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研修1 大手ダンジョンチェーン

「よく来たね、お二人さん!!娘のミーナから聞いているよ」


そう言って、声を掛けてきたのは、恰幅のいい、人の良さそうな中年の魔族の男性。友人のミーナの父で大手ダンジョンチェーン「ミスタリア」の会長ラッセル・ロスティスだ。今回、私とヘンリーさんの研修先がミーナの父親のダンジョンだったのだ。私とヘンリーさんは、ミスタリアグループの本社に研修で訪れていた。


「ヘンリー・グラシアスです。この度はお忙しいところ研修をさせていただき、ありがとうございます。こちらを手土産にお持ちしました。商業都市ダッカで最近流行っている焼き菓子です。ミーナさんからラッセルさんは甘いものに目がないとお聞きしましたので・・・」


「悪いねえ。ヘンリー君!!気を使わせてしまって」


ラッセルさんは、上機嫌で手土産を受け取った。この短時間で心を掴むなんて、ヘンリーさんは凄い。

(というか、私は手土産なんか用意してない・・・・)


「あ、あ、ナタリー・ヒューゲルです。この度はお日柄もよく・・・一つよろしくです・・・」


動揺して挨拶もまともにできなかった。


「ハハハハ。ナタリーちゃん。そんなに緊張しなくていいよ。ヘンリー君が凄いだけだから。ミーナから素直で優しい子だと聞いているから」


ラッセルさんはいい人だった。

それから、ラッセルさんはスタッフにお茶を出すように指示して、せっかくだから今後について、ヘンリーさんが持ってきた焼き菓子を食べながら話をしようと言い出した。

応接室のテーブルに焼き菓子とお茶が並べられる。


「難しい話の前に、まず食べようか」


ラッセルさんに勧められて、焼き菓子を頬張る。サクッとした歯ごたえと同時にバターの香りが広がる。甘さもくどすぎず、ちょうどいい。本当に美味しい。つい感想を言ってしまった。


「バターがたっぷり使われている割には、重くなりすぎないですね。隠し味のリンゴがいい感じでアクセントになっていて・・・」


「そうだね。この職人のお菓子は食べたことがあるが、このお菓子も美味しいね・・・」


意外なことにラッセルさんが乗ってきた。それからはお菓子の話で盛り上がってしまった。これでは、研修ではなく、ただお菓子を食べに来ただけではないかと思われても仕方がない。しかし、ラッセルさんとの距離が近付いたようで、良かったのかもしれない。

しばらくして、ヘンリーさんが冷たい目で見ていることに気付いた。ラッセルさんも気付いたみたいで、ダンジョンの話に戻す。ラッセルさんはヘンリーさんから受け取った資料を見ながら話し始める。


「えっと、まずは君たちの経歴から・・・資料によるとナタリーちゃんの実家はラーシア王国でダンジョンを経営してるんだね。あそこはちょっと特殊な感じだね」


「そうなんですよ。ダンジョン学部に入学して初めて、実家のダンジョンが特殊なダンジョンだと分かりましたよ。両親がキチンと基本を学んでこいと言っていた意味がよく分かりました」


お菓子のことで打ち解け、緊張も解けたので、気安く答えてしまった。

でも、特に怒った感じはないし、まあいいだろう。


「それは勉強になってよかったね。卒業後は実家を継ぐのかい?」


「実家は兄が継ぐので。でもダンジョン関係の仕事には就きたいとは思ってます」


「そうか。なら卒業後はうちにきてくれてもいいよ。じゃあ次はヘンリー君だね・・・・ちょっとこれは・・・ご両親は残念だったね。いい人達だったんだけど・・・」


今まで陽気に話していたラッセルさんの表情が曇る。ヘンリーさんの過去に何かあったのだろうか?ヘンリーさんは特に気にする様子を見せずに話を続けるように促す。


「特に気にしてませんので。話を続けて下さい」


「そうかい?じゃあ、まず君達に研修してもらうダンジョンはB-5ダンジョンだ。うちのグループの平均的なダンジョンで・・・・」


ラッセルさんの説明が続く。

ラッセルさんの経営するミスタリアグループはユリシア大陸各地にダンジョンを持っている。ユリシア大陸を大きく分けると北が魔族領、南が人族領となっている。魔族領にはほとんどダンジョンはなく、人族領に集中している。魔族はあまりダンジョン攻略をしないみたいで、どちらかというとダンジョンを運営する立場になることが多い。


ミスタリアグループでは、人族領を5つのブロックに分けて管理している。人族領には大きく分けて、5つの国家があり、神聖国ルキシア(Aブロック)、オルマン帝国(Bブロック)、ノーザニア王国(Cブロック)、ラーシア王国(Dブロック)、小国家群及びその他の都市国家(Eブロック)といった具合だ。

私達が研修するB-5ダンジョンは、オルマン帝国にある5番目のダンジョンという意味だ。


「君達にはB-5 ダンジョンのオープンを手伝ってもらいたい。ダンジョンマスターはミーナの姉のマーナが務めることになっているから、しっかりとサポートしてくれ。特にヘンリー君には期待しているから・・・」


(私には期待してないんかい!!)


と口には出さなかったが、態度には出ていたみたいで、「もちろんナタリーちゃんにも」とフォローはしてくれた。当然、私の資料には学年最下位という事実は記載されていることだろう。


「今日はスタッフから基本的な注意事項をレクチャーしてもらったら、終了だ。明日から本格的に研修がスタートするからね。しばらくはダンジョンに泊まり込みになるからそのつもりで頼むよ。明日は午前9時にここに来てくれ。ダンジョン転移でここからダンジョンに行ってもらう」


そういうとラッセルさんは、スタッフに私達を引き継いで、仕事に戻っていった。

いよいよ明日から研修が始まるのか。ワクワクもするし、ドキドキもする。

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