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「ああー……、やっぱりやめておけばよかったですわ……」
すっかり日が落ちた頃。
私はまだ学園にいて、カフェテリアで一人頭を抱えていた。
冷静になって頭が冷えると、自分のやったことに青ざめるしかない。
両家で決めた婚約を私一人の意思で破棄してしまうなんて。それも契約石を壊すなんて形で。一体どれほどの問題になるだろう。恐ろしくて家に帰れない。
それにルドヴィク様はともかく、彼の両親であるティローネ伯爵夫妻には申し訳ないことをしてしまった。彼らは私の能力を認めてくれたのに。
窓の外は真っ暗だった。先ほどまではわずかに残っていた生徒もすっかり去り、カフェテリアはしんと静まり返っている。しばらくしたら学園自体閉まってしまうだろう。
家に帰るしかないのだろうか。あんなことをしてしまって、口答えせずにいるときでさえ私に冷たい両親にどんな扱いを受けるか考えると、憂鬱で堪らなかった。
いや、そもそも馬車はフェリーチェを乗せてとっくに帰ってしまっただろうから、帰る手段すらさえない。
私がどうにもならずうなだれていると、上から声が降ってきた。
「君、夕方会ったジュスティーナ嬢だよな……? こんな時間まで何してるんだ?」
顔を上げると、そこには驚いた顔をしたラウロ様がいた。
「ラウロ様……? ラウロ様こそなぜこんな時間に」
「俺は少し調べ物をしていたんだ。ジュスティーナ嬢は早く帰ったほうがいいんじゃないのか? ご両親が心配なさるだろう」
ラウロ様は真面目な顔で言う。私は力なく首を横に振った。
「両親は私の心配なんてしないので大丈夫です。妹のことならともかく。それに、私は今日とんでもないことをしでかしてしまいましたので、家に帰っても入れてもらえないかもしれませんわ」
「どういうことだ?」
ラウロ様が真剣な声で尋ねてくる。
今日会ったばかりの人にこんな話をするのもと思いつつ、ラウロ様の顔を見ていると心のうちを全て話してしまいたい衝動に駆られた。
私は気が付くと、今日あったことから普段のルドヴィク様たちからの扱いまで、何もかも話してしまっていた。
話を聞き終えたラウロ様は、しばらく唖然とした顔で私を見ていた。
「……ごめんなさい。こんな話されても困りますよね」
「君の婚約者も家族も、どうかしてるんじゃないか!?」
怒鳴るような声がカフェテリアに響く。驚いてつい肩が跳ねた。
「なんだその扱いは! 婚約者を蔑ろにしたあげく、妹に乗り換えるなど……! 妹の方も姉に申し訳ないとは思わなかったのか!? そんな異常な状況で君を責めるご両親もご両親だ!」
ラウロ様は語気を荒くして言う。私はその勢いに押され戸惑ってしまった。