1-5
これだけあからさまな態度なのだから、両親もルドヴィク様の心境に気づいていたと思う。
しかし、ルドヴィク様にも、ルドヴィク様にべったりくっつくようになったフェリーチェにも苦言を呈することはなかった。
むしろ、「フェリーチェのおかげでルドヴィク君がうちによく来てくれるようになった」と妹を褒めていたくらいだ。
そこまでルドヴィク様がフェリーチェを気に入っているなら、婚約者を私ではなくフェリーチェに代えてくれないかと思った。誰にとってもその方がいいはずだ。
実際、勇気を出してそう提案してみたこともある。
しかし、ルドヴィク様には不愉快そうな顔で、それはできないときっぱり言われた。なんでも、以前ルドヴィク様自身も彼の両親に提案したことがあるが、すでに断られたことがあるらしい。
「君の植物にしか効かない魔法にどれほどの価値があるか俺にはわからないが、両親は君の力を農業に使うのにはちょうどいいと思っているんだろう」と、いまいましそうに告げられた。
私との婚約解消を提案したことがあると悪びれもせず言われ、その上それでも婚約を続けていくしかないことがわかり、私の心は重く沈んだ。
***
「お姉様、今日はルドヴィク様に会えるかしら? 中等部と高等部だと、校舎が離れているからなかなか会えなくて寂しいわぁ」
学園に向かう馬車の中、フェリーチェは眉根を寄せて悲しそうな顔で言った。
しかし、表情とは反対に声は楽しげだ。姉の婚約者に会いたいと言うことに、躊躇う様子は一切ない。
「さぁ、どうかしら。ルドヴィク様のことだから、中等部までフェリーチェに会いに来てくれるかもしれないわね」
「そう思うっ? ルドヴィク様って本当に紳士的で素敵な方よね! 私の小さな変化にも必ず気づいてくれるし、荷物は必ず持ってくれるし、会いたいと言ったらすぐに来てくれるのよ! 婚約者の妹の私にさえあんなに気遣ってくれるんだから、婚約者のお姉様にはもっとお優しいのよね。うらやましいわぁ」
フェリーチェは楽しそうに目を輝かせて言う。
本音ではないことは、当然わかっている。フェリーチェは私がルドヴィク様に蔑ろにされる様を、ずっと前から近くで見ているのだ。
わかっているのに怒ることすらできず、私は「ルドヴィク様は確かに紳士的な方よね」なんて思ってもない言葉で同意した。
反応の薄い私を、フェリーチェはつまらなそうな顔で見ていた。
本音を言うなら、フェリーチェと同じ馬車で登校するなんて嫌だった。
しかし裕福ではないうちに二台分の馬車を用意する余裕などなく、学園に徒歩で通うような真似は許されていないので、毎日フェリーチェの嫌味に耐えながら通学している。