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私の婚約者であるルドヴィク様は、今日も私の妹のフェリーチェに向かって笑いかけている。
「フェリーチェ、少し髪型を変えたか? いつものも良いけど、今日の髪型すごく似合ってるよ」
「本当ですか? 嬉しいですわ! 少し前髪を変えただけなのに気づいてくださるなんて!」
「フェリーチェの変化にこの俺が気づかないわけないだろ?」
「まぁ、ルドヴィク様ったら!」
二人の楽しげな声が廊下に響く。私はそんな二人をただ見ていることしかできない。
ルドヴィク様は頻繁にうちのお屋敷を訪れるけれど、婚約者である私に会いに来ているわけではない。
一応、私に会うためということになってはいるようだけれど、実際には妹のフェリーチェに会いに来ているのだ。
その証拠に彼は義務的に私の顔を見にだけ来ると、すぐさま妹のところへ飛んでいく。
フェリーチェの方もルドヴィク様が自分に会いに来るのをわかっているようで、彼が訪問してくる日はいつもより着飾って、髪型なんかも変えたりして、わざわざ私とルドヴィク様のいる部屋の近くで待機している。
昨日も、フェリーチェは「明日はルドヴィク様が来るから」と侍女に髪型を整えてもらっていた。
侍女はルドヴィク様が来るのになぜフェリーチェが髪型を変えるのかなんて質問はせず、張り切ってあの子の髪を整えてあげていた。
侍女も使用人も、この家の者たちはみんなフェリーチェの味方だ。
実際、フェリーチェは姉の目から見てもとても愛らしい。
フェリーチェの少しウェーブのかかった豊かな薄茶色の髪は、同じ茶色でも私の重い茶色の髪とは全く印象が違う。
目の色も、私がダークグリーンの暗い色の目をしているのに対し、フェリーチェは澄み渡るような水色の目をしていた。
私とフェリーチェ、選べるならどちらを選ぶかなんて、本当は私にだってわかっている。
「あの……ルドヴィク様」
邪魔に思われるのをわかりながらも声をかけると、ルドヴィク様はあからさまに不機嫌そうな顔でこちらを振り返った。
そんな態度に怯みそうになりながらも私は告げる。
「もうすぐ学園でダンスパーティーがありますよね。その時の衣装を合わせるために、少しご相談したいのですが……」
「ああ、そうだったな。衣装は君に任せるよ。後で手紙にでもどんなドレスを着るか書いて送ってくれれば、こちらが合わせるから」
ルドヴィク様は素っ気なく言うと、すぐに妹との会話に戻ってしまった。私はただうなずくことしかできない。
数年前ならともかく、フェリーチェが学園に入学した今は学園でいつでも会うことができるのだから、わざわざ私を口実に家まで来ないでくれたらいいのにと思う。
しかし、少しでも会う時間を増やしたい二人には、私の心情なんてどうでもいいらしい。
天使のような笑みを浮かべてルドヴィク様と話していたフェリーチェが、一瞬だけこちらを見て勝ち誇った笑みを浮かべた。
私はそれに気づかないふりをして、二人に背中を向けて自室まで戻った。