勇者パーティーがやって来た
私とヘンリーさん、それと新規採用した3人のスタッフはダンジョンのオープンに向けて着々と準備を行っていた。気になることといえば、ミランダ社長が一向に姿を見せないことだろうか。別の仕事があるとは言っていたが・・・。
そして、ドライスタ様が勇者と対面する日がきた。最後の練習をタリーザとしている。
「わ、我は、ドライスタである。種族はグリーンドラゴンだ。そなたがゆ、勇者か・・・」
「威厳があっていいと思います。勇者もひれ伏しますよ」
ドライスタ様は結構緊張しているようだ。
龍神山の麓には、町に似つかわしくない神殿が建てられている。ドライスタ様を龍神様として祀るためだ。何年かに一度、ドライスタ様が利用しているらしい。この神殿だけは魔国デリライトが補助金を出して運営しているようで、地元のゴブリン達を雇用しているみたいだった。
要件は、国王の即位の挨拶などがメインらしい。この前も魔国デリライトの王太子の就任の挨拶に王太子自ら、極秘で訪れたみたいだった。
勇者との対面は、その神殿で行われた。私はフワフワ鳥のフワッチを使役して、状況を見守る。ドライスタ様は練習の甲斐もあり、威厳たっぷりにダンジョンを作ることを勇者に宣言した。そして、颯爽と飛び去って行った。ここまでは予定どおりだ。問題は勇者達の反応だ。
開発を中止して、帰還してしまうという一抹の不安はあったが杞憂だった。
「ダンジョンができるというのはすごいことだろ?それだけで、冒険者が呼べるよ!!しかも古龍が作るダンジョンだぞ。このことを各国に伝えるんだ。それだけで、冒険者が大挙してやってくるぞ」
総合ギルドのギルマスの女性が興奮した様子で話していた。勇者達も喜んでくれているようだった。
この情報を基に冒険者を集める政策を取るとのことだった。
私はヘンリーさんやスタッフ、ドライスタ様に勇者の反応について報告する。
「ダンジョンができることについて、かなり喜んでいた様子でした。これからは、ダンジョンを中心にした領地経営を考えていくそうです」
「そうか。ところで勇者達は、我のことを何と言っていた?威厳があるとか言ってなかったか?」
(そっちかい!!)
とりあえず、上手くごまかすことにした。
「勇者達はドライスタ様の威光に声も出ないような感じでした」
ドライスタ様は満足している。嘘は言っていない。
それから1ヶ月は経過しただろうか、ダンジョンのスタッフは2班に分けて活動していた。ダンジョン構築班と情報収集班だ。ダンジョン構築班は新人の3名が担当し、情報収集班は私が担当する。ヘンリーさんは両方の責任者ということで、私が入手した情報を基にダンジョン構築班と調整してくれている。
情報収集をメインで活動して分かったが、勇者やその側近たちは非常に優秀だ。ニューポートは急速に発展していった。冒険者を積極的に集め、主に西の森と南の草原の採取活動に注力して、大手商会と連携して交易を積極的に行っていた。西の森と南の草原の採取活動が活発になったのは、DPの飛び地回収エリアを設定していたからだ。
西の森にはクワトロメイズのニールさんが考案したキノコの素材発生装置を設置している。ランダムで高級なキノコが出現するもので、性能の割に消費するDPも少ない。
南の草原には「燃える泥」の発生装置を設置している。これはミスタリアの会長ラッセルさんから格安で譲ってもらったものだった。ラッセルさん曰く、ミスタリア創設当時に廃品をタダでダンジョン協会から引き取ったが、全く人気が出ずに倉庫に眠ったままだったそうだ。
「本当にいいのかい?「燃える泥」が有用なのは分かるが、ダンジョンの採取素材としてはちょっとな・・・。ヘンリー君がそう言うなら間違いないかもしれんが」
「大丈夫です。「燃える泥」の扱いはドワーフ族が詳しいので大丈夫ですよ。それに設置方法も考えてありますから」
勇者の一団の中にはドワーフ族の技術者が多くいることを事前の調査で把握していた。有用な素材だが、扱うのにはそれなりの技術と知識がいる。
しばらくして、「燃える泥」の採取と販売はニューポートの主要産業となりつつあった。ドワーフ族が有効活用し、余った分は商人が各地に輸出する。採取活動は地元のゴブリン達を雇用し、冒険者はその護衛にあたるというビジネスモデルができていた。勇者達の統治能力もさることながら、草原に「燃える泥」の発生装置を設置したヘンリーさんの手腕は凄い。
もしこれがダンジョンの奥地での採取となれば、苦労して入手する冒険者はいない。だからこそ、ミスタリアグループでも持て余してしまっていたのだろう。このことをラッセルさんに報告したところ、「我々もまだまだだな。ダンコルと契約してよかったよ」と言ってくれた。
そして今日はヘンリーさんと一緒に最終チェックでニューポートの町を調査で回る。ちょっとしたデート気分なのは私だけだろうか?
歩きながらヘンリーさんは言う。
「人族領の各国の諜報員も多く入ってきているね」
(本当に?それってヤバいんじゃ?)
私が心配そうにしているとヘンリーさんが説明をしてくれた。諜報員と言っても小説や物語のようなスパイを想像するかもしれないが、そうではないらしい。基本的には潜入調査などはせず、町で普通に生活をしながら、誰でも分かる情報をまとめて報告するようだ。
たとえばの話だが、領全体で急に穀物の価格が上がり、鉄製品が市場から消えれば、誰だって、そこの領主が戦争を準備していることが分かる。なので、基本的には地味に情報を集めるのが仕事だそうだ。スパイ活動に嵌っているミーナが知れば、テンションが下がるだろう。
「パッと見ただけでも、聖母教会の関係者、ギルド関係者、大手商会に数人ずつはいるね。ただ、悪いことだけではないよ。キチンとした統治をしていれば、投資の対象になったり、協力関係を深めようとする国も現れるからね」
現時点では、そんなに心配することはないみたいだった。
そして、私とヘンリーさんは総合ギルドに向かった。更なる情報収集をするためだ。
しかし、これが思いもよらない事件に巻き込まれることになる。
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