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9、隣人達3

 

「あ、おかん! 腹減った!」

「誰が、おかんだ! 誰が!」

「おかん、今日はシチューが食べたいっす」

「人の話を聞け。私はおかんじゃない!」

「お嬢、肉大目で頼む」

「だから、おかんじゃ……わかりました」


 おかんじゃないと言い返していたため、お嬢をおかんと聞き間違えてしまい、バツが悪くなって了承の返事をする。

 サリーネは何故か隣人宅で夕飯を作るハメになっていた。


 ◇◇◇


 いいことをすると自分に返ってくるという迷信は本当だったらしく、隣人を解毒した翌日、教会へまた差し入れがあったのだ。

 今回は大量の鶏肉、さらに少し古くなった大量の菜種油まで貰え、シスター達が張り切って唐揚げを作ってくれ(血抜きして揚げたのはサリーネだが)、いつもの通り余った分をもらったサリーネ。


 ホクホク顔で帰宅すると、玄関前には三人の男性の姿があった。


「おかえり~」


 サリーネの姿を見つけた黄色髪の男性が気安げに手をあげる。

 アパートの狭い廊下に大柄な男性がひしめき合っている光景に、サリーネが思わず後退るが、赤髪の男性がガバっと頭を下げた。


「昨日は命を助けていただきながら、きちんとした礼もできず申し訳なかった。アンタが用意してくれた解毒剤は、かなり高性能の薬草だったのだろう? そんなものを見ず知らずの俺たちに使用してくれて面目次第もねぇ」

「これ、良かったら使ってほしいっす」


 青髪の男性が差し出したのは、大きな鍋だった。


(何で鍋?)


 そう思うも、くれるというなら有難く貰いたい。

 逃亡生活と万年金欠のため家財道具が少ないのだ。


「どうも……」


 受け取ろうと手を伸ばしたサリーネだったが、自分の腕に大量の唐揚げが入った袋がぶら下がっており、辺りに食欲をそそる匂いを放っていることに気づく。


 ぐうぅぅぅ~~~~。


 誰かの腹がなった。


 ぐうぅぅぅぅぅぅ~。

 ぎゅるるるぅぅ~~。


 更に連動して二つの腹がなる。

 三人の視線がサリーネの持つ袋へ釘付けになり、その場の時が止まった。


 顔をあげたくない。

 今、顔をあげたら、言いたくない科白を吐き出すハメになる。

 鍋をもらって、とっとと自分の部屋へ入りたい。


 ぐうう~。


 沈黙の中、空気の読めないサリーネの腹が鳴り響いた。


「イッショニタベマスカ?」


 あげたくないよぅ、私のごはんだよぅ! という本音を飲み込んで、苦悩と社交辞令が混ざった薄ら笑いを浮かべたサリーネに、三人の顔がパアッと明るくなる。


 どうやら遠慮はしてくれないらしい。

 いいことをしたら自分に返ってくるという迷信は、やはり迷信だった。


 そのまま、また四人で唐揚げを食べることになり、たくさんあったサリーネのごはんは、また彼らのお腹に消えてしまった。

 その日、家に帰ったサリーネが、ちょっとだけ枕に八つ当たりをしたのは苦い思い出である。


 だが、そんなことが何回か続くうちに、気づけば彼らとごはんを一緒にするのが普通となってしまっていた。

 サリーネの体型(変装だが)を見て、きっとごはん作りが上手いと想像し鍋をくれたらしく、料理をしてくれるなら食材を無料で提供すると提案され、一も二もなく頷いてしまったのは貧乏人の悲しい性だ。


 ちなみに三人の料理の腕は壊滅的らしい。

 王都には人探しで来たらしく、横暴な上司に見つかるまで帰ってくるなと厳命されているが、食堂や居酒屋通いは毎日だと飽きてしまい、家庭料理に飢えているのだと涙目で懇願された。


 三人は変装のせいもあってサリーネを自分達より年上だと思っている。

 赤髪のトンヌラだけは一応気を遣ってくれているのかアンタ呼びからお嬢呼び(彼の中で独身女性は全てお嬢らしい)にしてくれたが、青髪のチンクーと黄色髪のカントはまるで遠慮がなく、サリーネをおかん呼ばわりし、料理をしているすぐ脇で普通に着替えるし、何ならトイレのドアも開けっ放しだ。

 しかし、そんな二人もサリーネの作ったごはんは美味しいと夢中で食べてくれ、たまに焼き菓子などのお土産を買ってきてくれたりする。


 逃亡者という後ろ暗さもあったため、サリーネはこれまで親しい人物を作ってこなかった。

 始めは食費を浮かせるために引き受けた食事作りであり、三人の仕事が人探しときいて警戒もしていたが、次第に彼らがいる喧しい生活を楽しいと思うようになっていた。


 きっとサリーネは寂しかったのだ。

 父親と義姉に邪険にされても幼い頃は母親がいた。

 何も与えられずとも領地に戻った時はヨシュアがいてくれた。

 サリーネはずっと一人ぼっちではなかった。


 それが義姉のやらかし、からの、子爵家乗っ取り娼館行き特急券を危うく掴まされそうになり、からくも逃げ出したものの、そこからサリーネはたった一人で生きてきたのだ。


「おかんのシチュー激うま~。肉てんこもり最高」

「カント、野菜も食べなさい」

「おか……お嬢、明日は豚肉を買ってくるから豚丼にしてくれ」

「トンヌラ、余計惨めになるから言い直さないで。豚丼ならネギ大目がいいわね」

「じゃあ、俺、潜入捜査した後にネギ買ってくるっす」

「チンクー、それ私が聞いちゃダメなやつ。あ、白ネギじゃなくて青ネギお願い」


 ビーフシチューを食べながら、いつものように他愛ない会話をするひと時。


 彼らの身形は整っているし、このオンボロアパートは潜伏先としているだけで、きっといい身分の者達であるはずなのに、どこからどうみても平民のおばさんであるサリーネが呼び捨てしても誰も文句を言ってこない。


 最近はすっかりサリーネを安パイ認定しているのか、今のチンクーのように仕事上の怪しい科白を零す時もあるが、慣れてしまったので聞き流している。


「あーぁ、それにしても見つかんないね~」

「マジでどこにいるんすかね?」

「こんだけ捜しても見つからないなら最悪もうこの世には……」


 サリーネがお茶を出そうと席を立ったところで、三人は顔を突き合わせ溜息をつく。

 トンヌラの言葉にカントとチンクーが青褪めた。


「やばい……想像したらチビリそうになった……」

「血の雨が降る前に、せめて手がかりだけでも見つけるっすよ」


 彼らの探し人はまだ見つかっていない。

 キッチンでお茶を注ぎながら彼らの会話を聞いていたサリーネは溜息をついた。


 連日王都中を捜し回っている彼らのためを思えば早く見つかってほしい所だが、見つかれば彼らとの楽しい生活も終わりを告げる。

 サリーネは複雑な気持ちになりながらも、いつものように何も聞いていない振りをして、食後のお茶を出したのだった。

名前を考えるのが苦手です。お気づきの方もいるかと思いますが、主要人物は大昔の某アニメの名前をまるパクリです。ちなみに次回出てくるヒーローはよ〇こちゃんからつけてます。あれ?あのアニメのヒーローポジってよ〇こちゃんで合ってますよね?

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