研修6 発展する領地1
そして次の日、領主様が戻ってこられた。特に問題はなかったが、ヘンリーさんと同じ部屋で泊ったので、緊張で眠れなかった。結婚相手という設定なので、部屋を分けてくれというのもおかしい。眠い目をこすりながら、領主様との謁見に臨む。イサク司祭と領主様の奥様と三男さんと四男さんも同席している。
「我はロンギス・カーン男爵だ。この度はダンジョンの発見、並びに探索を手伝っていただいたことを心より感謝する。オゴディから話は聞いているが何でもダンジョンの専門家でもあり、領地経営にも明るいと聞く」
ヘンリーさんと私が名乗り終えた後にイサク司祭が話に入ってくる。
「領主様。こちらをお読みください。私もこれを読んで感銘を受けたのを覚えています」
イサク司祭が領主様に紙の束を手渡す。手渡したのはヘンリーさんが留学時代に書いた論文「ダンジョンを生かす領地経営」だった。手渡された論文を真剣な表情で領主様は読んでいる。領主様の脇から息子さん達も真剣に論文を読んでいる。
しばらくして領主様が口を開いた。
「これは凄いな。ヘンリー殿、よければ、我らにアドバイスをくださらんか?」
「私ごときの意見で構わないのであれば、いくらでも・・・・」
それから、ヘンリーさんは要点をまとめて説明する。まず最初に行うのは、ダンジョンの調査だ。そこで、採取できる素材や魔物からのドロップアイテムを詳しく調査し、それを元に産業を発展させていくといった感じだ。
「今のところ、岩塩は大きな収入源になると思われます。価格設定も帝都で流通している価格に設定すれば、飛ぶように売れることでしょう。関税も低めに設定すれば、グリード子爵産の岩塩と比較して半分以下の価格になると思います」
「それは嬉しい限りだ。しかし、ダンジョンを探索する人員が不足しているのだ。数少ない領兵もグリード子爵に駆り出された魔物退治で疲弊しているし・・・・」
「それならば問題ありません。冒険者ギルドに人員を派遣してもらえれば大丈夫かと思います。私とナタリーはベルンで冒険者登録もしていますし、商業ギルドに伝手があります。冒険者として、ギルドに報告すれば、いいだけですからね。頼みもしないのにわんさか冒険者がやってきますよ」
「そうか。なら冒険者ギルドへの報告は貴殿に頼んでも良いだろうか?ダンジョンを発見したなら、ギルドから少なくない額の報奨金が出ると聞く。我らからも貴殿に褒美を与えたいが、恥ずかしながら十分な額を出せないのでな・・・」
「そのことなんですが、訳ありの身なもので、発見報告はイサク先輩にお願いしたいと思っております」
突然、話を振られたイサク司祭は驚いている。
「ヘンリー君!!本当にいいのかい?ダンジョン発見なんて、かなり名誉なことだぞ!!ダンジョン研究サークルのメンバーが聞いたらうらやましがるぞ」
「それで構いません。それに報奨金もお譲りしますよ」
「有難い申し出だが、報奨金のことはまた後で話し合おう。えっと・・・ギルドに提出するのは「新規ダンジョン発見報告書」だったかな?初めて書くから時間が掛かるな・・・・すぐに提出できるようにこれから作成するから、私はこれで失礼させていただきます」
イサク司祭は興奮した様子で、謁見の間から去って行った。
オゴディさんがいうには、普段は冷静だが、ダンジョンのことになると興奮してしまうそうだ。
それからヘンリーさんは説明を続ける。
「冒険者ギルドのほうは特に問題はありません。すぐに冒険者が大挙してやってくるでしょう。問題は商業ギルドや商人達との交渉です。かなり抜け目がないので・・・・。私も交渉に立ち会いますが、領主様かそれに準ずる方が直々に訪れて交渉していただくのがよろしいかと」
「分かった。オゴディ!!おまえに商人との交渉は任せる。イサク司祭とともにベルンへ向かうように。それと出発は明日にしろ。それまで各自準備をしてくれ。ヘンリー殿。悪いが歓迎の宴や報奨金は事が落ち着いてからにさせて欲しい。それで構わないか?」
「十分でございます。報奨についてですが、ダンジョン入口周辺の土地を少しいただければそれで構わないのですが」
「そんなことでいいのか?土地ならいくらでも余ってるからな」
「領主様。ご忠告を申し上げます。商人達が狙っているのはまさに土地なのです。ダンジョンの入口付近の土地は今後かなりの価格になると考えられます。冒険者が多数訪れれば、酒場や宿屋等を設置するだけで大きく儲けられますし、素材の買い取りなんかもすぐにできて、大幅に有利になります」
「そういうものなのか。本当にヘンリー殿がいてくれてよかったぞ。オゴディよ。ヘンリー殿に色々と指導してもらうように」
「はい!!しっかりと学ばせていただきます」
そんな感じで謁見は慌ただしく過ぎていった。
そして次の日、私とヘンリーさん、オゴディさんとイサク司祭は用意してもらった馬車でベルンに出発した。ベルンはカーン男爵領から徒歩で1日、馬車で半日の距離にある。これはグリード子爵領の領都までの徒歩で2日、馬車で1日の距離よりも短い。しかし、交易はそこまで盛んではない。理由をオゴディさんに尋ねると怒りをにじませながら答えてくれた。
「ナタリー殿が疑問を持たれるのも当然だ。一時期、ベルンとの交易を盛んにしようとしていたのだが、グリード子爵に良く思われず、「他国と通じて謀反の恐れあり」との噂を流された。領兵が10人もいないような領地がどうやって大帝国に喧嘩を売るんだって、馬鹿馬鹿しくなる。それに次男は騎士団に入隊してるのにな。そもそもグリード子爵に岩塩の供給を止められたら、たちまち我が領は干上がってしまう。そんな理由から、ベルンとは必要最低限の取引しかしてないのだ」
「そうなんですね。でもこれで解決ですね。領主様や領民の方達はみんないい人なので、どんどんと発展してもらいたいです」
「これも貴殿達のおかげだ。まずはベルンでの交渉を成功させないとな」
ヘンリーさんはというとイサク司祭とダンジョン研究サークルの話で盛り上がっていた。
私にできることは少ないけど、精一杯頑張ろう。
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