依頼という名の・・・
ルキアさんは一人ではなかった。一緒に来たのはルキアさんの父で、有名ダンジョングループ「クワトロメイズ」の代表クリストファー・ロンドさんだった。人族で言えば30代くらいに見える、紳士的な男性だった。ミランダ社長とも面識があるみたいだった。
「ミランダ、久しぶりだね。最近では親族の集まりに顔も出さないしね」
「クリスも相変わらずね。ところで急にどうしたの?」
「それは依頼というか・・・・」
クリストファーさんは説明を始める。
「クワトロメイズ」はノーザニア王国にあるダンジョン都市テトラシティに本拠を置いている。ダンジョン都市だけあって、入場者も多いし、常に4つのダンジョンを稼働させているみたいだ。
「今のところ、特に問題も起きていないし、順調なんだけど、そちらのヘンリー君に興味があってね。今の状況を見てもらって問題点を指摘してくれたり、アドバイスをしてくれるんじゃないかと思って来たわけさ。娘のルキアも興味があるみたいだし・・・・」
(あれだ。依頼にかこつけてヘンリーさんを見定めようとしてるんだろう。娘の思い人だからね)
「それはコンサルタントの本来の業務だからいいけど、ヘンリー君はしばらくは手の離せない仕事を任せていてね。私もそろそろ論文の提出期限が迫っているし・・・・すぐに派遣できるのはナタリーちゃんくらいなんだけど・・・・」
(私に経験がなく、やれないっていうんですか?)
「社長お任せください。こう見えて私はヘンリーさんに公私ともに全幅の信頼と寵愛を受けているんですよ。できない依頼なんてありませんよ」
これにはルキアさんが、怒りの表情を浮かべる。心の中で「ざまあ見ろ!!」と呟く。多分ヘンリーさんがいないし、すぐに行けないとなるとこの話は流れる。もう少し煽ってもいいかもしれない。
そう思っていたが、ルキアさんは驚きの発言をする。
「それでは、こちらのナタリーさんにお願いしませんか?ご本人がヘンリーさんと同等の実力があると仰っているのですから」
「ルキアがそう言うなら、私はそれでも構わないが・・・・。よし、そいうことで近いうちにナタリーさんを派遣して欲しい」
「もちろんよ」
「それじゃあ、契約に移ろう。いきなり顧問契約は無理だから、今回はお試しということで頼むよ。ナタリーさんの活躍次第では、長期的な顧問契約を考えるよ」
(おっと、これは予想外で責任重大だ)
結局、それで契約となってしまった。派遣先に出向くのは3日後、期間は1ヶ月で必要があれば延長する。その仕事ぶりを判断して、今後の契約をどうするか決めるというものだった。
口は災いの元とは良く言ったものだ。責任重大な仕事に就けられてしまったし、勝ち目のない無理ゲーをさせれることは確実だろう。ルキアさんは、ヘンリーさんと仕事ができないと分かると私を虐めることに切り替えたのだろうと予想する。
二人が帰った後にミランダ社長に私の考えをぶつける。ミランダ社長は言う。
「なるほど、ヘンリー君目当てか・・・・それに逆恨みしてナタリーちゃんの就職を妨害したりか・・・でももう契約しちゃったし・・・・」
「今から断るとかはさすがに無理ですか?」
「そうね。とりあえず1ヶ月我慢して行ってくればどう?あそこはあそこでかなり特殊だからコンサルなんて必要ないと思うし、調査の結果「コンサルの必要性なし」でも別に構わないからさ。それにナタリーちゃんはコンサルタントぽい事がしたいって言ってたよね。ちょうどいいじゃないの」
「それはそうですけど」
「じゃあ決まりね。こっちもお試しコンサルの料金だけもらえば、後はいいから」
そんな感じで3日後、ノーザニア王国テトラシティにある「クワトロメイズ」の本部に赴いた。
もちろん3日間、遊んでいたわけではない。今までの活動記録を読み漁り、ヘンリーさんが今までやってきたことを頭に叩き込んだ。そして気付いた。ヘンリーさんの真似をすればいいんだ。イメージで言えばヘンリーさんを私の中に召喚した感じだろうか。
そうと分かればなんだか、根拠のない自信が生まれて来た。そうだ私は短期間で3件以上のダンジョンを立て直した天才コンサルタントだ。なんでもできる(はず?)。
着いて早々、クリストファーさんやルキアさん、それにスタッフさんに対して自信満々に言ってしまった。
「私はナタリー・ヒューゲル、「ダンコル」のコンサルタントです。これから私が皆さんの問題を解決していきます。よろしくお願い致します」
しかし、空気は冷たかった。「いきなり来て、この小娘は何を言ってるの?」みたいな空気でクスクスと笑っている者もいる。
「それではお父様。ナタリーさんにメインダンジョンを任せてみては?お手並み拝見と行きましょうか?」
「そうだな・・・じゃあナタリーさん、お願いします」
「はい、お任せください」
すぐに、私は自分の馬鹿さ加減がほとほと嫌になった。後で分かったことだが、私が受けた仕事は責任重大で、失敗すれば大きな損害を出してしまう。それにスタッフさん達が敵意を剝き出しにしてくる。
筋肉隆々のオーガ族の男性が怒鳴り始めた。
「大将!!それは無いぜ。今回は俺にやらせてくれるんじゃないのか!!」
それに併せて、ダークエルフの無駄にキラキラしたドレスを着た女性が口を挟む。
「勇者パーティーが来るのに脳筋の馬鹿が何を言っているの?そんなの私で決まりでしょ」
今度は妖精族の双子の姉妹が文句を付ける。手乗りサイズで可愛らしいが口は悪い。
「お姉様。馬鹿と見栄っ張りおばさんが揉めているわ」
「クズは放っておきましょう。私達がメインを担当すればいいのよ」
「誰が馬鹿だ!!殺すぞクソチビども!!」
それが呼び水になり、スタッフの間で大喧嘩になってしまった。クリストファーさんは言った。
「そうだ。スタッフ達の仲を良くしてもらうことも、依頼内容に入れよう」
(そんな無茶な!!何でこんなに揉めているのかも分からないのに?)
私は、動揺を表に出さないようにして、ヘンリーさんの真似をして答えた。
「わ、分かりました。とりあえず現状を把握しましょう。別室で話を伺ってもよろしいでしょうか?」
私はクリストファーさんに応接室に案内された。
「それではクリストファーさん。現状の説明と資料があればお見せください」
「ナタリーさん、気軽にクリスでいいよ。じゃあ、うちのダンジョンのコンセプトを説明していくね・・・」
クリスさんが代表を務める「クワトロメイズ」はテトラシティに4つのダンジョンを持っていて、内訳は3つのサブダンジョン(初級から中級者向け)とメインダンジョン(上級者用)で、約3ケ月に一度改変するらしい。私が依頼を受けたのはメインダンジョンの改変作業となる。
テトラシティはダンジョン都市としての評価も高く、大陸中の冒険者が一度は訪れたいダンジョンとして有名だ。
「我が「クワトロメイズ」ではメインダンジョンを改変することは非常に名誉なことなんだ。基本的にはアーティストが持ち回りでやるんだけどね」
「アーティスト?」
「うちでダンジョンマスターの権利を持っているスタッフのことをそう呼んでるんだ。私が思うにダンジョンというのは芸術だと思うんだ・・・・つまり侵入者との戦い、言うなれば格闘芸術とでも・・・」
多分、この人もダメな人だ。ミランダ社長の親戚だけのことはある。
しばらく、ダンジョン論を聞くしかない。今日は家に帰れないだろう・・・・
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