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5、出会いは黒歴史1

 領地の屋敷でもサリーネの地位は低かった。

 王都では元メイドの技能を駆使して母親が食べ物を工面してくれたが、母親が亡くなり義姉に嫌われ、父親に捨てられるように領地へ放り込まれたサリーネを、使用人達はぞんざいに扱った。

 着る物はおろか食べ物さえも与えてもらえない日が数日続き、空腹に耐えかねてふらふらと屋敷の外へ出ると、その辺に生えていた草を食べた。


 たぶん、あのまま屋敷でじっとしていたら確実に餓死していたと思うので、サリーネの行動は正しい。

 しかし、草を食べている所を、たまたま通りがかった少年に見られたのである。


「うまいのか? それ?」


 訊ねられたサリーネはフルフルと首を横に振ると、地面を向いて俯くしかなかった。


 空腹に耐えきれなかったとはいえ、幼いながらに草を食べていることを見られたことが恥ずかくて、早くどこかへ行ってほしいと切実に願った。

 しかしそんなサリーネの願いとは裏腹に少年はサリーネの近くに座り込むと、自分も草をむしりとり躊躇いなく口へ放り込んだのである。


「なるほど。だが、火を通せばそれなりに食えそうだな」


 きっと揶揄われるかバカにされると身を固くしていたサリーネは、少年の言動が信じられなかった。


「え? 食べ……え?」

「え、じゃない。お前も火を起こすの手伝ってくれ」


 そう言うと、少年はその辺に落ちている枯葉や小枝を拾い始める。

 何が何だかわからないが、サリーネも少年に指示されるまま枯葉や小枝を集めさせられ、気づいた時には先程食べていた草も両手いっぱいに取らされていた。


「ちょうど狩ってきたばかりで、焼いたらどんな味がするのか気になってたんだ」


 ニヤリと笑った少年はそう言うと、腰にぶら下げていた袋から油紙に包んだ肉塊を取り出し、小刀で器用に切り分け塩を振る。

 そうしてサリーネを見上げると、顎でクイっと隣に座るように促した。


「ぼうっと見てないで、この肉とその草を交互に枝に刺してけよ。きっとうまい串焼きができる」


 やっぱり状況がうまく把握できないサリーネだったが、少年に言われるまま隣に腰かけると、彼が小枝を集めた時に選り分けていた真っすぐな枝に肉と草を刺してゆく。

 ある程度作った辺りで、少年は小山にしていた枯葉に火をつけると周囲にそれらを並べていった。


 やがて肉の焼ける音と共に辺りには何とも香ばしい匂いが漂って、サリーネのお腹が盛大にグウっと鳴る。


「……!」


 サリーネは羞恥で顔を赤らめたが、少年はニカっと笑うと、串焼きを一本取り上げ目の前に差し出した。


「食え! たぶん、うまいぞ」

「でも……」


 このお肉は彼のものであってサリーネのものではない。それを図々しく頂いてもいいのだろうかと言い淀んだサリーネに、少年は不思議そうに首を傾げた。


「何だ? 毒見が必要か? 狩った時に生のままで一口食ってみたが平気だったぞ」

「え? お肉を生で? 大丈夫なの?」


 この国では生肉を食べる風習はない。

 王都の屋敷にいる時に、義姉の息がかかった使用人からの嫌がらせで腐った生肉を出されたことはあるが、すぐに母親が気づいて捨ててくれ、その時に腐っていなくても生肉は危険だと教わっていた。

 だから思わず質問してしまったのだが、目の前の少年はサリーネの言葉にしたり顔で口角をあげた。


「新鮮な場合は平気だ。狩ってすぐだから味わえる役得ってやつだな。ただ、コイツは生で食った時は臭みが強くてあまりうまくなかった。だからお前の食ってた香りが強い草と一緒に焼いてみたんだ。毒が心配なら俺が先に食うけど、この匂いからして、たぶんいけるはずだ」


 そう言うと少年は串焼きをサリーネに差し出したままニカっと笑う。

 串焼きと少年の顔を見比べたサリーネは申し訳なさそうに眉尻を下げた。


「毒とかを疑ったわけではないの。でも、せっかくの狩りの獲物を私がもらってもいいのかなって思って」


 サリーネの言葉に少年は目をパチクリとさせると破顔する。


「何だ、そんなこと気にしてたのか? 火起こしだって手伝ったし、この草だってお前が集めたんだから、気にせず食えばいいんだよ。ほらっ!」


 ズイっと強引に手渡された串焼きに、サリーネはゴクリと喉を鳴らすと「いただきます」と言って、かぷりとかじりついた。


「……美味しい……!」


 じゅわっと口に広がる肉汁は香りが強い草のおかげか臭みは全くない。

 思わずサリーネが呟くと、続いて少年もガブリと齧りついた。


「うまっ! やばっ! 俺、天才!」


 自画自賛する少年に、サリーネも頷く。


「本当に。あの草が、こんなに美味しくなるなんて魔法みたい」

「だろ?」


 サリーネの言葉に少年はドヤ顔を決めると、二人で残りの串焼きを競うように食べていった。

 今まで生きてきた中で一番美味しいと思いながら食べた串焼きだったが、その肉が大ムカデの魔物の肉だったと聞いてショックを受けるのは、少し経ってからのことである。

 贅沢を言える身分ではないが、魔物はともかくムカデはちょっと気持ち悪い、と涙目になったのは秘密だ。


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