そして解決へ
ヘンリーさんの説明が始まる。
「まず最初に骸骨騎士様と教授のみなさんには早速、術式発動に向けて準備してもらいましょう」
そう言うと教授陣は骸骨騎士様とともに別室に移動した。
ヘンリーさんは続ける。
「整理すると「試練の塔」はオルマン帝国の陰の教育機関として生まれ変わり、骸骨騎士様のためにDPをしっかり稼ぐということを今後の課題にしますが、異論はないですか?」
全員が同意する。
「私の調査結果では、現時点で「試練の塔」のダンジョン構造を大幅に変更することは必要がないと考えます。今のままでDPを効率よく稼ぐ方法を提案していこうと思います。まず基本として無駄なDPの支出を抑えようと思っています。このダンジョンではかなりの額のDPをダンジョン協会に納め、更に絵画や彫刻などの高価な美術品を大量にDPでダンジョン協会から購入していますよね。それらを削減します」
ヘンリーさんの案に対して、ミルカ様が答える。
「私も必要性を感じないので、賛成です。年間で億単位の額を納めていましたから・・・」
「ミルカさん!!それだとマスター会議に出席できないじゃないの!!」
なぜか、キョウカ様は乗り気ではないらしい。
するとヘンリーさんは資料をキョウカ様に手渡した。
「こちらをご覧ください。これは大手ダンジョンチェーン「ミスタリア」の会長ラッセルさんから教えてもらったのですが、ミスタリアグループでさえ、年間1000万ポイント程度しか納めてません。それにマスター会議に出席するだけなら100万ポイント程度納めれば十分だと思います」
資料によると、ミスタリグーループはランキング4位だ。それに購入した美術品も質がよくなく、支払ったDPに見合わないみたいだ。
これでもキョウカ様は納得しない。
「それだと1位として見下せないじゃないの!!それに美術品も『貧乏人は何も買えないのね』って言えないし・・・・」
「おいキョウカ!!これはアンタらのためにやってんだよ。ちょっとは我慢しなさい」
ウメック様がキョウカ様を叱る。
キョウカ様を叱れる人物など、この世に一体どれだけいるだろうか?
そんなとき、私も研修生として意見を言わなければと思った。それにいい考えも思いついた。
「よろしいでしょうか?キョウカ様はマスター会議に出てツンツンしたいだけですよね?だったらこういうのはどうでしょうか?」
私はキョウカ様の声マネをしながら言った。
「あなた達!!まだ馬鹿高いDPを納めていらっしゃるの?馬鹿なんですか?それにダンジョン協会の粗悪な美術品を買ってらっしゃるの?私が買っていたのは私が買えば粗悪品でも私の真似をして、あなた達が買うでしょう?それを見て、陰で笑っていたのよ」
自分なりにかなり上手く、キョウカ様の声マネができたと思っている。それはそうだろう。キョウカ様に一体どれだけ罵倒されたと思ってるんだ。
しかし、場は凍り付いてしまっていた。キョウカ様はというと冷たい目で私を睨んでいた。
しばらくして、ウメック様が口を開いた。
「ハハハハ、面白い娘だね!!どうだいキョウカ?それにちょっと似てたし」
怒りに肩を震わせながらキョウカ様が答える。
「当然それくらい私も考えつきました。私が言わなかったのは、この者達を少し試しただけです」
「素直じゃないねえ」
検討の結果、美術品の購入は一切止めて、ダンジョン協会にはDPを年間100万ポイントだけ納めることになった。これでも年間で億単位のDPを節約できる。
「次は回収できるDPを増やそうと思います。ナタリー、意見があればどうぞ?」
ここで私に振るの?
でもここでカッコよく答えれば、ヘンリーさんに見直してもらえるかも?
