アフターサービス
ボスモンスターと勇者パーティーは、一進一退の攻防を繰り広げている。なんとか、勇者パーティーを撃退してもらいたい。この思いはマスタールームにいる全員の願いだ。
ここでクリスさんが言う。
「今回に限り、追加でDPを投入することを許可しよう。私も君達を応援する気持ちは同じだからね」
「了解です。それなら、このまま戦線を維持すれば撃退できると思います」
よかった。これで勝てると思っていたが、そうはならなかった。勇者がサポーターの少年に目配せをするとサポーターの少年がスリングショットを取り出し弾丸を撃ち出した。スリングショットとは小型の投石器で、Y字型の本体にゴムが付けられていて、そのゴムに石を挟んで飛ばす武器だ。そういえば、カーン男爵領の子供達がおもちゃとして遊んでいたのを思い出した。そこでは「パチンコガン」と呼ばれていた。
サポーターの少年が撃ち出した弾丸は、魔力が込められているようで、かなりの威力だった。その弾丸は正確で、コウモリ魔人の頭部を撃ち抜いた。まさかの攻撃に対応ができなかったみたいだった。そして、コウモリ魔人は消滅してしまった。
結論から言えば、これが勝負を決める一撃となった。均衡を保っていた戦線もコウモリ魔人が抜けたことで、崩壊してしまった。どんどんと勇者達にボスモンスターが打倒されていく。そして、最後まで諦めずにニールさんは大型グリーンスライムを操っていたが、とうとう勇者パーティーに打倒されて、消滅してしまった。
「今回は仕方がないですね。最後まで切り札を見せなかった勇者パーティーに拍手を送りましょう。まさか、サポーターの少年にあんなことができるなんてね・・・・」
私は悔しい反面、カーン男爵の息子さんが成長しているのを見て少しうれしく思ってしまった。クリスさんは言う。
「残念ながら勇者パーティーに攻略されてしまったが、非常に素晴らしいメインダンジョンを作ってくれたと思う。そしてミランダ、ナタリーさん、ありがとう。想像以上の成果だ。追加報酬は弾もう」
なんとか、仕事は成功したようだ。
それから1週間後、私は現地の冒険者ギルドを訪れていた。
ミランダ社長の指示で、冒険者や町の状況をレポートにして報告する仕事を仰せつかったからだ。DPの収支もそうだが、クワトロメイズでは特に冒険者の反応も気になるらしい。そこで、追加依頼ということで仕事を受けたみたいだった。
まあ、話を聞いてレポートにまとめるだけなので、それほど難しい仕事ではない。
ギルドは大変な盛り上がりを見せていた。話題は「ジメジメニート」が復活したという話で持ちきりだった。そこらかしこで、パーティーの新メンバーの募集が行われている。
「火魔法の特異な魔法使いか、毒攻撃に対抗できる人は多めに報酬を出すぞ!!」
「採取が得意な冒険者も歓迎だ」
(ジメジメニートのダンジョンでは毒攻撃をしてくる魔物や火属性に弱い魔物が多く出現するかららしい)
そんな喧騒の中、私は受付で要件を伝えると応接室に案内された。人族用の名目はもちろん新規ダンジョンの調査ということにした。
応接室にはギルドマスターと以前に応対してくれたベテランのダンジョンガイドがおり、二人とも上機嫌だった。
「今回のダンジョンは新種ですから盛り上がってますし、冒険者も『勇者パーティーに続く攻略パーティーは俺達だ』と言って情報を集めたり、メンバーを募集したりしてるんですよ。ダンジョンガイドの依頼も多く来ていて、儲かってますよ」
ギルドマスターは嬉しそうに語る。更にベテランダンジョンガイドは続けて言う。
「新種ダンジョンもそうですが、「ジメジメニート」の復活は大きかったですね。16階層のキノコハウスは「ジメジメニート」の仕事としか思えませんし、これから奴のサブダンジョンもオープンするかもしれませんからねえ。そうなったらウハウハですよ。ところで、ここ何年も「ジメジメニート」は何をしてたんでしょうか?失恋でもしたのかな?」
冗談だろうが、当たらずとも遠からずといった感じだった。そこからも引き続き、上機嫌で話をしてくれた。
他にも今回のメインダンジョンの効果はあったみたいだった。
「ギルドで分析したところ、どうも今回のメインダンジョンは「脳筋種軍」や「意地悪男爵」も手を貸してるのではと思っているんです。それで・・・」
ギルドの分析力も侮れない。
ギルマスの話によると高ランクの冒険者の中にはサブダンジョンを無視して、メインダンジョンだけ攻略に来るパーティーも多くいたのだが、そのパーティーもサブダンジョンを攻略するうようになったそうだ。メインダンジョンに向けての試運転といったところだろう。
「なので、そのパーティーもダンジョンガイドを付けてくれるようになったり、滞在日数も伸びるので、テトラシティとしても助かってますよ」
ダンジョンの評価はもちろんだが、テトラシティ全体にいい影響が出ているみたいだった。
「それはそうと新しいダンジョン作成者の名前が決まったのでお伝えしておきますね」
「ザ・エリート」
それがギルドが名付けたダンジョン製作者の名前だった。理由は、計算しつくされた非常にバランスの良いダンジョンで、多分エリートが作ったのに違いないという意見を採用したみたいだった。
本当は、教科書(初級ダンジョン学入門)のとおりに作っただけなんだけどね・・・・。
調査が終わった私は帰路につく。私はふと思った。
冒険者やギルド関係者にすれば「ジメジメニート」、それから低迷期の「猿真似ゴミ野郎」、「寄せ集めのクズ」、そして今回の「ザ・エリート」と同じ人物が作ったダンジョンとは、思いもよらないだろう・・・・。
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!
 




