「試練の塔」の今
まず最初に案内されたのは5階層だった。
「ダンジョンの基本構造はほとんど変えていません。変更したのは5階層と7階層だけです」
5階層を見ると入場者が戦闘していることは変わりないのだが、何かがおかしい。入場者同士で戦っている。2人の老人が若手の騎士と思われる集団を滅多打ちにしている。骸骨騎士様はというとその戦いを見ているだけだった。
「右手の老人が剛剣流の先代師範で、左手の老人が速巧剣の名誉師範です。常駐するようになりました」
ミルカ様の説明によると、オルマン帝国には剣術の二大流派が存在する。パワー重視で一撃に賭ける剛剣流とスピードとテクニックを重視する速巧剣だ。この二つの流派は思想が水と油で仲が悪く、オルマン帝国の上層部も悩みの種だったみたいだ。
「脳筋クソ野郎・・ではなく、軍務大臣が働きかけて、ここにそれぞれの先代師範と名誉師範を招集しました。ロンメルがあの老人達を打ち据え、『流派だ何だと細かいことにこだわっているから強くなれんのだ!!』と一喝してからは、心を入れ替えて、この場所に居座り、修行するようになりました」
因みに骸骨騎士様は、両流派の免許皆伝らしい。
「これが結果的に良い方向に働きました。二つの流派は和解して、5階層で交流戦を定期的に行うことになったり、私達にとっても入場者が増えるのはもちろんですが、ロンメルの仕事が楽になったのです。ロンメルと手合わせできるのはどちらかの師範に認められた者だけということにもしました。なので、ロンメルもダンジョンを離れることもできるようになりました」
骸骨騎士様はセントラルハイツ学園の教授達のおかげもあり、順調に回復してきており、1週間程度であれば、人間の姿でダンジョンから離れても何の問題もないそうだ。しかし、ロンメルさんは真面目な性格なので「我を訪ねて来た者の為にダンジョンを空けるわけにはいかない」と言ってダンジョンを離れようとはしなかったらしい。それも、この師範達が常駐するようになってある程度解消されたみたいだ。
「ミルカ様もこれで新婚旅行に行けますね」
「ナタリーさんも意地悪を言うようになりましたね。お姉様に言ってお仕置きをしてもらいすよ」
そんな軽口を言い合えるような関係にいつの間にかなっていた。
私達は、7階層に移動することになった。
5階層では、これから臨時でトーナメント戦をするみたいだ。優勝者は骸骨騎士様と手合わせできるらしい。なんとも安上がりな大会だ。
7階層は砂漠のフィールドと聞いていたが、違っていた。砦のような建物があったり、商店みたいな建物もある。見通しの悪い路地や雑木林のような場所もあった。
「ここはなんですか?全くコンセプトが分かりません」
「ここはオルマン帝国軍のエリート部隊が訓練する場所になっています。近年では大規模な戦闘はほとんど無くなりました。軍や騎士団に求められるのは平時の治安維持活動を除けば、テロリストや盗賊団の殲滅、誘拐事件の解決などです。なので、各国とも少数精鋭の部隊に注力するようになっています。ここでは一通りの訓練ができるようにしてます」
一応、ランダムで移動したり、施設に潜伏するこの階層のボスモンスターを討伐すれば、8階層への転移スポットが出現するようだが、8階層は寒冷地フィールドで、24時間ひたすら寒さに耐えるという拷問にも近い階層なので、誰も挑戦しないそうだ。
「そうなのよ。本当に8階層は地獄だったわ。7階層は以前砂漠だったから余計にね・・・同じパーティーにモフモフした娘が3人いたから何とかなったけど・・・」
「さすがは最高踏破記録保持者ですね」
(えっ!!社長が最高踏破記録保持者?ということは元勇者パーティー?社長って実は凄い人なのかな?)
今回の施策に併せて、軍や騎士団の関係者には専用の宿泊施設を用意して、格安で滞在できるようにしているそうだ。それが軍や騎士団の関係者には好評で士気が上がっているらしい。
「自分達が特別で、選ばれた存在だということがその要因ですね」
ヘンリーさんが解説する。
「以上が今回の変更点になります。何かありますでしょうか?」
これにミランダ社長が答える。
「それじゃあここからは3人別行動にしよう。私は執筆活動があるから自由にさせてもらうよ。ヘンリー君はDPの収支や今後の課題を幅広く分析してほしい。ナタリーちゃんは、キョウカ様の専属メイドだね」
結局、私はダンジョンコンサルタントらしい仕事はさせてもらえないみたいだ。少し文句を言ったが、言い含められた。
「顧客の要望にしっかり応えるのがコンサルタントだよ。だからナタリーちゃんはメイドであってメイドではないんだ。メイドの恰好をしたコンサルタントなんだよ」
そして、私はメイド服に着替え、首輪(鎖付き)を身に着けて、ミルカ様とともにキョウカ様の私室を訪ねる。私がご挨拶をしようとすると、いきなりミルカ様がキョウカ様に抱き着いた。
「お姉様!!ナタリーさんに虐められました。酷いことを言われて辛いです。お仕置きしてください」
「ああ・・なんてことを!!可愛い妹をこんな目に遭わせるなんて・・・お仕置きです」
キョウカ様に抱き着いたミルカ様を見るとニッコリ笑って舌を出していた。
ミルカ様は実は、いたずらっ子なのかもしれない。
そんな茶番劇の後、私のやることはキョウカ会の準備を手伝うことだ。キョウカ会も大きく様変わりしたようだった。まず、キョウカ会四天王を選出し、それぞれがオルマン帝国の次世代を担う若手か功績のあった者を連れてきて、キョウカ様に労ってもらうことにしたそうだ。
白豚(宰相)が主に文官、血筋だけの馬鹿(帝弟)が身分に関わらず幅広く活躍した人物、欲求不満女(公爵婦人)が活躍した女性、脳筋クソ野郎(軍務大臣)が騎士団や軍関係者を担当するらしい。
そして、キョウカ会が立て込んでいるらしい。四天王を集めたパーティー、宰相が主催のパーティー、軍務大臣が主催するパーティーの三つがあるみたいだ。
このパーティーの準備をすることが私の主な任務となる。
本当にこれがコンサルタントの仕事なのだろうか?
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