表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/34

18、魔王と幼馴染1

 まるで親の仇でも捜させるような台詞を吐いて辺境領へ帰って行った主に、トンヌラとチンクー、カントは顔を見合わせる。


「とりあえず辻馬車でも調べるか」

「貴族令嬢っすからね。きっとあまり遠くには行ってないっすよ」

「お金もあんまり持ってなかったみたいだし、王都周辺を探せばすぐに見つかる楽な任務だね」


 令嬢一人など見つけるのは難しくないと呑気に言い合って、甘く考えていた彼らだったが、半年経っても全く行方が掴めないサリーネに段々と焦りはじめた。


「なんで、全然見つからねぇ? 髪が金色と水色のツートンカラーなんて珍しい令嬢、どこに行っても目立つはずなのに」

「王都へやってきた乗合馬車での目撃証言はたくさん出てるっす。それなのに王都から離れた翌日以降の証言が全く出てこないなんて、おかしいっす」

「変装してるにしても、年若い令嬢が一人で歩いていたら、普通は誰かしら覚えているはずだよね? それが痕跡すらないなんてお手上げだよ~」


 トンヌラが呆然と呟き、チンクーが焦ったように捲し立て、カントが天を仰ぐ。

 辺境領へ戻ったヨシュアからは、魔物のスタンピートは抑え込んだがそのまま騎士団の育成を図ると連絡があった。

 だから早くサリーネを見つけて連れてこいと、魔物の血(たぶん。扱かれている騎士団の血痕ではないと信じたい)がこびりついた手紙にデカデカと書かれた文字を見て、三人が遠い目になる。


 令嬢一人の捜索など最初は軽く考えて完全に油断していた三人だったが、今ではかなり鬼気迫る勢いで捜している。

 けれど捜せど捜せど全然見つからないのだ。


 ヨシュアからの手紙を前に項垂れた三人だったが、この後も結局サリーネを見つけられず地方を転々とし、八方塞がりなまま王都へ戻ったところ、ついに痺れを切らした主の突撃を食らうこととなったのである。


 ◇◇◇

 

 さて、話はまた少し遡るが、ヨシュアがフォルミア子爵家の令嬢サリーネに懸想していることは、実は辺境領周辺では子供でも常識なくらい有名な話だ。


 それというのも、単独で神出鬼没に魔物を狩りに現れるヨシュアが、ある日を境に必ず一人の華奢な少女と連れ立って行動するようになったからだ。

 しかし魔物狩りには同行させるくせに、あまり人目には触れさせようとしない。

 独占欲が服を着て歩いているようなヨシュアの行動に、人々は一方的に懸想したヨシュアが少女を脅して一緒にいるのだと噂した。


 そのことを伝え聞いたヨシュアの父親である辺境伯は、ある日息子を呼びだし苦言を呈する。


「よったん、最近女の子を連れ回しているそうだが、魔物狩りに同行させるのは危険じゃから辞めたほうがよくないか?」

「女の子? サリーのことか? 危険? 危険……?」


 父親からの言葉に金色の瞳をパチクリとさせたヨシュアは怪訝そうに考え込んだ後、心底不思議そうな顔をした。


「いや、別に危なくねぇし、アイツがいないと魔物の撃破数が格段に落ちる。それに魔物を狩らないとサリーのタンパク質供給源がなくなる」

「タンパク質?」


 どういうこと? と今度は父親の方が息子そっくりな金色の瞳をパチクリさせる。

 そこでヨシュアはサリーネの置かれた環境を話し始めた。


 話を聞いた辺境伯は目を丸くする。

 フォルミア子爵の娘への扱いに憤るも、狩った魔物を嫌がりもせず一緒に食べる令嬢など、なかなかいない。

 しかも調合師の勉強まで始めているようで貴重な存在だ。

 薬草の見極めや調合はセンスが問われるので、なろうと思ってもなれない職業なのだが、サリーネにはどうやら適正があるらしい。

 これは囲い込む必要があると辺境伯は考えた。


 何より他人にあまり関心を見せなかった息子のヨシュアが、サリーネに執着しているのが大きい。

 既にヨシュアは自分よりも遥かに強いが、辺境伯は息子が可愛くて仕方がない性質の父親であった。


 ここは早めに二人を婚約させてしまおうとも思ったが、下手に婚約の話を出してサリーネに利用価値があると子爵に悟られてはいけない。

 後妻の子だからと言って実の娘を蔑ろにするような親だ。

 金をせびられるのは仕方ないにしても、もっといい条件を他からチラつかせられれば容易に約束を反故にするかもしれない。

 ギルドに高値で売りつけるとか、一生タダ働きをさせるとか、好色爺に嫁がせるとか、とにかくクソな未来が想像できる。

 そんなことになれば齢8歳にして魔王の片鱗を見せているヨシュアが、怒りで国そのものを焦土に変えてしまうかもしれない。


「息子が恋して終わったわ……いや、終われるか!」

「ん?」


 軽快なメロディで一人ノリツッコミをした父親に、ヨシュアがキョトンとした顔になる。

 その顔はあどけなく、魔王だろうが人外魔境の化け物だろうが、たまに年相応の表情を見せる息子はやはり可愛い。


「可愛いよったんと人類の未来のため、儂は頑張る」

「? なんか知らんが頑張って」


 相手をするのが面倒くさくなったのか「じゃあ、俺はサリーのとこ行くから」と言って出て行った息子の背中を見送った父親は、宣言通りに辺境伯としての権限を使い息子の悪い噂を払拭させた。

 ちょっと申し訳ないと思いつつ、サリーネを狩りに同行させるのは、ヨシュアがいるから危険は回避できるだろうと判断し黙認した。


 だが実は辺境伯が動く前に、ヨシュアとサリーネが魔物を狩って人々を救っていることが民衆の間で知れ渡るようになっており、二人の気安いやりとりを見た者達が噂を否定したおかげで、すっかり沈静化していたのだった。


 この世界の魔物は人を見れば見境なく襲ってくる。

 動物と違って手懐けることは出来ず、突如として出現し人を襲う魔物を退治して回っている二人を悪く言う噂など、次第に淘汰されたのは自然の摂理といえる。

 それでも相変わらずヨシュアはサリーネをあまり他人へ見せたがらなかったので、大人も子供も嫉妬心の強い若様だと微笑ましく見守っていた。


 そう、誰も魔王とその大切なお姫様を引き離そうとする不届きな愚か者がいなかったため、辺境の平和は保たれていたのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