「そうですね。ホテルや飲食店の料金を下げて、そうすれば金銭的な理由からダンジョンに挑戦できなかった人も来て、入場者を増やせるのではないでしょうか?」
自分なりにいい案だと思ったが、そうではなかったらしい。
「それは最悪の手です。「試練の塔」の売りはブランド力ですよ。選ばれし者しか挑戦できないところに価値があるのです。滞在費が下がれば、質の悪い冒険者もやってきて、治安も悪化して貴族達が敬遠するようになるかもしれません。なので、軍や騎士団のエリートのための宿泊施設の建設やキョウカ会の裾野を広げる活動をメインにしていけばと思っています。詳しくは資料をご覧ください」
なるほど、値段を下げればいいというものではないとよく分かった。会議後にヘンリーさんから
「キョウカ様が間違えてプライドを傷つけないようにワザと間違えてくれたんだね。ありがとう」
と言われたので、「当たり前ですよ」と答えた。私も少しキョウカ様に似て来たのかもしれない。
しばらくして、資料を読み終えたミルカ様が口を開く。
「軍や騎士団の関係は大丈夫ですね。キョウカ会のメンバーの「脳筋クソ野郎」は軍務大臣なので・・・。お姉様はどうでしょうか?」
「大した提案ではないけど、許可しましょう。ただ、調子に乗って大した意見も言えないそこのメイドには後で、厳しくお仕置きをすることにしましょう」
結構頑張ったと思うのだが、私はお仕置きされてしまうみたいだ。でも最近少しだけ、お仕置きが楽しみになってきた。
会議も終盤に差し掛かったところで、骸骨騎士様と教授陣が戻って来た。無事成功したようで、3日程度であればダンジョンの外で人間の姿のまま生活できるらしい。
教授は説明する。
「あくまで、今回は実験的な措置です。今後は定期的に経過を観察しながらやっていこうと思います。DPの使用量の関係もありますが、1ヶ月程度までならすぐにでも伸ばせますよ」
これにはミルカ様も骸骨騎士様も大喜びだった。ウメック様が二人をからかう。
「だったらミルカ、夜のほうも異常がないか調べたほうがいいんじゃないか?」
これにはミルカ様が赤面する。
それから研修終了までの3日間、ヘンリーさんやミルカ様、教授陣は忙しそうにしていたが、私とキョウカ様、ウメック様は特にすることがなかった。
なので、3人でハーブティーの茶葉をブレンドし、ウメック様からハイエルフ直伝の木の実のクッキーの作り方を習っている。
「ハーブティーの茶葉の発酵も木の実のクッキーの木の実の熟成も結局は、魔力を繊細に操作することが肝なんだ。ナタリーはその才能があるみたいだから、すぐに上手くできるよ」
「ありがとうございます先生」
ウメック様とも仲良くなり、もう先生と呼ぶようになった。ウメック様も普段からみんなにそう呼ばれているので、特に気にすることはなかった。
「それじゃあナタリー、疲れ果てた哀れな下僕たちにクッキーを焼いてあげなさい」
キョウカ様からはとうとう名前で呼ばれるようになった。それになんとなくだが、優しくなったように思う。ただ、ちょっと物足りない感じがするのはなぜだろうか?
そして、とうとう研修が終了した。マスタールームの転移スポットにキョウカ様とミルカ様、骸骨騎士様が見送りに来てくれた。
別れの挨拶を済ませる。しかしキョウカ様は何も言わない。しばらくしてミルカ様に促されて私の前に来た。
「あ、ありがとう・・・また来て」
それだけ言うと去って行った。言葉足らずだが本当に嬉しかった。心が通じたのかもしれない。
ヘンリーさんはミルカ様と今後のことを話していた。
「もし困った事があればいつでも言ってきてください。私はダンジョン協会本部に就職が決まっていますのでそちらのほうに」
そうだ!!私はまだ就職先が決まっていない。このままではダンジョンニートになってしまう。それにこの研修でもスキルは身に付かなかった、ハーブティーとクッキーの以外は。
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