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研修3 綿密な情報収集

まず私達が調査したのは、B-5ダンジョンの基本的な構造とコンセプトだ。B-5ダンジョンは4層からなり、鉱山エリア、キノコエリア、薬草エリアとダンジョンボスエリアとなっている。採取できる素材も高級なものはほとんどなく、鉱山エリアで極々希にミスリル鉱石が採取できるぐらいだ。

出現する魔物も弱く、冒険者ランクでいうCランク、Dランクでも余裕を持って討伐できる。

因みに冒険者はA~Fの等級に分けられている。Aランクより上のSランクの冒険者はいるにはいるがごくごく少数で、実質Aランクが最高ランクらしい。


ダンジョンボスもグレートボア、グレートコング、グレートベアがランダムで1体出現する。これもBランク程度の冒険者なら単騎で討伐可能で、駆け出しと呼ばれるDランク、Eランクでも連携すれば十分に討伐可能だと思われる。当然、討伐報酬も大したものは出現しない。


正直、ダンジョンの構造や配置を見てもやっつけ仕事としか思えない。魔物はスポーンと呼ばれる魔道具からすべて発生させているだけで、そのスポーンもダンジョン協会が格安で販売している中古品だ。私がダンジョンマスターでもダンジョンボスくらいは、もっといいスポーンを購入して、強めのボスを出現させると思う。それに採取できる素材も、格安の生成装置を使っている。これも型落ちの旧型だ。市場でそこそこの値段で取引される素材しか出てこない。

これで、本当にダンジョンとしてやっていけるのだろうか?

そんな思いが顔に出ていたのだろうか、マーナさんが声を掛けてきた。


「よくまあこんな中古品の詰め合わせで、ダンジョンを作ったものだと思ったでしょう?」


「あっ、いえ、そんなことは・・・・」


「いいのよ。私だってそう思ったんだから。でもね、これはこれでグループのコンセプトである「誰からも愛される地域密着ダンジョン」を体現しているのよ・・・」


マーナさんの説明によると、代表のラッセルさんは当初は凝りに凝ったダンジョンを作っていたらしい。しかし、思ったように入場者は伸びず、最終的にはダンジョンを手放さなくてはならなくなった。それでもダンジョン経営の夢をあきらめきれず、ダンジョン協会から中古のスポーンや格安の素材生成器を買ってなんとかダンジョンをオープンした。

そうしたところ、予想外にDPダンジョンポイントを得ることができた。それで、自分なりに調査した結果、ある結論に達したそうだ。

それは、こんな格安のダンジョンでも、必要としてくれる場所があるということだ。だから、この格安ダンジョンでもやっていける場所さえ見つかれば、十分経営していけると結論付けた。


「詳しいDPの収支は後で資料を見てもらえれば分かるんだけど、1日に10人冒険者が来るだけでも十分採算が取れるのよ。だから、最初の集客さえ上手くいけば、十分にやっていけるわ」


資料を確認する。

よく見ると、決して高くはないが、そこそこ人気のある素材やドロップアイテムを用意しており、DPが掛からないなりに工夫がなされている。

私は、自分の浅はかさが恥ずかしくなった。

マーナさんに謝ると、マーナさんは快く許してくれた。


「ヘンリー君の案だと、次はカーン男爵領の再調査をするみたいね。私はオープンに向けて最後の調整をスタッフと行うから調査は二人だけで行ってきてね」



二人とも擬態魔法で角を隠し、一見して魔族とは見えないようにして、カーン男爵領の領都に向かうことになった。

まあ、領都といっても、何をどう贔屓目に見ても大きめの村といった感じだ。これといった産業が無い中で、何とかやってこれていることを考えるとカーン男爵は有能な領主なのだろう。

資料によるとカーン男爵には息子が5人で、次男と五男は家を出て、独立している。因みに次男はオルマン帝国騎士団に入隊している。

家族仲は良く、実家に残っている長男、三男、四男は強力して、カーン男爵を支えているみたいだ。


私とヘンリーさんは宿を取った後に1件しかない酒場に向かった。資料が正しいかどうか、領民の生の声を聞くためだ。私とヘンリーさんは、旅の冒険者という設定で酒場の客から話を聞いていた。


「いい領主様だよ。贅沢はしないし、俺達のことを真剣に考えてくれている」

「この前は、領主様が自ら魔物を討伐してくれたからな」

「ただ、財政は厳しいと言ってたな。騎士団に入った次男のモンド様が早く出世してくれたら、コネで何とかなるかもだけど・・・」


資料のとおり、領民思いの領主だが、領政は財政的に厳しいようだった。


「なんかすごい鉱石でも見付かれば、一気に裕福になるのになあ」

「止めておけよ。隣の領の強欲子爵様に横取りされるのがオチだぞ」


やはり、ダンジョンができれば、領民も喜ぶだろう。

酒場を出た後にヘンリーさんに話しかける。


「これなら当初の予定どおり、私とヘンリーさんが冒険者に扮して、『ダンジョンを発見しました!!』と触れ回ればいいだけですね。思ったより簡単ですね」


しかし、ヘンリーさんの表情は優れない。


「それでもそれなりの成果を上げられると思う。しかし、もっと良い解決策があるはずだ。それにこのままだとダンジョン経営が失敗してしまう可能性がある。もう少し考えてから提案してみよう」


私には、何が問題なのか分からなかった。


「私は何が問題なのか分からないです。分かるように教えてもらえれば有難いんですが・・・・」


「僕自身もまだ確信が持てないんだ。だからもう少し調査したいんだけど、手伝ってくれるかい?」


(そんな、真剣な目で見つめられたら「はい」としか言えなくなるじゃない・・・・)


私が了承するとヘンリーさんは私達の設定を少し変えると言い出した。冒険者は冒険者だが、ヘンリーさんは貴族の名家の御子息で、親に結婚を反対され、駆け落ち同然で家を飛び出してきたことにするらしい。因みに私はその結婚相手だ。

そして、突然私の手を握って来た。


「一応周囲にバレないようにこんな感じで、スキンシップを取ることがあるかもしれない。なので、嫌かもしれないが、我慢してくれると助かる・・・・」


(嫌なわけないじゃん!!好きに触ってください)


「に、任務のためなら頑張ります!!」


緊張して、そうとしか答えられなかった。

後で冷静になったよく考えてみると、このことがヘンリーさんのファン達に知られれば、多分、私は殺されてしまうだろう。


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