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そんな状況が変わったのが、妹のフェリーチェがドレスを買うのに付いて来た日からだ。
あれは三年前、私とルドヴィク様が十三歳の時のこと。
その日、私はルドヴィク様と仕立て屋に行く約束をしていた。今度参加するパーティーで着るドレスを買ってくれるのだという。
もちろんルドヴィク様の意思ではない。ティローネ伯爵夫妻がルドヴィク様に、たまには婚約者にドレスくらい贈ってあげなさいと命じたので、渋々来てくれたのだ。
ルドヴィク様はうちのお屋敷に迎えに来てから、ずっと不機嫌そうに黙っていた。私が何とか機嫌を直してもらおうと声をかけても、つまらなそうに短い返事をするだけだった。
重苦しい雰囲気の中、玄関ホールへ向かう。これから先のことが憂鬱だった。
出来ることなら一人で仕立て屋に行けたらいいのに。不愉快そうな顔をしたルドヴィク様に付き合ってもらっても、苦しいだけだ。
そんなことを考えていると、突然、後ろから明るい声が聞こえた。
「お姉様っ! ドレスを買いに行くんでしょう? 私も行きたいわ!」
扉の奥から現れたのは、妹のフェリーチェだった。後から両親も追って来て、慌て顔でフェリーチェを止めている。
二歳年下の妹フェリーチェは、私とは全く違う性格をしている。
自己主張が苦手な私と違い、フェリーチェは欲しいものは何でも欲しいという子だった。両親はそんな妹に手を焼いているものの、いつも本気で叱ることはない。
たとえフェリーチェが、もしも私が言ったらどんな折檻を受けるかわからないようなわがままを言ったとしても、軽く注意するだけで済ましてしまうのだ。
……もっとも、外見や性格のみならず、フェリーチェは私とは違ってそれほど強くないながらもちゃんと人間を治癒することができる光魔法を使えるので、私たち姉妹の扱いが違うのも当然かもしれないけれど。
そんな両親も、さすがに格上の家のご令息がいる時に突拍子もないことを言い出したフェリーチェに対し焦った顔をしていた。
両親はフェリーチェに対しては珍しく、語気を強めてやめなさいと叱っている。しかし、フェリーチェはどこ吹く風だ。
「いいじゃないですか。そんなに怒らないであげてください。僕は妹さんが一緒でも構いませんよ」
ふいに隣から気遣うような声が聞こえた。驚いて目を向けると、ルドヴィク様は今まで見たこともないような楽しげな顔でフェリーチェを見ていた。
私は呆気に取られて何も言えなくなる。
「で、でもルドヴィク君。ご迷惑ではないかね」
「そんなに気を遣ってくれなくていいのよ」
「いいえ。婚約者の妹なのですから、僕の家族も同然です。気になさらないでください」
ルドヴィク様は爽やかな笑みを浮かべて言った。両親は彼の返事を聞いてもまだおろおろしている。
するとフェリーチェが両親の腕をすり抜け、嬉しそうにルドヴィク様の元へ駆けてきた。