新規顧客
「やったわ!!論文が認められて、それに仕事も入ったわ!!新規の顧客よ」
そう叫んでいるのは、我がダンコルの社長ミランダ・マースである。なんでも発表した論文が高評価を受けて、それで依頼も来たそうだ。ミランダ社長は、仕事の大半を執筆活動に費やしていたのだが、それが身を結んだらしい。因みにタイトルは「長命種のためのダンジョン療法」らしい。内容は、長命種はダンジョンを持って運営していくべきだと熱く語られている。
そして、今回の顧客はというと古龍らしい。
古龍なんて伝説上の生き物だと思っていたが、本当にいるらしい。その古龍様からの直々の依頼だそうだ。それになんと今回は一からダンジョンを作る仕事みたいだった。
「古龍のオリジナルダンジョンを手掛けられるなんて感激だわ。頑張りましょうね」
ミランダ社長のテンションは高い。
私達は準備をして、古龍の元に向かうことになった。特別顧問のキョウカ様もお誘いしたが今回は断ってきた。
「あのクソトカゲはまだ生きていたのね。向こうがどうしても会いたいというのなら、行ってあげてもいいけど・・・・」
何か昔の知り合いみたいだった。
そしていよいよ古龍の居住する住処に着いた。
移動は臨時の転移スポットで移動した。大まかな立地は人族領のノーザニア王国の北、魔国デリライトの東に位置する海辺の山だ。地元では龍神山と呼ばれているみたいだ。
居住区は、山頂にあり、私は当初洞窟のような場所をイメージしていたが、宮殿のような作りだった。
そこには緑の鱗を持つドラゴンがいた。かなり大きい。荷馬車を10台重ねても追いつかない位に大きい。圧倒的な魔力に気圧される。
「我はグリーンドラゴンのドライスタである。よくぞ来たな!!このままでは話がしにくかろう?」
そう言うと人間のサイズに変身した。古龍は何でもありだと思ってしまった。変身した姿は壮年のイケオジ系で、緑の髪が特徴的だった。そこに青色の髪の美人な女性と10歳前後の美少女が現れた。
「紹介しよう妻でウォータードラゴンのリバイア。娘のドミティアだ」
「ダンコルの代表ミランダ・マースです。この度はご依頼ありがとうございました」
代表してミランダ社長が挨拶をする。
「今回、貴殿らを呼んだのは・・・・」
ドライスタ様を遮り、リバイア様が話始める。
「あなた、私から話します。私が興味を持ったのはこちらの論文です」
リバイア様が差し出したのは「長命種のためのダンジョン療法」ではなく、「魔力暴走障害の治療法」と題された論文だった。発表者はセントラルハイツ学園のエルフの教授だったが、共同著者の所にミランダ社長の名前がある。
「少し込み入った話なのですが・・・妹のことで・・・」
リバイネ様の妹リバイア様は、同じウォータードラゴンなのだが、魔力暴走によって醜い姿に変わってしまい、東の海に住み着いているらしい。地元ではクラーケンと呼ばれていて、周辺の海域を通行する船を片っ端から沈めると噂されている。何とか解決策を探していたところ、今回のセントラルハイツ学園の教授が発表した論文を見付け、伝手を頼ってダンコルに声を掛けたそうだ。
「おかしいと思ったのよ。魔国デリライトの王太子妃が直々に依頼に来るなんてね・・・・」
(あなたはどんだけ、人脈があるんですか?)
「騙し討ちのようなことをして申し訳ないと思いますが、どうかよろしくお願いします」
「とりあえず、やれることはやらせてもらいます。報酬はやはり・・・。ダンジョンをオープンさせてください」
それから、セントラルハイツ学園からウメック先生とエルフの教授陣を呼び寄せた。ウメック先生もドライスタ様達と顔見知りのようだった。長命種のつながりでもあるのだろうか?
エルフの教授が言う。
「キチンとした診察をしないと何とも言えませんが、DPと魔力が混ざっていない分、ロンメル殿よりも治療しやすそうです。ただ、暴走した過剰魔力を吸収するのに2~3時間、最低でも1時間は必要ですな・・・」
「そうなんですね。ただ、それは非常に厳しいと思います・・・・」
ドライスタ様もリバイア様も東の海に近付くとリバイネ様は隠れて出てこなくなるみたいだ。捕獲するところから始めなければならないらしい。
ここでウメック先生が提案をする。
「ドライスタもリバイアもそう気を落とすなよ。気休めにダンジョンでも作ってみたらどうだ。ダンジョンを攻略しに来た冒険者を集めて、リバイネの捕獲チームを作ってもいいし」
その提案はいいと思うが、私はこの地でダンジョンが成功するとは到底思えない。
魔族領でダンジョン攻略に熱心な土地柄でもないし、この付近に居住しているのは最弱種族のゴブリンだ。彼らが危険を冒してダンジョンに挑むなんて考えられない。
そして私は疑問を口にした。
「この地でダンジョン経営なんて、ちょっと難しいのではないのでしょうか?」
ミランダ社長が答える。
「当然、今のままならナタリーちゃんの言うとおりよ。でもその辺は心配しないで!!」
ミランダ社長が言うには、この付近の町に人族が多数入植する話が出ているらしい。
「前にも話したかもしれないけど、魔族チームと人族の勇者パーティーが戦う、決戦というイベントがあってね。勇者パーティーが勝てば、この付近の土地がご褒美としてもらえるらしいのよ。だから、人族が多数入植することを前提にダンジョン製作をしましょう」
「ところで勇者パーティーが負けたらどうなるんでしょうか?」
「それも大丈夫。決戦の参加賞として開発権をもらえるらしいわ。だからどちらに転んでも結果は同じなのよ。形的には勇者が勝ったほうが綺麗だけど・・・初回以来、勇者パーティーが勝ったことはないみたいだから・・・・」
ドライスタ様達の本当の目的はダンジョン製作ではなかったが、本当の目的の為にはダンジョン経営が必要ということは理解してくれたみたいで、ダンコルは社運を賭けてダンジョン製作に取り組むことになった。
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