防衛戦1
「よしよし、いい子だからこっちに来て!!」
「キュー、キュ?」(何かな?)
「キュッ、キュッ」(悪い人間ではないみたいだけど、頭悪そうだな)
「クーン」(でもいい匂いがするな)
「クーン」(グレートボアの肉っぽいけど・・・)
今私が話しているのは、一角兎の一家とフワフワオオカミの若夫婦だ。
私はこれでも魔王学院のテイマー養成学部をそこそこ優秀な成績で卒業しているのだ。モフモフした魔獣限定で意思疎通が取れる。
ここで一角兎には木の実のクッキーをフワフワオオカミにはグレートボアの燻製肉を差し出す。無心に頬張っている。
「キュッキュキュウー」(旨すぎる~)
「クーン」(旨い!!)
「クーン、クーン」(旨いけど、食い物にはつられないぞ!!話ぐらいは聞いてやるけど)
私は魔獣たちに事情を説明する。
フワフワオオカミの夫婦は文句を付けてくる。
「クーン!!クーン!!」(そんな危険なことに肉1個って!!)
「クーン!!」(人でなし!!)
「肉はもっとあげるし、それにマッサージもしてあげるからね。お願い!!危なくなったらすぐに逃げてもいいから・・・」
それから3時間、魔獣たちにマッサージをし続けている。フワフワオオカミだけでなく、一角兎も興味があったみたいで、マッサージをねだってきた。私はモフモフマッサージの達人でもあるのだ。
「もしよければ、この首輪をつけてくれたら嬉しいな・・・・。私とお揃いだし・・・」
ミルカ様から渡された魔道具の首輪と同じ原理で、かなり遠く離れても念話で会話できるし、場所も正確に分かるのだ。
「キュー!!」(いいよ)
「クーン!!」(分かったよ)
なぜこのようなことをしているかというと、情報収集のためだ。何せ私は魔獣を使った偵察隊長なのだ。隊員は一角兎の一家4匹とフワフワオオカミの若夫婦2匹だけだが・・・・。
「ということで、私を呼ぶときは隊長ね!!」
「キュ!!」(隊長!!)
「クーン!!」(隊長!!)
いい子達だ。
町では、戦闘態勢が取られている。
まずは兵士の確保だ。実際カーン男爵領には20名しか正規の領兵はいない。臨時や引退した領兵をかき集めても、35名にしかならなかった。後は冒険者に頼むのだが・・・。
領主様は、ほとんどの冒険者はいなくなってしまうだろうと予想していた。カーン男爵から給料をもらっているわけでもないし、ダンジョンの恩恵を受け、それなりに優遇はされているかもしれないが、自分の命を賭けてまで戦ってくれるとは、思っていない。
しかし、予想は大きく裏切られた。カーン男爵の人柄もあるが、骸骨騎士様の演説も大きかったと思う。冒険者ギルドの支所に赴き、こんなことを言ったのだ。
「諸君らは自由な冒険者だ。誰に強制されることもない、戦ってもいいし、好きに逃げてもいい。ただ、これだけは覚えておいて欲しい。もし「恵みのダンジョン」がグリード子爵の手に落ちたのならば、今までのようにはいかない」
グリード子爵は冒険者を軽視している。法外なダンジョン入場料を取られることは目に見えている。
「騎士は主君や国民の為に命を賭ける。冒険者は何に命を賭けるのだ?金か?それだけではない!!それは己のプライド、守るべき者、自分が信じた思いに命を賭けるのではないのか?」
ここで、領主様からヘンリーさんに渡された金貨の入った袋(巡り巡って骸骨騎士様が今、手にしている)を冒険者の前に置いた。
「もしもカーン男爵領が諸君らが命を賭けるに値すると思うのなら、頼む!!一緒に戦ってくれ。報酬は弾もう!!」
これには冒険者から大歓声が上がる。予想を超える20名の冒険者がともに戦うことを決意してくれた。
今のところ戦力は、領兵35名、冒険者20名、それに領民から志願兵を募って何とか100名までは確保できそうだ。
しかし、商人さんや私の偵察部隊員の報告から相手方は約500人の規模らしい。ざっと5倍の差がある。かなり不安だ。
「大丈夫ですよねロンメル師匠!!」
骸骨騎士様はヘンリーさんの剣の師匠ということなので、その設定で話している。
「無論だ。久しぶりの大規模戦闘だ。武者震いがする。まずは戦力の把握と訓練だな」
カーン男爵も大規模な軍を指揮した経験はなく、骸骨騎士様が作戦や訓練を取り仕切ることになっていた。元はオルマン帝国の大将軍なので・・・・。
戦力を分析したところ、弓兵として活動できそうなのは40名だ。これは大きな戦力だ。土地柄、魔獣を狩る狩人が多いことがその要因だろう。魔法を使える者も10名はいる。弓兵と魔法兵の指導はハイエルフのミルカ様が行うことになった。ミルカ様はキョウカ様と違って、弓と魔法のスペシャリストだ。
ヘンリーさんはというとネリス商会の商人達と交渉していた。
「つまり、この書状を帝都に持っていけと?それも宰相と軍務大臣に?」
「お願いします。ネリス商会の信用があれば可能でしょう」
「見返りは?うちらは商人だ。慈善事業でやってるわけじゃないんでね」
「ネリス商会以外の商会は逃げ出してしまった。もしカーン男爵が勝てば・・・説明する必要がありますか?」
「食えない兄ちゃんだな!!さては猫を被ってやがったな。つまり、ここで領主に恩を売っておけということだろ?分かったよ、乗ってやるよ」
よく分からないが、いい話になっているようだった。
(よし、私も!!)
本当に後悔している。首輪なんてさせなければよかった。
(お腹すいたよ!!クッキー持ってきて!!)
(疲れた!!マッサージしにすぐ来い!!遅れたら言うこと聞かないぞ!!)
ひっきりなしに念話が届く。もう嫌だ。我儘すぎる。堪りかねた私は、燻製肉工房のおばちゃん達に事情を話して、面倒を見てもらうことにした。隊員の魔獣たちもおばちゃん達には一目置いているようで、私に対する無茶な要求も少なくなった。
私にしては頑張っていると思うが、ただ、本当にコンサルタントの仕事か?とは思う。毎日魔獣に餌をやり、マッサージをしてご機嫌を取る。
たまに偵察に出して、帰ってきたらご褒美の餌とマッサージをする。何か違う感じがするのは私だけだろうか?
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