のはずだった。
「ラウロ様……あなたはもしかして、この国の第三王子なのですか……?」
震える声で尋ねる。これまで聞いた話を合わせると、そうとしか考えられない。
ラウロ様はこちらを見て迷っている様子だったが、やがて観念したようにうなずいた。
「……ああ。俺は第三王子として生まれた。王子としてはとっくに死んだことになっているがな」
「ど、どうして」
寂しげに笑うラウロ様に、戸惑いながらも尋ねる。一体なぜ、死んだことになんて。
「この痣のせいだよ。俺は生まれて数日で、当時第三妃だったロジータ様に呪いをかけられて顔半分に醜い痣を刻み込まれたんだ」
「第三妃様が……? ロジータ様って随分前にご病気で亡くなられた方ですよね……?」
「ああ、病死というのは表向きの理由だがな。ロジータ妃は闇魔法が得意だった。妃になる時は反対も多かったらしいんだが、珍しい闇魔法を使える人間を王家に取り込みたいということで、輿入れが決まったらしい」
ロジータ妃が闇魔法を得意としていたことも、それが理由で婚姻が決まったことも初耳だった。十六年前に亡くなったロジータ妃の情報は少なく、ラルミアという田舎町出身の妃だったということくらいしか話を聞いたことがない。
ラウロ様は淡々と説明を続ける。
「しかし、闇魔法目当てにロジータ妃を迎えた陛下に対して、彼女は本気で陛下を愛していたようなんだ。彼女は次第に正妃を妬み、強く憎むようになった。正妃に対する憎しみをぶつけるために、赤ん坊だった俺に呪いをかけることに決めたらしい」
話を聞くうちに、心臓の音が早くなっていく。
先ほど書庫で見つけた本のことや、謎だらけだったラウロ様の背景が、どんどん繋がっていった。




