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「あの、落ち着いてください、ラウロ様。そんなに怒ってくださらなくても」
「あ、ああ、すまない」
私が戸惑いながらもそう言うと、ラウロ様ははっと我に返ったようにこちらを見た。
「あまりにひどい話なのでついかっとなってしまった」
「いえ、私のことでそんなに怒ってくださってありがとうございます」
今日会っただけの私のことで、ラウロ様がこんなに感情を露わにしてくれるなんて思わなかった。きっとこの人は正義感の強いいい人なのだろう。
今まで自分に魅力も能力もないから悪いのだと諦めていた気持ちが、ラウロ様の言葉で解けていくのを感じた。
私がそんなことを考えて感動に浸っていると、ラウロ様は私の目を見ながら、躊躇いがちに言った。
「ジュスティーナ嬢、行き場がないと言っていたよな」
「ええ、恥ずかしながら……」
「それなら、うちの屋敷に来ないか?」
「え?」
ラウロ様は真面目な顔で言う。突然の申し出にぽかんとしてしまった。我に返ると、私は慌てて手を横に振る。
「そんなご迷惑をおかけするわけにはいきませんわ!」
「気にすることはない。古い屋敷だが、余っている部屋ならたくさんあるから、状況が落ち着くまでうちにいればいい」
ラウロ様の顔は冗談を言っているようには見えなかった。
私はすっかり戸惑ってしまった。ラウロ様とは今日初めて会ったばかりだ。家に置いてもらうなんて、そんな図々しいこと出来ない。
それに、一応は貴族令嬢である私が男子生徒の家に泊めてもらうのも問題がある気がする。
……しかし、正直に言えば本当に部屋を貸してくれるならすごくありがたかった。
家にはとても帰る気になれず、どうすればいいかまるでわからなかったから。
迷う私に、ラウロ様は言った。
「それと、できればお願いしたいことがあるんだ。君は植物に魔法をかけられるんだろう? うちの植物に魔法をかけて、元気にしてもらえないだろうか」
「え?」
「育てている植物の中に、萎れかけているものもあってな。君の力で治してくれたら非常にありがたいんだが……」
ラウロ様は眉根を下げて言った。
植物に魔法をかけるなら簡単だ。私の唯一の得意分野なのだから。少し困った顔で頼みごとをされ、ラウロ様の言葉に甘えてはいけないという気持ちが揺らぎ始める。
私は躊躇いつつも口を開いた。
「それでしたら……お邪魔してもよろしいでしょうか」
「ああ、ぜひ来てくれ!」
私が恐縮しながら言うと、ラウロ様は明るい声で言った。
こうして私は、思ってもみなかったことに、ラウロ様のお屋敷にお世話になることになったのだ。