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「いや、いいよ。客人にそんなことをさせられない。うちの屋敷も人手は少ないけれど、数は足りているから」
「そうですか……」
私が少ししゅんとしながら言うと、ラウロ様は微笑んだ。
「君は遠慮せずにくつろいでいてくれたらいい」
「あの……それでは私の光魔法で何かお役に立てることはありませんか?」
コルラード殿下の言葉を思い出しながら、少し緊張して尋ねた。
もしも私の光魔法が必要なら、何をしたらいいのか、今ここで教えて欲しい。
「ああ! それなら頼みたいことが……」
ラウロ様はぱっと笑顔になって言った。私はどきどきしながら続きを待つ。
「温室でまた植物に光魔法をかけて欲しいんだ。この前かけてくれた花以外にも少し元気のない花があるから」
「あ、はい。もちろんです」
明るい口調でそう頼まれ、拍子抜けした思いで返事をする。頼み事をしてくれたのは嬉しいけれど、そんな小さなことでいいのだろうか。
しかし、私が了承するとラウロ様は随分と嬉しそうにしていた。
ラウロ様は、私を植物の栄養補給係としてこのお屋敷に呼んだのだろうか……。
さすがにそれが理由とは思えず、私は首を傾げつつも植物に魔法をかけるために温室へ向かった。
***
「本当にこんなことでいいのかしら……」
ラウロ様の温室で、花壇いっぱいの花たちに魔法をかけながら、私は無意識に呟いていた。
少し元気がないように見えた花たちは、光の粒が降り注ぐとあっという間に瑞々しさを取り戻す。
植物を元気にすることだけには自信があるけれど、これがそこまでラウロ様の役に立っているとも思えない。
これでいいのだろうかと思いながら、それでもひたすら魔法をかけ続けた。
「まぁ、ジュスティーナ様。お花に魔法をかけてくださっているんですか?」
後ろからのんびりした明るい声が聞こえ、振り向くとそこにはエルダさんがいた。エルダさんは黒いワンピースを腕まくりし、バケツを二つ両手から下げている。
「はい、ラウロ様に何か出来ることはないか聞いたら頼まれて」
「ありがたいですわぁ。ジュスティーナ様が魔法をかけてくださってから、弱っていた花たちも目に見えて元気になりましたもの」
エルダさんはにこにこ笑ってそう言ってくれる。
「それはよかったです。今から水遣りですか? よろしければお手伝いします」
「まぁまぁ、それではお願いしようかしら」
エルダさんはそう言うと、水道の場所を教えてくれた。バケツとじょうろに水を汲んできて水遣りをする。
土が水を吸うと、花も葉も途端にいきいきするように見えた。魔法で元気にするのもいいけれど、やっぱり少しずつ水を上げて育てるのもいいなと幸せな気持ちでその様子を眺める。
「ジュスティーナ様のおかげで思ったより早く終わりましたわ」
花壇に水を遣り終え、バケツを片付けながらエルダさんが言った。
「温室の植物はエルダさんがお世話なさっているんですか?」
「いいえ、基本的にはラウロ様がご自分でなさっています。時間がないときは代わりに水遣りを頼まれますけれど。今日は少々お忙しいようで代わりを頼まれたんです」
「そうなんですね」
私は目の前の花に目を遣った。
丁寧に植えられた色とりどりの花たち。ラウロ様が普段大切に育てている花だと思うと、余計に綺麗に見える気がする。




