復活会議
アーティストの研修が終わり、いよいよメインダンジョンの構築に向けて会議を行うことになった。代表のクリスさん、ルキアさんとアーティストの4人、それにダンコルからは私とミランダ社長が参加している。ヘンリーさんは、やっぱり別の仕事が忙しいみたいで不参加だった。
会議が始まるとニールさんが声を上げた。
「今回のメインダンジョンは、僕に任せてくれませんか?今まで迷惑を掛けて、皆さんには申し訳ないと思うのですが・・・でも今回の研修で自分が目指すべきものが見付かったのです。なので、僕はアーティストを辞めます。そして・・・・」
ここで脳筋将軍ことオーエンさんが遮る。
「ちょっと待てよ!!メインダンジョンをやりたいけど、アーティストを辞める?意味が分からんぞ!!」
「すいません。最後まで聞いていただければ分かると思うのですが、僕が目指すのはアーティストではなく、ダンジョンコーディネーターです。僕は皆さん程、個性に溢れたダンジョンを作ることはできません。なので、皆さんの力を最大限に引き出せる裏方に回ろうと思います。とりあえず、この計画書を読んでください」
二ールさんが差し出した計画書を読んでみる。なかなかの出来だと思った。
他のアーティスト達も納得した様子だった。
「なるほど、師匠にも仲間と協力することは大事だと常日頃から言われているし、俺は賛成するぞ!!」
オーエンさんに引き続き、「見栄っ張り婦人」ことコーデリアさんも声を上げる。
「そうですね。このダンジョンの中にもさりげない美しさや気品を感じさせるエリアを作らせてもらえるなら構いませんわ」
いたずら好きの妖精姉妹も賛同する。
「普通のダンジョンと思わせて、いきなりトラップがあったほうが効果的ね」
「キョウカ様もツンとデレ、両方とも大事だって仰ってたし・・・」
(キョウカ様は一体何を指導していたのだろう?)
しかし、「お魚君」ことマーマンのマモンさんは優れない顔をしていた。私は心配になり、声を掛けた。
「マモンさんも、ご意見があれば言って下さい。遠慮しなくていいですよ」
「メインダンジョンについては賛成です。ただ、皆さんの変わり様を見て、僕も研修に行きたかったなと思いまして・・・」
マモンさんは研修に参加できなかった。クリスさんが一度にすべてのアーティストを研修させることは、運営上できないとのことだったので、今回は研修を我慢してもらっていたのだ。
ミランダ社長が言う。
「後日マモンさんにも、研修を受けていただくことは可能ですよ。クリスさんがダンコルと契約を延長してくれればの話ですが」
「ミランダも商売上手だね。分かった契約しよう」
そんな感じで、会議は無事終わった。それから細かいダンジョン構成については、口を出さず、アーティスト達の自主性に任せるということになり、私はクワトロメイズに常駐するのではなく、定期訪問に切り替えた。
そしてメインダンジョンの改変は順調に進み、ついに完成した。メインダンジョンをプロデュースしたアーティストあらためコーディネーターのニールさんが私とミランダ社長に案内してくれた。
「まず、このダンジョンを作るに当たって参考にしたのはこちらの本です」
二ールさんが見せてくれたのはやはり
「初級ダンジョン学入門」ミランダ・マース著
だった。
「この本を参考にみんなで話し合ったところ、基本に立ち返ろうということになったんですよ。要約するとこんな感じですね。
・テーマを意識したダンジョンがいいダンジョン
・難易度は階層ごとで変更して、撤退の判断をしやすくする
・概ね5階層に1体ずつボスを配置する
・ダンジョンボスはそのダンジョンを象徴するボスを配置するほうがいい
・セフティースポットはあったほうがいいが、ありすぎるのも良くない
・すべてはバランスと調和
この本を書かれたミランダ先生から直接教えを受けることができて、本当にうれしいです」
二ールさんは興奮気味い語ったが、ミランダ社長は少し引き攣っていた。
「そ、そ、そうね。参考にしてもらえて、嬉しいわ・・・」
メインダンジョンはというと、本当にミランダ社長の本のとおりに作られていた。20階層からなるダンジョンで5階層ごとにボスモンスターが設置されている。それにそれぞれのアーティストが受け持つエリアが設定されており、迷路や罠が張り巡らせたエリア、攻撃魔法無効エリアなどが設置されている。
「そして今回のメインは、ダンジョンボスですね。僕とオーエンさん、コーデリアさん、妖精姉妹がそれぞれ自慢のボスモンスターを用意して、互いに連携できるようにしたんですよ。この辺が少し難しかったですね。それに今回の勇者パーティーはかなりバランスの取れたパーティーなので、戦う相手がバランス型だと戸惑うと思うんですよ」
ニールさんが優秀なところは、情報収集能力と分析力だと思う。これはヘンリーさんに通じるところがある。ニールさんの分析によると勇者パーティーはエルフの拳闘士とドワーフの女戦士の強力な前衛、回復役兼タンクもできる神官騎士、高レベルの女魔法使いの後衛、それを指揮し、フォローする万能型の女勇者なので、いくら強くても尖ったボスモンスターでは太刀打ちできないとのことだった。
「みんなも早く勇者パーティーが来ないかと、ワクワクしてますよ」
ニールさんは凄く楽しそうで、ハツラツとしている。ちょっと前のジメジメ感は全くない。
「これなら心配なさそうね。ナタリーちゃん。私達は一端帰ることにしましょう」
勇者パーティーが来るまでは、私達はのんびり過ごしていた。基本的には事務処理がメインだった。
あるとき、私はミランダ社長に尋ねた。
「社長の本が参考にされて、嬉しいんじゃないんですか?」
「そ、それがね・・・」
ミランダ社長が言うには、「初級ダンジョン学入門」を執筆した当時は、かなり尖っていたそうだ。とにかく新しく、誰も作ったこともないダンジョンを構築しようとしていて、DPの収支を無視した作りを提案して、クリスさんとよく衝突したそうだ。当時を振り返ると多分、厨二病だったとのことだ。
「あの頃は私も若かったわ。だから学会用の論文で、決まりきったダンジョン構成は面白くないという意図を込めて、典型的なダンジョン構成を書いていたのよ。そして、後半でボロカスにこき下ろしてやろうと思っていたのだけど、担当者が下書きを論文だと勘違いしたみたいで、そのまま学会に提出されたのよ」
その後は、思いのほか学会の受けがよく、そのままの内容で書籍化されることになったようだ。そして、しばらくはダンジョン経営学部でも教科書のような扱いになっていたらしい。
「当時はベストセラーになったので、人族領にも結構出回っていたのよ。もちろん、ダンジョンの極秘事項は隠蔽してだけど。だから、今更教科書のように扱われても・・・ちょっと複雑ね」
「でも、社長の本のおかげで、一つのダンジョングループが救われたと思えば、いい仕事をしたと胸を張りましょうよ」
「ありがとう、ナタリーちゃん」
そんな会話をしていると勇者パーティーがテトラシティに到着したとの一報が届いた。
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