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「それで、事情って一体なんですの……!?」
「実は私、ルドヴィク様との婚約を破棄してしまったんです。それも、契約石を割る方法で。そんなことをしてしまったものだからとても家に帰れなくて、昨日からラウロ様のお屋敷に置いてもらっているんです」
「え、な、な、な……どういうことですか!?」
ミリアムさんは目を瞬かせながら、信じられないという顔でこちらを見ていた。
昨日の状況を詳しく説明しても、眉間に皺を寄せたままだ。
「……事情は大体わかりました。ルドヴィク様のジュスティーナさんへの扱いは本当に目に余りましたものね……。婚約破棄したこと自体は良かったのではないかと思いますわ」
「ミリアムさんもそう思います? そう言ってもらえてちょっと安心しましたわ」
「でも、ラウロ・ヴァレーリの件は駄目ですわ! あの冷酷非情で人を人とも思わない、悪魔と呼ばれる男の家に行くなんて……! ジュスティーナさんもいつ被害に遭うかわかりません!」
「ミリアムさんまでそんなことをおっしゃるんですか?」
少し悲しくなりながらミリアムさんを見る。昨日会ったばかりなのでラウロ様のことで知っていることは少ないけれど、でも彼がそんな人ではないことくらいはわかる。
大体、冷酷非情な人があんなに大切に植物を育てられるわけないのだ。
「ミリアムさん、ラウロ様はとても親切で優しい方ですわ。悪魔なんかではありません」
「でも、ラウロ・ヴァレーリって悪い噂が絶えないんですよ。すっごく短気で横暴で、気に入らない者は容赦なく剣でねじ伏せるとか。出自も何も謎に満ちているけれど、どうもどこかの権力者の家の子供らしくて、被害に遭っても誰も表沙汰に出来ないそうで……」
ミリアムさんは顔を青ざめさせて言う。これまで見てきたラウロ様の印象とあまりにもかけ離れているので、理解が追いつかなかった。
「実際にラウロ様が誰かを傷つけるところを見たのですか?」
「実際には見てませんけれど、皆言ってますもの! 火のない所に煙は立たないって言うじゃないですか」
ミリアムさんは真剣な顔で言う。一体誰がそんな噂を流しているのだろう。
「実際見ていないことで決めつけるのはよくありませんわ。ラウロ様はそんな方ではありませんよ」
「でも私、ジュスティーナさんが心配です……」
ミリアムさんは眉尻を下げ、困り切った顔で言う。どうやら本気で私を心配してくれているらしい。
どうにか誤解を解けないものかと考えていると、ミリアムさんは少し不満そうな顔で言った。
「というか、そんなに困ってらしたなら私に通信機で連絡してくださればよかったのに。帰りの馬車がないのなら学園まで迎えに行って、しばらくうちに泊めて差し上げることくらいできましたよ?」
「まぁ、ありがとうございます! そうですわね、ミリアムさんを頼ればよかったですわ。ちょっと動揺で冷静に考えられませんでした」
「今からでもうちに来ませんか?」
ミリアムさんは親切にもそう言ってくれる。一瞬迷ったが、私は首を横に振った。
「いえ、ありがたい申し出ですが遠慮しておきます。ミリアムさんのおうちにもご迷惑をかけてしまいますもの。ラウロ様がうちに連絡をしてくださって、うちの両親にもしばらくはそこにいていいと許可をもらったので大丈夫です」
微笑んでそう言ったら、ミリアムさんは眉根を寄せて複雑そうな顔になった。
どうにかミリアムさんにも、ラウロ様が噂されているような人ではないとわかってもらえたらいいのに。
ラウロ様はあんなに優しくて素敵な方なのにと、もどかしい思いでいっぱいだった。




