就職活動
明日の合同就職説明会のために私は必死に勉強をしている。
その傍らでは、友人のミーナが優雅にハーブティーを飲み、木の実のクッキーをつまんでいる。
「お茶もクッキーも美味しいわ。さすがハイエルフね」
「ミーナ邪魔しないでよ。最後の追い込みなんだから」
「駄目だったらパパに頼んであげるから。ナタリーになら、ミスタリア本部にできる新しいカフェを任せてもいいと思うわ」
「ハーブティーを売りにして、木の実のクッキーと燻製肉のサンドイッチを添えて・・・美術品も「試練の塔」から譲ってもらえればインテリアにも困らないし・・・・っておい!!それじゃダンジョン経営学部を卒業した意味ないじゃないの」
ミーナとそんな会話をしながら、楽しい時を過ごした。明日は全力で私のやって来たことをぶつけて、何とか就職を決めたい。
因みにミーナはミスタリアグループに就職することになっている。
そして、当日衝撃的な事実を知ることになる。
会場はダンジョン協会本部の大ホールで、いくつものブースが小分けに設置されている。興味のあるダンジョンに学生が訪ねていく形式だ。当然人気、不人気がある。行列のできるブースもあれば、全く人がいないブースもあった。
私も何箇所か事前にピックアップしていたので、真っ先にそのブースに向かった。
しかし、受付で私の名前とプロフィールを答えると「残念ですが、ナタリー様。お引き取り下さい」と言われて追い返されてしまった。人気のブースだから仕方がないかと思っていたが、そうではなかった。どのブースでも私は門前払いされてしまった。
何かがおかしい。私が途方に暮れていると一人の女性スタッフが声を掛けてきた。
その女性スタッフは研修のときにお世話になったB-5ダンジョンの女性スタッフだった。急遽欠員が出たため合同説明会のスタッフとして借りだされたらしい。
「ナタリーちゃん、実はね、この説明会のほとんどのブースで「ナタリー・ヒューゲルは採用するな」というお触れがまわっているのよ」
衝撃の事実だった。こんな仕打ちをしたのは、私に何度も突っかかってきたルキアさんの父親が経営するダンジョンの関係者だという。女性スタッフさんは、私を見て可哀そうになって、声を掛けてくれたそうだ。
「わざわざありがとうございます」
「あまり話しているとヤバイかも?だからこの辺で。因みに「アバズレ」「男女関係が激しい」とか言われているよ」
私を虐めたからって、ヘンリーさんと結婚できるわけではないのに・・・・。絶望的だった。このままでは、燻製肉の職人かカフェでも開くしかない。
そう思っていたところ、説明会の資料には無い場所にブースがあった。案の上、誰も学生がいなかった。ブースを覗くと綺麗な顔立ちをした魔族の女性が一人座っていた。ここの責任者だろうか。
私はとりあえず、ブースに入ることにした。
よく見るとその魔族の女性は、何度か部外講師として講義に来てくれた女性だった。
「ミランダ先生ですよね?」
「えっと君は誰だったかな?学生さんだよね」
「講義で何度かお世話になりました。ナタリー・ヒューゲルと申します」
「そうか、私の講義を取っていてくれた子か。そう言えば見覚えがある。熱心に聞いてくれてたね」
この女性はミランダ・マース、生粋のダンジョンマニアで高名なダンジョン研究者でもある。著書も多く出版している。学生の間ではけっこうな名物講師だ。ダンジョンの話になると止まらなくなるので講義の終了時間を大幅に超え、学院側に注意されたことは一度や二度ではない。
話が脱線するのがその理由だろう。
私はこの情報を知らずにミランダ先生の講義を選択した。内容はかなり濃く、最新の情報も教えてもらえたので勉強にはなったが、試験課題は決まって「あなたの理想とするダンジョンを書け」で、レポート用紙3枚書けば、自動的に満点という謎のシステムだった。要領のいい学生は講義には出ずに試験だけ受けに来る。
「資料に載ってない位置にブースがあったので覗いてみたんです」
「そうか、急遽会社を立ち上げたんで、資料には載らなかったみたいだな。私の会社は少し特殊でね。コンサルティング会社なんだ」
コンサルティング会社なんて聞いたことが無い。説明を聞くとダンジョンの困りごとを解決していく会社らしい。内容としては私とヘンリーさんが研修でやってきたようなことを正式に事業にするみたいだ。
「そうなんですね。私もミスタリアグループのダンジョンと「試練の塔」に研修に行ったので・・・」
「何!!「試練の塔」に研修に!!詳しく教えてくれ」
「研修には守秘義務がありまして、先方に確認しなければ・・・」
「つまり君を採用すれば教えてくれるということだね。よし!!採用だ」
ミランダ先生は話を聞かない人らしい。採用を希望するとは一言も言っていない。ただ、ミランダ先生の中では私が就職することが内定しているみたいでどんどんと話を進めていく。
私からプロフィールをひったくって言う。
「「試練の塔」には君を採用した後で確認を取ろう。それでは君の経歴を・・・実家がラーシア王国の・・・あそこは特殊ダンジョンだからなあ・・・それはそうとスポーンから生み出される魔物を採用しているダンジョンとダンジョンで自然繁殖していく魔物を採用しているダンジョンがあるけど、君の実家は後者だよね」
「はい、そうです」
「そうか・・・。いずれはその研究もしたいと思っていんるだ。今研究してるのはね・・・・君もそう思わないか?」
「はい、そう思います」
「丁度今、執筆しているのは長命種のオリジナルダンジョンだ。「試練の塔」は研究課題にピッタリだ!!これでも「試練の塔」の最高踏破記録保持者なんだよ。凄いでしょ?」
「はい、凄いです」
そんな会話が続くが、一向に話が進まない。とうとう会場が閉鎖する時間になってしまった。会場のスタッフが申し訳なさそうに退出するように言ってきた。
帰り道にミランダ先生から言われた。
「君には熱意を感じるよ!!一緒に頑張っていこう」
(私に熱意って?私は「はい」くらいしか言ってないのに・・・・)
ともあれ、就職は決まったが、将来は不安でしかない。
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第一章が終了となります。これからどんどんと、就職が決まったナタリーが活躍していきます。




