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「あの、ラウロ様。ドラーツィオさんとは?」
「あれ、知らないか? 宰相のドラーツィオさんだよ。うちの屋敷は宰相の管理下にあるから、安心して娘さんを預けて下さっていいと言ったら、あっさり納得してくれたんだ。やはりよく知る名前を出されると安心するんだろうな。なんなら今度宰相も連れてご挨拶に伺うと言ったんだが、それは断られてしまった」
ラウロ様はそう言いながらパンを口に運ぶ。私は目をぱちくりしながら彼を見つめることしか出来ない。
どうしてラウロ様が、宰相のドラーツィオ様と知り合いなのだ。というか、ドラーツィオ“さん”という呼び方はなんなのだ。
お父様とお母様はよく知る名前を出されて安心したというより、突然宰相様の名前を出されて反論することが出来なくなったのではないのか。
聞きたいことがあり過ぎて混乱していたが、どうにか疑問の一つを口にする。
「ラウロ様、管理下とは……? このお屋敷、宰相様の管理下にあるんですか?」
「ああ。正確には親代わりに俺の後見をしてくれているのがドラーツィオさんで、この屋敷も定期的に見に来てくれるという感じかな」
ラウロ様はやっぱり表情を崩さないままで言う。
私は呆気に取られてラウロ様を見ているしかなかった。宰相が後見とは、一体何がどうなればそんなことになるのか。
一体この人は何者なのだろう。
「ラウロ様って何者なんですか?」
「……俺はただの学生だ」
口に出して尋ねてみたら、ラウロ様は真面目な顔で考え込んだ後、ちょっと困った顔でそう言った。
多分、この様子だとそれ以上のことは答えてくれないだろう。
一旦質問は諦め、とりあえず家に連絡してくれたことのお礼を言っておく。けれど頭の中は疑問で埋め尽くされていた。
そんな私たちの様子を、壁際からエルダさんが苦笑いで見つめていた。
***
お屋敷を出ると、そのままラウロ様の家の馬車に乗せてもらい学園に向かった。
馬車は少し古びていたけれど、私の家のものより数段大きく、造りも立派だった。
馬車の中では少し昨日の温室での話をしたほかは、ほとんど話さなかった。けれど、黙っていても不思議と気まずさは感じない。むしろ静けさが心地よかった。
ルドヴィク様と二人でいたときは、あんなに沈黙が息苦しかったのに不思議だ。
やがて馬車は学園に到着した。
門をくぐって学園の敷地に足を踏み入れると、周りを歩いていた生徒たちの視線が一斉にこちらに集まるのがわかった。
みんなこちらをちらちら見ては、驚いたように目配せしあっている。




