8、隣人達2
「アンタ、何者だ?」
「何で俺らを助けたっす?」
「それに一般人が何故、解毒薬なんか持ってるワケ?」
矢継ぎ早に質問されサリーネはやはり面倒なことになったと思ったが、嘘を吐いても仕方がないので正直に答えることにする。
「私は隣の部屋に住んでいる者です。教会の隣の病院で看護助手をしているので、毒の知識がありました。解毒薬は、以前薬草を作る調合師の仕事をしており持っていたものです」
「調合師? 失礼だが、そうは見えねぇが?」
驚いたようにサリーネを見たのは、最初に意識を戻した赤髪の男性だ。
サリーネの見た目はただのオバサンなので、確かに調合師には見えない。
この国で調合師といえば、魔物が出没するかもしれない山野で材料の薬草を採取する必要があるため、主に男性だからだ。
女性もいるにはいるが冒険者のような体格のいい者が主で、間違っても脂肪パンパンの俊敏性の欠片もなさそうなサリーネみたいな人間には無理がある。
地方を転々としながら薬草を売っていた時も、採取する旦那の代わりに小売りだけしていると嘘を吐いて販売していた。旦那、いたことないけど。
だが、今回の相手は隣人なので、いもしない旦那の存在を仄めかすわけにはいかない。
「私は両親がいないので、食べていくために必死でしたから。尤も万能薬が発売されてから昔ながらの薬草は売れなくなってしまったので、今は辞めましたけどね」
「辞めた奴がどうして解毒薬を持ってるっす?」
「売れ残った物ですが捨てるには忍びなくて、たまたま所持していただけです」
尋問みたいなだな、なんて思いながら今度は青髪の男性に答えると、三人は顔を見合わせたが、やがて赤髪の男性が頭を下げる。
「とにかく、見ず知らずの俺たちを助けてくれたことは感謝する。ありがとう」
「あんがとっす」
「あざーす!」
赤髪に続いて、青髪と黄色髪の男性も頭を下げたので、サリーネは慌ててしまう。
「いえいえ、困った時はお互いさまですから。それでは、私はこれで失礼します」
そう言って扉を開けると、ふわんといい匂いが漂ってきて、三人の男性のお腹が盛大に鳴った。
「肉の匂いがする……」
「玄関の向こう側っす!」
「うおお! 食い物~!」
さっきまで毒に侵されていたとは思えない俊敏さで部屋を飛び出し、サリーネが扉の前に置きっぱなしにしていた鍋を抱えて戻ってきた三人に、顔が引きつる。
「不思議だ。鍋が落ちてた」
「俺たちツイてるっすね!」
「アンタも一緒に食べよう」
尋問していた時とは打って変わって、瞳をキラキラさせて言い募る三人に、「それ、私のです」とは言い出しにくかった。
さよなら、明日の朝ごはんと夕ご飯、ついでに明後日の朝ごはんも……。これも乗りかかった舟、人助けだ。悲しくなんかない。
「ソウデスネ。イッショニタベマショウ」
サリーネがそう言えば、いつの間に取り分けたのか小皿に入ったスープを渡される。
その横では鍋ごと我先にと食べだした三人によって、サリーネの二日分のごはんが見る見るうちに消えてゆく。
一応サリーネの分は小皿にのせて確保してくれる心遣いは見せてくれたので、お腹は満たされたが、部屋に戻ったサリーネはがっくりと項垂れたのだった。