研修7 発展する領地2
ベルンに着くとすぐに冒険者ギルドを訪れた。ここでの担当はイサク司祭だ。イサク司祭は受付で自分の冒険者カードを提示する。ちらっと見えたがBランクだった。若い時に冒険者として活動していたらしい。
イサク司祭が「新規ダンジョン発見報告書」を提出すると受付の女性が慌てた様子でギルドマスターを呼びに行った。
出て来たギルドマスターも興奮していた。
「本当なんでしょうか?」
「神に誓って間違いありません。こちらがダンジョンで採取した岩塩です」
「岩塩ですか?それは凄い!!」
ここで、オゴディさんが登場する。
「失礼する。我はオルマン帝国ロンギス・カーン男爵が息子、オゴディ・カーンだ。本日は領主の父の代理で参った。父も冒険者ギルドとは良好な関係を築きたいと考えているのでな。ダンジョン探索部隊を派遣するなら優遇してやるように言付かっておる。宿泊所くらいは用意してやろう」
ギルドマスターも、他国とはいえ、領主の息子が直々にきたのだからそれ相応の対応をしなければならない。ヘンリーさんの作戦では、権威を持たせるためだという。イサク司祭は聖母教会でもそれなりの地位だし、そこにオゴディさんも加わればダンジョン発見の信憑性が増す。
「すぐに探索隊を組織させていただきます。それと報奨金につきましてはこちらのダンジョン調査が終了次第お支払いさせていただくことでかまわないでしょうか?」
「もちろんそれで構わん。我らは明日までベルンに滞在する予定だ。それとこれから商業ギルドに商談に行くので、要件があれば、宿か商業ギルドに来てくれ」
「分かりました。これからすぐにダンジョン探索隊を編成いたします。できればイサク司祭にはもう少し詳しくお話を伺いたいのですが・・・」
「それも構わん。イサク司祭、終わったら宿で待っていてくれ」
「分かりました」
それから、私達は冒険者ギルドにイサク司祭を残して、商業ギルドに向かった。
途中、ヘンリーさんが私とオゴディさんに小声で話しかけてきた。
「付けられてますね。多分冒険者ギルドの関係者だと思います」
「なんと!!荒事になりそうか?」
「それは無いと思います。ダンジョン発見の報告が正しいか、それと私達がどのような人物かを見定めるためでしょう。あのギルドマスターはのらりくらりしていますが、結構抜け目がないと思いますよ。もうすでにダンジョン発見場所に先遣隊も派遣していることでしょう」
「そうか。貴殿の言うとおりになったな。ダンジョン発見現場は手筈どおりに三男と四男を中心に探索したり、宿泊所の建設をしているから安心してくれ」
「そうですね。商業ギルドでの交渉も筒抜けだと思って交渉したほうがいいでしょうね。一番はカーン男爵が誠実な方だと分かっていただけたら十分だと思います」
そんな会話を続けながら、商業ギルドに到着した。
商業ギルドに入ると私達に色々とアドバイスをしてくれたネリス商会の商人達がおり、気さくに声を掛けてきた。
「よう兄ちゃん!!岩塩の鉱脈はもう掘り当てたかい?」
周囲が笑いに包まれた。
「掘り当ててはいませんが、岩塩は手に入れましたよ」
そう言って、ヘンリーさんは岩塩を商人達の前に取り出した。笑い声は止まり、静寂が訪れる。
すると、商人達の代表格の中年男性が話始めた。
「これは一体どこで手に入れたんだ?グリード子爵領の岩塩とは質が違う」
「それはですね・・・・」
ヘンリーさんはダンジョンで岩塩を発見したことに続いて、オゴディさんを商人達に紹介した。商人達はこぞって、オゴディさんに挨拶をしている。いい感じで話が進んだところで、ヘンリーさんが会話に割って入る。
「できれば今ここで岩塩を買い取っていただきたいのです。その路銀で今晩ささやかな宴を開こうとおもっていまして、私も商人としては駆け出しでこの辺りの相場には詳しくありません。一応帝都の価格位では売れるかと思うのですが・・・・」
ヘンリーさんが帝都の価格を提示したのは、商人達が信用できるかどうかを見定めるためだ。ここで、値切られたりすれば商売するに値しない。帝都の価格はここの相場の3分の1の価格なのだ。
「おい兄ちゃん!!もっと勉強したほうがいいぞ。ここでは、グリード子爵領が市場を独占してるから下手したら帝都の3倍はするぞ。だから帝都の価格の2倍までなら喜んで即金で払ってやるさ」
「そうだぞ。それとオゴディ様、今晩宴をするならこちらで費用は負担させていただきますよ。やっぱり酒を飲みながらゆっくり話したいこともありますし・・・・」
(正直なところは信用に値すると思われる)
それから、岩塩を売り、ある程度の話がまとまった後に商人達が用意してくれた酒場に案内してくれた。冒険者ギルドで手続きをしていたイサク司祭には商人さん達の使いが知らせてくれて、程なくしてイサク司祭も合流することになった。
宴会では、イサク司祭と同行した冒険者ギルドの関係者も参加しており、腹の探り合いのような感じだったが基本的には気のいい人ばかりなので、いい形で話が進んだ。
私も頑張った。出て来た料理やお酒を堪能していただけではない。笑顔を振りまき、場の雰囲気を盛り上げた?と思う。かなりの量を飲んだ気がする。気が付くと朝になっていたので、多分飲み過ぎたのだろう。
ベルンからの帰り道、オゴディさんがヘンリーさんに「貴殿の奥方は、酒豪で、ある意味豪傑であるな!!」と言っていたが、怖くて何があったのかは聞かなかった。このことは私の記憶から消すことにした。
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