スタンビート 5
軍事担当の二人、ヘンリーさんと骸骨騎士様が心配する二つの無許可ダンジョンがあるのは「トンビが鷹を生んだ国」ローモナス大公国だ。この国はかなり問題がある。
小国家群の都市や国の首脳陣は総じて優秀だ。まあ、悪く言えば狡猾で抜け目がない。これには理由がある。そうでなければ生き残れないからだ。小国家群は大陸の中央部で四大国に囲まれている。大国の意向に大きく左右されるし、ちょっとした外交の失敗から国が亡ぶこともある。なので、国際情勢には敏感で常に国家存亡の危機と捉えて行動する。
今回の無許可ダンジョンからのスタンビート発生事件も迅速に対処していた。
例として、お互いの利益が一致したこともあるが、少し排他的な気質のあるエルフ族とドワーフ族を担ぎ上げて防衛戦力にしたことやベルンを中心に働きかけて、勇者パーティーや冒険者達、隣国のカーン子爵にも増援をもらったことなどが挙げられる。
しかし、件のローモナス大公国は、なんというか・・・残念というか・・・。
まず、ローモナス大公国の成り立ちだが、なんとオルマン帝国から分離独立しているのだ。というのも時の皇太子がかなり問題がある人物だったらしく、皇太子の位を剥奪され、半ば追放という形で、ローモナス地方(現在のローモナス大公国)の領主に命じられたそうだ。
そして、何を思ったか追放されたこの元皇太子は、家臣や息子達が止めるのも聞かずに分離独立を宣言してしまったらしい。
ローモナス地方は、オルマン帝国の北部に位置しており、山間部でこれといった産業もなく、あまり美味しい土地ではなかった。そこで時の皇帝は、この独立宣言を無視することにした。というのも独立宣言をすると同時に訪れた元皇太子の息子と家臣達が帝都を訪問し、「元皇太子が逝去すれば、すぐにオルマン帝国の属国となり、併合される」という密約を交わしていたからだ。オルマン帝国を攻めるほどの兵力も持ち合わせておらず、それに元皇太子は当時50歳代で不摂生が祟り、かなり太っていたので、後5~6年もすれば寿命が尽き、すんなりとオルマン帝国に戻るだろうと予想していたのだ。
しかし、オルマン帝国も元皇太子の息子や家臣達に誤算があった。
それは息子や家臣達が優秀過ぎたことと元皇太子が思いのほか長生きしてしまったことだ。ローモナス大公国は発展し、領地でダンジョンも発見されたことから急速に発展していく。元皇太子が逝去したときにはただの片田舎であった一地方が小国家群で有数の都市になっていた。
思いのほか発展したことにより、オルマン帝国がこの都市を併合すると他の三ヶ国を刺激しかねない。なので、オルマン帝国は正式に独立を認めることとなったのだ。ここに「トンビが鷹を生んだ国」ローモナス大公国が誕生した。
時は流れ、歴代の大公は優秀な者が多かったのだが、現大公は初代を彷彿とさせる大馬鹿野郎だった。それには先代大公が急逝したことで、後継者の引継ぎが上手くいかなかったことも挙げられる。表向きは、オルマン帝国に強い姿勢を見せていたが、実際はほぼ属国に近く、オルマン帝国の追放貴族を受け入れるなど上手く立ち回り、絶妙なバランスの外交を展開していた。
そんな事情を知らない現大公は、「我々は大国オルマン帝国から独立を勝ち取った強国だ」と吹聴する始末だ。それに追放された貴族の子弟達も馬鹿が集まっていた。そこを過激派に目を付けられたようだ。現大公や貴族達の自尊心を煽り、信頼を得て、この地で組織を拡大していったのだ。
「ここが過激派の一大拠点だったとは・・・・どおりで人知れず組織を拡大することができたんですね」
「そうだね。「光の洞窟」からの逃走劇で一端ベルンを経由したことも、ここが本拠地だと知られたくなかったからだろうね。いくら四大国でもダンジョン転移が使えるなんて思わないからね」
ヘンリーさんが言うには、ベルンを経由したことで、捜索の中心がベルンになり、ローモナス大公国の現状が明らかになるのに時間が掛かったとのことだった。各国が現状に気付いたのはオルマン帝国の部隊がローモナス大公国に入ってからだったそうだ。
100人規模の部隊だったのだが、軍議や訓練などはほとんど行わせず、連日大宴会だったそうだ。当初は喜んでいた部隊員達もおかしく思い、調査したところ、過激派が関与している事実が判明した。
更なる調査の結果、先代大公が逝去した昨年から過激派の活動が活発化した。
当初は、予言という形で貴重なキノコや鉱石が領内で発見され、若い領主は過激派を信じるようになった。更にマリア自ら接触を図り、若い領主を篭絡していったそうだ。
「現大公は15歳、あのマリアに篭絡されたらひとたまりもないでしょうね・・・」
そして、マリアは「領内で二つのダンジョンが生まれ、そこからスタンビートが発生する」とも予言したようだ。解決策として、自国の軍だけで対処すれば、国家の威信を高められるし、大陸の覇権国家として躍進するとも予言した。その予言通りに現大公は行動する。立場上、オルマン帝国部隊は受け入れるが、何もさせないつもりのようだ。
肝心のローモナス大公国軍だが、骸骨騎士様曰く、はそれ程強くないそうだ。年に一度、オルマン帝国軍を招いて武術大会をするようだが、ローモナス大公国軍が花々しく打ち破るそうだ。これには裏がある。オルマン帝国軍はワザと弱い者を派遣したり、自分の専門武器ではない武器でトーナメント戦に臨む。ローモナス大公国に花を持たせるのが慣例になっているそうだ。
理由は国民を安心させるためだという。精強なローモナス大公国軍がいるので、流石のオルマン帝国軍でも攻められないということにしている。しかし、現大公はそのような事情に疎く、本当に強い軍隊を持っていると思っているようだ。
この情報を受けて、オルマン帝国は国境に帝国軍を派遣して、防衛線を敷いた。スタンビート対策が失敗し、溢れかえった魔物達を領土に入れない策を講じたし、神聖国ルキシアは特殊部隊の諜報員を派遣した。
不幸中の幸いは、「光の洞窟」襲撃事件でマリア以下の過激派主要メンバーが出払っていたことで、各国が準備万端でスタンビートを迎えることをギリギリまで悟られなかったことだろうか。
このような状況なので、私とヘンリーさんミランダ社長の三人は現地調査に出発することになった。
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