エピローグ
ローレンス・エドワーズの供述調書を読む。
本当に腹立たしい。こいつのせいで私が就職に失敗したんだ!!
しかし、もう何年も前のことだし、今更、他のダンジョンに就職したいとも思わない。
それにしても気になるのはマリアだ。どこに行ったのだろうか?
事件を裏で仕切っていたのはマリアだ。ローレンスさんよりも許せない。
「ナタリーちゃんが怒るのは分かるけど、いくら考えても私達が、これ以上マリアに関して調査することはできないわ。やれることは、この情報を如何にして主要国に伝えるかね。ダンジョン以外の捜索となると諜報機関を持っている四大国に頼るのが得策だから」
ミランダ社長が言う。
そこからは忙しい日々が続く。
キョウカ様の中では、事件はすべて解決したことになっているので、セントラルハイツ学園の授業数も増やし、「試練の塔」でのパーティーも頻繁に開催される。私はそれらの準備に大忙しだ。それに主要国への報告書の作成もあり、ここ3ケ月以上はダンジョンの仕事はしていない。
3ケ月後、やっと報告書が完成した。
ダンジョン協会でチェックを受け、問題ないとのことで、今日は小国家群の関係で懇意になった神聖国ルキシアの特殊部隊の隊長さんの元を訪ねた。情報交換という形で、報告書を手渡す。
「一応これを主要国に提出しようと考えてます」
「ありがとうございます」
しばらく報告書に目を通した後に隊長さんは言った。
「なるほど、ダンジョンを調べてもマリアにつながるものはないということですね。残念です。こちらも過激派の線からマリアを捜索していますが、手掛かりは掴めていません」
ローレンスさんやその他のダンジョン協会の元職員もマリアについては、全く分からないとのことだったので、思い切ってダンジョン関係の情報は一切公開しないことにした。
それだけでは、納得しないので、あくまでも仮説だが、マリアについては件の死霊術士ではないかという見方を提示した。
「死霊術士の線から捜索はできませんか?神聖国ルキシアで昔、猛威を振るったとお聞きしたのですが」
「ああ、それが奇しくも同じマリアという名前だったんですよ。時代的には現聖女のカタリナ様のお祖母様の時代だそうです。その人物が生きていて、現代に現われたとなると・・・人族ではなく、長命種か、それとも何か特別な秘儀でも使っているのか・・・正直手に負えないですね」
もう手詰まりなのだろうか・・・。
ヘンリーさんは言う。
「相手は得体の知れない危険人物ということが分かっただけでもよしとしておこう。僕達にできるのは今後の対策さ。二度とこんなことをさせないように改革していこう」
あれから数年が経った。
私は今、セントラルハイツ学園の教壇に立っている。
「以上が近年発生したダンジョンスタンビートの顛末です。この困難に打ち勝てたのは各国の強固な連携があったからです。このような非常事態にこそ、この学び舎で隣に座っている友人のことを思い出して行動してください。それは私を含め教職員一同の願いでもあります」
もう何回目になるだろうか?
毎年、新入生と卒業生に対してほぼ同じ講義をしている。なぜ私がこんなことをしているかというとスタンビート事件で押し付けられた論文と報告書の作成が評価されたのだ。スタンビートの関係で論文を発表したのは私以外にいなかったようで、いつの間にか教授にされてしまった。
一応、ダンジョンスタンビートの権威ということになっている。
講義が終わり、自分の研究室に帰るとミーナが待っていた。お茶を入れ、自慢のサンドイッチとお菓子を振舞う。
「ナタリーが教授だなんて笑えるわ・・・でも、料理の腕は落ちてないようね」
「私も似合わないと思うんだけど、ヘンリーさんやミランダ社長に有事のために各国の主要人物とつながりを持っておくことは大事だって言われちゃってさ。だから、仕方ないのよね」
「それはそうと、ドミティア様のダンジョン構築は大変らしいよ。自分のダンジョンでは全く口出ししなかったドライスタ様が注文ばっかり言ってくるらしくて、それがもとでドミティア様とドライスタ様が親子喧嘩になって・・・・・タリーザが『私はどうしたらいいのでしょうか?』って途方に暮れていたわ」
みんな大変なんだろう。
簡単な近況報告だが、ミーナはミスタリアグループの広報の仕事と併せて本格的に雑誌記者となった。綿密な取材に裏打ちされた記事は高い評価を受けている。
エリーナ、タリーザ、ダクネスの三人だが、エリーナは引き続きダンジョン協会の勤務で順調に出世しているし、タリーザとダクネスはドライスタ様の元で頑張っている。
ダンコルの会員ダンジョンだが、どこも順調なようで、常にランキング上位を独占しているようだ。それにキョウカ様も相変わらずだ。未だに仕事をどんどんと振ってくる。
「怠け者のダメ人間には、忙しいくらいが丁度いいのよ」
と言ってくるが、「怠け者は貴方でしょ」と言い返す勇気はまだない。
「ナタリーとヘンリーさんはどんな感じなの?ルキアさんとニールさんは結婚間近だし、タリーザとマモンさんは『ドミティア様のダンジョンが成功したらプロポーズする』って言ってたし、そっちはどうかなって」
「何も進展はないわよ。ミーナこそどうなの?」
「まだかな・・・でも「光の洞窟」のネロスさんとはちょいちょい食事に行ってるけどね」
みんな春が来て羨ましい。
ヘンリーさんはとは、今も仕事で一緒で、プライベートでも食事に行ったりはしているが、そういった話はないし、こちらからも言わない。
もっと進展したい気もあるけど、関係が崩れるのも怖い。
そんなとことを思いながらミーナとお喋りを楽しんでいたところ、急に研究室のドアが開かれた。
ミランダ社長だった。
「ナタリーちゃん、それにミーナさんもいいところにいたわ!!大変よ。タルシュ帝国でスタンビートが発生したのよ。ヘンリー君は先に現地に行っているから、私達も行きましょう!!学園とダンジョン協会にはすでに連絡済みだからね」
どうやら、私達はまだまだ恋愛どころではないようだ。
約半年に渡ってお付き合いくださいましてありがとうございました。
今回でこのシリーズをまとめるつもりでしたが、そうはなりませんでした。よろしければこちらをご覧ください。
結婚詐欺師、異世界で聖女に~私が聖女?女神様!!多分人違いだと思うのですが・・・
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ヘンリーとナタリーが活躍する50年以上前の話になります。今作ではほとんど登場しなかったあの国が舞台になっています。
そして、もう一つRPGあるあるを詰め込んだこちらの作品もご覧いただければ幸いです。
以下の疑問が解決されることでしょう。
〇なぜ、旅立ちの日に勇者は、なけなしのお金とボロボロの剣を国王に渡されたのか?
〇なせ、女戦士はビキニアーマーで戦うのか?
〇なぜ、お転婆姫は修行の旅に出たのか?
〇無料の転職神殿がつぶれないのはなぜか?
絶対に私は勇者パーティーに入りません!!~勇者パーティーに入ればバッドエンド確定の不遇なサブキャラに転生したOLの生き残りを賭けた戦いが、今ここに始まる
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