4-1
翌朝、私はラウロ様が用意してくれた客室で目を覚ました。
白い天井とブルーグレーのカーテンが目に入り、一瞬自分がどこにいるのかわからなくなる。
(そうだ、私ルドヴィク様と婚約破棄して……ラウロ様のお屋敷に連れて来てもらったんだ)
一晩明けてみると、改めて自分のやったことが信じられなくなる。私がルドヴィク様に反抗して、契約石まで壊すなんて。全部夢だったんじゃないかと疑いたくなるくらいだ。
しかし、目の前の光景はどう見ても私の部屋とは違う見慣れない部屋で、昨日のことは全て現実だったんだと思い知らされる。
ぼんやりしたまま、のろのろと身支度を済ませた。胸元のリボンをつけ終えたところで、扉を叩く音がする。
「ジュスティーナ様、朝食の準備が出来たのでお迎えに上がりました」
「あっ、はい! ありがとうございます、今行きます」
どうやらエルダさんが呼びに来てくれたらしい。私は部屋から出て、エルダさんに連れられ食堂へ向かった。
食堂のテーブルにはすでにラウロ様が腰掛けていた。私が入って来たのに気が付くと、彼は真面目な顔で振り向く。
「おはよう、ジュスティーナ嬢。どうぞかけてくれ」
「おはようございます、ラウロ様。失礼します」
ラウロ様に促され、彼の向かいの席に腰掛ける。テーブルの上には温かそうなパンやスープ、いい香りのする紅茶が用意してあった。
部屋には私たちとエルダさんしかおらず、長テーブルのほかの席は空いている。
部屋はしんと静かだった。
「君のご両親のことだが、昨晩通信機で連絡して、しばらく君をうちで預かると伝えたら快く了承してくれたよ。だから家のことは気にせず好きなだけここにいるといい」
椅子に腰かけた私に、ラウロ様はあっさりした表情で言った。
驚いてぽかんと口を開けてしまう。両親が快く了承してくれたとは本当だろうか。
契約石を壊して婚約破棄したことは当然フェリーチェから伝わっただろうし、その上しばらく帰らないなんて伝えたら、烈火のごとく怒るとばかり思っていたのに。
「あ、あの、ラウロ様……、本当に両親は許してくれたのですか? 父や母はラウロ様に何か失礼なことを言いませんでしたか……?」
「最初は多少怒ってはいらしたが、大切な娘さんを勝手に屋敷に連れて来てしまったのだから当然だ。けれど、ドラーツィオさんの名前を出したらすぐに了承してくれたよ」
ラウロ様はなんて事のないように言う。
しかし、ドラーツィオさんとは誰だろう。聞いたことがない。いや、あるにはあるが、それは私とはあまりに遠い方だ。