スタンビート 1
四大国各地でスタンビートが発生した。
各国ともにしっかりと準備をしていたようで、映像を見る限りでは問題はなさそうだ。まず予想通りの戦いを見せたのはオルマン帝国だった。スタンビートの規模に対して圧倒的な戦力で対応している。お得意の物量作戦だ。部隊員も疲労が溜まる前にローテーションしているし、部隊の動きもマニュアル通りといった感じだ。何なら、私が指揮官でも戦えるかもしれないと思えるほど、分かりやすい運用だった。
骸骨騎士様は言う。
「決まったことを決まった通りにやるのはお得意だからな。それに素材の回収もしているし、付近の町では帝国軍が駐留して金を落とすから、かなり潤っているらしいぞ。大部隊で出費が増えても、経済効果でお釣りが来るだろうな」
次はノーザニア王国だが、こちらはオルマン帝国とは逆に少数精鋭といった感じだった。部隊員個人個人の能力は高く、戦術も斬新だった。それに大型のバリスタや投石機、マジックランチャーまで使用している。
ミランダ社長が言う。
「ノーザニア王国は、今から50年前までは国と呼べるような体をなしていなかったのよ。それを努力してここまで発展させたの。王都ノビスランドも元はただの開拓村だったしね。だから国民の気質として、新しい物を取り入れて、どんどん挑戦していこうという気持ちが強いのよ。伝統を重んじるオルマン帝国とは逆の考えね」
どちらが良いとは一概に言えないが、戦術に特徴が出ていて面白い。
そして、私の想像とは違う戦い方をしていたのラーシア王国と神聖国ルキシアだった。まず、ラーシア王国は獣人の国で、力技で押し切るのではと思っていたのだが、実際はかなり組織的に分業されていた。獅子族や虎人族、熊人族などの力自慢の種族が前線を支え、豹人族などの素早い種族が攪乱する。更に猫人族のような魔法が得意な種族が遠距離攻撃をして、コボルト族のような小型の種族がしっかりと後方支援を行っていた。
「もっと力で押し切る戦いをするんだと思っていたのですが、意外ですね」
私が呟くとヘンリーさんが答えてくれた。
「セントラルハイツ学園の軍略の授業で、クラシア王女が言っていたことだけど、ラーシア王国は各種族の独立意識が強く、種族混合の部隊編成は上手くいかないみたいだよ。だから部隊は種族ごとで分けて、適材適所で運用するみたいだ。指揮官は部隊の特徴を把握し、最も力が発揮できる箇所に部隊を投入するすることが求められると言っていたよ」
なるほど、だから勇者はあの尖った特徴を持ったメンバーを上手く指揮していたのか・・・・苦労はしていただろうけど。
最後に神聖国ルキシアだが、この戦い方が私達を一番驚かせた。ミーナが言う。
「何というか・・・・バーサーカーの一歩手前?みたいな・・・」
神聖国ルキシアの主戦力は神官騎士団だ。神官騎士と言えば勇者パーティーのレイモンドさんが思い浮かぶ。実力はあるが冷静で控え目、そして安全策を取ってしっかりとサポートをする。しかし、目の前で繰り広げられている光景は、全く違うものだった。
ダメージを恐れず、攻撃を正面から受け止め、殲滅している。本当にこの人達は、慈愛に満ちた聖母ガイアを信仰している人達なのだろうか?
アスタロッテさんが解説してくれる。
「神官騎士は脳筋野郎が多いですね。それになまじっか回復魔法が使える者が多いので、魔力と体力が尽きるまで戦い続けるみたいですよ。サポートする回復術士の数は他国よりも圧倒的に多いので、こんな無茶な戦い方をしても死者が出ていませんからね」
「そうなんですね。それにしても大きな楯を持って突っ込んでいく人が多いですね」
「昔、「聖女の楯」と呼ばれる伝説的な聖騎士が居たそうですよ。聖女を背負った状況では絶対に攻撃を避けず、すべて受け止めていたようです。それにあやかって、大楯を持つ者が多いのでしょう」
四大国の中で神聖国ルキシアが一番敵にしたくないと思う。主力の神官騎士団は戦い方といい、一歩間違えれば過激派と同じだ。過激派を生みやすい土壌があったのだろう。
スタンビート1日目は、完封したと言っていい状況だった。
前回ベッツで発生したスタンビートは、報告書を読む限り、10日目でノーザニア王国の特殊部隊が突入して鎮圧しており、5日目ぐらいから徐々に勢いがなくなってきている。なので、5日を目途に各国は突入部隊を投入するのだと思われた。
会長室で資料整理をしていたところ、新たな情報が入ってきた。ベルンにいる過激派が不審な行動を取っているとのことだった。情報を入手したのはミランダ社長で、情報元はカーン子爵領のイサク司祭だった。
ミランダ社長が言うには、無許可ダンジョンの実態解明をお願いしていたらしい。ミランダ社長はこれから実際に現地調査をするとのことで、私とヘンリーさんも同行することになった。
これにキョウカ様が「私も着いて行きたい」と言ってきた。ミルカ様に念話で尋ねたところ、「合宿にはイベントが付物、遠足とかがベスト」と言っていたそうだ。
ここに来てもキョウカ様の緊張感の無さが見えてくる。
最終的にキョウカ様はフロレインさんがエルフの森に案内することで話がついた。荒れた里を慰問するという形で、ハイエルフを信仰するエルフにとっては、本当に有難いらしい。
因みに私とミランダ社長、ヘンリーさん、ミーナが過激派の調査班、キョウカ様の方はエリーナ、タリーザ、ダクネスを筆頭に多数の参加者がいた。因みに両親からの許可も得たドミティア様も参加することになる。ダンジョン協会の会長が非常事態にこんなことをしてもいいのかと思うのだが、緊急事態であればエルフの里がある「森のダンジョン」の転移スポットで帰還できるし、連絡も通信の魔道具でなんとかなるので、キョウカ様の機嫌を損ねないことを優先したようだ。
移動はB-5ダンジョンまで転移スポットで移動して、そこからカーン子爵領の領都を経由してベルンに入る予定だ。当然、領都を素通りすることはできないので、手土産を用意して領主館に向かう。
事情を説明するとカーン子爵に感心された。
カーン子爵が言うには、領兵を招集し、緊急事態に対処できるようにとの指示が下りてきているそうだ。
「まあ訓練と称して、必要最低限を待機させ、後は「恵みのダンジョン」の探索をさせているから、そこまで金銭的な負担はないからな」
そして今回は、状況が状況だけに歓迎はの宴は辞退した。カーン子爵も残念がっていたが、帝国中で待機命令が出ている以上は仕方がないと言っていくれた。挨拶が終わり、領主館から教会に向かおうとしていたところ、獣人の子供達に声を掛けられた。なんと勇者の子供達であった。勇者パーティーはすでに現地入りしており、活動する間はロイさんの実家である領主館に預かってもらっているそうだ。
久し振りの再会をした後、イサク司祭を訪ねた。私達がカーン子爵と謁見しているときに先触れを出してくれていたので、イサク司祭は資料などを用意してくれていた。挨拶もそこそこに私達は本題に入った。
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