スタンビート 8
スタンビートで手一杯のところで、過激派も暴れ出した。
考えられる限り、最悪の状況だ。しかし、ヘンリーさんは落ち着いている。
「つまり、大公閣下はすべてを見越して、過激派を一網打尽にするために騙された振りをしていということですね。過激派対策ということであれば、各国とも最大限の努力をすることが条約で決まっていますから援軍もすぐに派遣してくれるでしょう。ここはオルマン帝国にも神聖国ルキシアにも近いですからね。
ジャシーン派が確実にアルボラだと分かるまでは、そういったことはできませんし、気付かれては、元も子もありませんからね。感服致しました」
ヘンリーさんは話終わるとルーナさんに目配せをした。大公は戸惑っているが、ルーナさんも察したようで話を合わせた。
「アル様、もういいですよね?実はアル様は私にだけは真実を伝えてくれていたのです。『過激派の尻尾を掴むため、騙された振りをする。過激派が尻尾を出すまでは、何があっても口にするな。策は考えてあるから』と。
そして『ルーナ程信頼できる者はいない』とも仰れました」
大公はというと、戸惑ってはいるが、この状況で「違います」と言える度胸はないようで、
「そ、そのとおりだ。我の考えに気付くとは、ヘンリー殿もなかなかの人物だ・・・」
と言って、場を取り繕った。
本当に騙されていたのでは?と疑問を持つ者は大勢いただろうが、それを口に出す強者はいなかった。
すぐにルーナさんが指示を出す。
「オルマン帝国と神聖国ルキシアに応援要請を!!過激派の情報も伝えてください。当面の過激派対策は現在駐留しているオルマン帝国の突入部隊を当てようと思っていますが、大丈夫でしょうか?」
これにマルロ大臣が答える。
「大丈夫ですよ。すぐに指示します。彼らは帝国でも有数の精鋭部隊なので心配いりません。今後の為に生け捕りにしてみせます」
「ありがとうございます。現場には援軍が来るまで、今しばらく踏ん張れと伝えてください。待機部隊も投入します。大公閣下、このような対策でよろしかったでしょうか?」
「あ、ああ。そうしてくれ」
それからの対応は早かった。国境に配置していた1万のオルマン帝国軍部隊は次の日には、ダンジョン周辺に配備が完了し、続いてアンデット系の魔物に特化した神聖国ルキシアの部隊も2日後に到着している。
過激派のメンバーもオルマン帝国の特殊部隊にほとんど拘束され、10数人が商工会議所の倉庫に立て籠っているだけだ。
ルーナさんが指揮官を集めた会議で現状を報告する。
「スタンビート関係については、両国のおかげで安定して対処できています。過激派からの被害ですが、人的被害はなく、爆破されたのも撤去予定の空き家と老朽化した教会だけでした。現在立て籠っている倉庫もスタンビート発生と同時に食料や備品は現場に移動させているので、しばらく放置しても何の問題もありません」
報告を受けて大公が指示を出す。
「過激派の包囲は我が軍が行い、スタンビート対策については両国の援助を受けながら、勢いが収まるまでこの体制を維持しよう。後は立て籠っている過激派の対応だが・・・・」
ここでヘンリーさんが意見を言う。
「過激派に襲撃されたエルフやドワーフ達が過激派に自分達の手で制裁を加えたいとのことです。エルフの森近辺のスタンビートを鎮圧したら、部隊を派遣すると言っております」
「まあ、逃げられなければそれでかまわん。このまま、安全策を取って対応する」
会議では、このままの状態を維持することが決まった。
会議後、私達ダンコルのメンバーは一端ダンジョン協会の対策室に帰還することにした。対策室は思いのほか落ち着いていた。スタンビート対策が順調だったからだ。エリーナやその部下が、情報を取りまとめたり、報告書をまとめたりしている以外はキョウカ様を囲んでお茶をしているだけだった。
今もフロレインさんがキョウカ様を褒め称えている。
「ドミティア様に乗って、颯爽と登場したキョウカ様とミルカ様は本当に神々しかったわ。あの光景が見られただけでも遠足に参加した甲斐があったわ」
もうあのイベントが遠足にされている。
キョウカ様を無視して、エリーナにスタンビートの状況を確認する。
「四大国は全く問題ありません。小国家群もローモナス大公国以外は順調です。現在対応しているスタンビートを鎮圧出来次第、勇者パーティーとエルフとドワーフの部隊はローモナス大公国に転進する予定です」
ミランダ社長が言う。
「過激派の対応も抱えているから、無理に突入しないほうがいいかもしれないわね・・・。他は心配なさそうだから、私達三人は引き続き、ローモナス大公国で調査に当たるわ」
それから数日が経った。
ローモナス大公国以外ではスタンビートは鎮圧され、各所からローモナス大公国に援軍が到着している状況だ。というのも、過激派の本拠地でもあり、スタンビートで発生した魔物は、すべてアンデット系で、他のダンジョンと違い、何か奥の手を隠し持っている可能性が高いことをミランダ社長が助言したことによる。
なので、オルマン帝国、神聖国ルキシアだけでなく、エルフ、ドワーフの混成部隊、勇者パーティー、魔国デリライトの特殊部隊、ノーザニア王国の特殊部隊も到着していた。
急遽、援軍が増えたことで、対策本部は大忙しだったが、ルーナさんが的確に対応していた。
「部隊員は野営で勘弁してもらいます。その代わり、食事はなるべく豪華なものに。幹部の方は別に宿泊施設を用意してますから、そこに案内してください。毎朝9時に会議をすることも併せて伝えてください」
「ル、ルーナ・・・ぼ、僕はどうしたら?」
「あなたは大公なんだから、どっしり座ってればいいのよ!!主要メンバーが揃ったら挨拶してもらうから、会議の参加者リストを見て、失礼が無いように覚えておいて!!」
「わ、分かった・・・」
ルーナさんに比べて大公は頼りない。
そんなことを思っていたら、ダンカン将軍が話してくれた。
「先代の大公から聞いた話だが、ローモナス大公国は「トンビが鷹を生んだ国」と言われ、2代目以下が優秀だという話だが、実際は少し違うのだ。本当に優秀だったのは妻達だったそうだ。初代の妻と2代目の妻が協力し、オルマン帝国の後宮や貴族の社交場などを訪問して、巧みに世論を誘導したらしい。
そのお陰で独立を勝ち取り、今日の発展があるのだが・・・・。
先代の大公がよく言っていたよ。『いい嫁をもらうことが、国家発展の秘訣だ』とな」
「そうだとすれば、ローモナス大公国はますます発展しますね」
「そうならばいいがな」
そういうダンカン将軍だが、大公を殴ったことを不問にすることはできず、罰金刑(金貨3枚)になった。これもルーナさんが裏で画策したことで、大公が寛大な人物だと印象付けることができた。因みにダンカン将軍の退職金の不足分と同額なので、「事前にオルマン帝国とも話がついていたのではないか?」と勘ぐる者も多く、大公の優秀さを褒め称える者さえいた。
大公は置いておいて、ルーナさんが居れば、本当にローモナス大公国は安泰だろう。
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