研修4 企画提出
それから、調査は更に続いた。
カーン男爵領はオルマン帝国の北東部に位置している。オルマン帝国南部は帝都等の大都市が多数あるが、北部は山間部で南部程発展していない。カーン男爵領は、北部を小国家群との国境に面しており、南はグリード子爵領と面している。このグリード子爵というのが曲者だ。カーン男爵領から南部の大都市まで出るにはグリード子爵領を通過しなければならず、また岩塩の産出地でもある。
カーン男爵領は、小国家群との交易は盛んではないため、グリード子爵に街道封鎖や岩塩の供給の停止等の措置を取られれば、たちまちカーン男爵領は干上がってしまう。つまり、カーン男爵領はグリード子爵に生殺与奪の権利を握られているに等しい。
なので、いいように使われ、無理な要求も突き付けられている。今現在も、領主自ら三男と共にグリード子爵領の魔物討伐に駆り出されている。
「酒場の噂話であったとおり、もしダンジョンができたとしても、グリード子爵に利権を奪われてしまうということでしょうか?」
「そうだね。グリード子爵が良識的な領主であれば問題ないのだが、どうもそうではないらしい。それが懸案事項の一つだ。一応、現地で調査しようと思うんだが、君の意見を聞きたい」
「私も現地調査は大事だと思います」
(まあ、流れ的に反対することはできないんだけど・・・)
グリード子爵領の領都に到着した。それなりに発展しているようだ。私とヘンリーさんは冒険者を装って、酒場に入る。地元の住民がよく利用する酒場と行商人達や冒険者が集まる酒場の2件でそれぞれ情報収集することになった。
地元民からは、「強欲だ」「何かにつけて税金を取られる」「逆らうとひどい目にあう」といった声が聞けたし、商人からは「通行料が高すぎる」「小国家群からオルマン帝国の帝都に行くにはグリード子爵領を絶対に通過しないといけないので、言いなりになっている」と悪い評判しか聞かなかった。
「これは思ったよりひどいですね。一端、ダンジョンに戻る感じでしょうか?」
「いや。もう1箇所調査したいところがある」
そして次の日、私とヘンリーさんが訪れたのは、カーン男爵領から国境を隔てた小国家群の町ベルンだ。商業都市としてそれなりに発展している。
「あの!!なぜこんなところへ?研修に関係ないように思うのですが・・・・」
「そうだね。そのうち分かるよ」
ベルンに着くとまずは、冒険者ギルドで冒険者登録をさせられた。そのときは単純にダンジョンPR作戦の信憑性を高めるくらいにしか思っていなかったけど・・・・。
そして、次に訪れたのは商業ギルドだ。こちらでも登録を行った。理解ができない。ヘンリーさんは、入会すればもらえる主な相場表を真剣にみたり、先輩商人にアドバイスをもらったりしていた。
特に熱心に話を聞いていたのはネリス商会という、商業都市ダッカを拠点にしている大商会の商人達だ。私は会話に入れず、ヘンリーさんと商人達の話を聞いているだけだった。それにしても、この短時間で商人達の心を掴んでいる。本当にヘンリーさんは凄い。
「先輩方が所属するネリス商会さんは、グリード子爵領の領都に支店を出さないんですか?結構栄えていたのですが」
「兄ちゃんはまだまだ素人だな!!あそこは、ここだけの話、領主が駄目だ。先代まではまともだったんだけどな。支店を置いたとしても優遇してくれるどころか、税金やなんやでむしり取られるのが目に見えているぜ」
「そうそう。近辺で岩塩が取れる所がないから仕方なく取引しているだけだからな。それに岩塩を独占しているからこそやりたい放題だよ。足元見やがって・・・・本当に腹が立つ」
「まあ、兄ちゃんも表面的なことだけを見ずに、物事の本質を見抜けるようにならないとやっていけないぜ」
「先輩方ありがとうございます。大変勉強になりました。つまり、新たな岩塩の入手先が見付かれば、大儲けができるということですね!!岩塩の鉱山でも見つからないかなあ・・。」
ヘンリーさんの発言に先輩商人達は大爆笑した。
「おいおい!!そこら辺の山を適当に掘って、岩塩が出てきたら世話ないぜ。そんな話があったら、真っ先に俺達が飛びついてらあ!!」
ここまで話を聞いて、ヘンリーさんのやろうとしていることが朧気ながら分かってきた。
そして、マーナさんが指定した企画書の提出期限がきた。私とヘンリーさんは企画書を提出する。
「1週間と指定していたけど、ギリギリだったわね。ヘンリー君なら1日で提出してくると思っていたけど、買い被り過ぎたのかな?どうせ冒険者を装って、『ダンジョンを発見しました!!』と領主に報告するくらいでしょ?あれ!?集客の企画書にしては厚過ぎるわね。こ、これは・・・・」
企画書をパラパラとめくっていたマーナさんが青ざめる。
「手の空いているスタッフはすぐに集合して!!緊急会議を行うわ」
マーナさんを焦った様子でスタッフを集めて緊急会議を始めた。集まって来たスタッフも企画書を読んで絶句する。しばらくみんなが押し黙った後、ミーナさんがおもむろに話始める。
「私はダンジョンマスターとして、この企画書を採用しようと思います。かなりダンジョン構造も変更しなければなりませんが、協力してください。お父様への報告は私が責任を持ってやります」
スタッフさん達は、ため息をつきながらも了承してたみたいだった。
スタッフの一人が呟く。
「まあ仕方がないですね。しかし、この短期間でよくこれだけの仕事ができたもんだ。今回の研修生は凄いな」
そしてそれからは、かなり忙しい日々が続いた。
ヘンリーさんの活躍もあり、マーナさんが思っていたほど、大幅な変更はなく、何とか間に合った。私もお茶くみや掃除、荷物運びを頑張った。
えっ?ただ雑用をしてるだけじゃないかって?
多分、ヘンリーさんが凄すぎるだけで、普通の研修生はこんなものだと思う。というか、そう思いたい。
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