スタンビート対策
私とヘンリーさん、ミランダ社長は小国家群にできた4つの無許可ダンジョンの調査に来ていた。ミランダ社長は表向きは学者という立ち位置なので、人族からは安全確保のため、護衛のパーティーを付けるように厳しく要求されていた。
仕方なく護衛に選んだのはなんとも豪華なメンバーだった。ミランダ社長も所属していた五代目勇者パーティーだ。メンバーは魔弓術の使い手でハーフエルフのアグエラ王太子妃、力自慢の熊獣人と魔族のハーフの三姉妹、これに万能型の魔法剣士であるミランダ社長を加えたもので、歴代の勇者パーティーでも屈指の実力だという。
アグエラ王太子妃の実家が小国家群にあることから、里帰りを兼ねてのことらしい。ミランダ社長も気心が知れてやりやすそうだ。
調査は順調に進み、4箇所目のダンジョンにやって来た。
ある程度調査を終えたところで、三姉妹がミランダ社長に話しかけてきた。
「私達もミランダ程ダンジョンが好きなわけじゃないけど、今回のダンジョンはつまらないな。いい素材は取れるだろうけど、冒険者は飽きるだろうね」
「ダンジョン特有のドキドキ感が全くないわ!!ミランダと行ったダンジョンはどこもそれなりに面白かったしね」
「そうよ、そのうち駆け出しの冒険者しか来なくなるわね。ダンジョン構造もほとんど同じだし」
いい素材も採取でき、魔物も弱く、罠もないので当たりのダンジョンと思われていたが、調査の結果、冒険者の入場者数は減少傾向にあるようだ。冒険者の中には、ダンジョンにロマンを求める者が多くいることが要因かもしれない。
ダンジョンから帰還し、滞在先のエルフの集落に着いた。
夕食を済ませたところで、ミランダ社長から呼び出しを受けた。ミーティングをしたいとのことだった。ダンジョン関係の話になるので、ダンコルのメンバー以外は呼んでいなかった。他のメンバーには「三人で論文をまとめる」と言っておいた。
三人が揃うと、ミランダ社長が話始める。
「DPの消費量を逆算すれば、持って3ケ月ね。それ以上経つとスタンビートを起こせなくなる。向こうさんも入場者が目に見えて減少しているのは誤算かもしれないわね。問題はどうやってこの事実を各国に伝えるかね。流石にDPのことは口外できないし・・・・」
ミランダ社長の分析は、ダンジョン維持に必要なDPとスタンビート発生時に使用するDPを考慮し、所在不明になっているダンジョン協会から横領されたDPをすべて使われたらと仮定した場合だ。
「それと、大陸会議ではスタンビートには「大量の生贄が必要」みたいなことを言ったけど、実際、スタンビートを起こすだけだとそんなのはいらないのよ。ただ、スタンビート状態を維持するDP獲得のためには次々と殺傷行為を行う必要があるの。だから、初期に大量の殺傷行為を行える状態でスタンビートを起こしたいはずなのよね。
そうなると、相手が打ってくる手は、素材の質を上げて集客アップを狙うか、若しくは決行日が予め決まっているとなると逆に素材の質を落とすかもしれないわね」
これに対し、ヘンリーさんが言う。
「戦術的なことから意見を言うと無許可ダンジョンの発生場所から考えて、小国家群に4つも無許可ダンジョンを設置しているのは、明らかに大陸中心部の小国家群を狙ったものだと思われます。もし、私が指揮官なら、まず、小国家群以外でスタンビートを発生させ、各国が小国家群に援軍を送れない状態にした上で小国家群にスタンビートを発生させますね。
相手方の誤算は、我々ダンジョン協会が積極的に協力していることと、各国の意外にも強固な協力体制でしょうか?
これらを踏まえた上での対策は・・・・」
流石ヘンリーさんだ。
調 査 報 告 書
1 スタンビートの発生時期について
確実な証左は提供できないが、調査結果や過去の文献を紐解く限り、スタンビート発生が予想される時期は1ヶ月後から3カ月後となる。軍事戦略的観点から、何かしらの目的で大陸中央部を制圧しようという意図が見受けられることを考慮すれば、四大国の新規ダンジョンでスタンビートが発生した後に大陸中央部の小国家群の4箇所でスタンビートが発生するのではないかと推察される。
また、スタンビート発生直前に採取素材が変化したり、ダンジョン構造が変化したりする可能性が高い。
(参考文献、資料については末尾に添付)
2 対策について
〇 まず、ダンジョンに潜る冒険者に採取素材の種類を確実に報告させ、変化があれば、すぐに警戒態勢に移行する。
〇 四大国でスタンビートが発生した場合は、それぞれの国で対処するとともに、小国家群への援軍を派遣する。ダンジョンコアを破壊する突入部隊の移動については、ニューポートの龍神様が協力してくれることとなった。
「ふうー、やっと終わった!!」
先日、ミランダ社長とヘンリーさんと三人で三―ティングした内容を報告書にまとめ、関係機関に送付した。後日になるが、概ねこの案は採用されたようで、突入部隊の勇者パーティーと魔国デリライトの部隊は予めニューポートに待機する。オルマン帝国の2部隊は「試練の塔」で訓練を積む予定であり、移動の際はドライスタ様とリバイア様が担当してくれることになった。
なぜ、私が報告書を作成していたかというとミーティングの後にミランダ社長にこのように指示されたからだ。
『ヘンリー君はダンジョン襲撃犯の関係で別任務についてもらうので、ここでお別れね。私は久しぶりにパーティーを組んだアグエラ達とやることがあるから、ナタリーちゃんは今回の報告書を作成して関係機関に送っておいて。私達は1週間くらいで戻ってくるから』
そして1週間後、ミランダ社長を含む五代目勇者パーティーがエルフの里に帰還した。見るからに装備もボロボロで傷だらけだった。
私は感動した。危険な任務に私を近付けさせないために詳細を語らずに待機の指示を出したのだと・・・
しかし、三姉妹の会話を聞いた私は、感動を踏みにじられることになる。
「やっぱりダンジョンはこうでなくっちゃね」
「言ってることがミランダみたいじゃない」
「でも偶にはダンジョン探索もいいわよね」
なんとこの人達は、ヘンリーさんが再建に携わった「至高のダンジョン」に挑戦していたらしい。こんな時期に何を考えているんだと正直思う。
「ちょっとミランダ社長、大陸の危機なのですから、もう少し自覚を・・・・」
「こ、これはね、戦闘を見越した訓練の一環で・・・・必要なことよ」
物は言いようだ。
まあ、ミランダ社長に何を言っても今更無駄だろう。
そんなとき、ヘンリーさんから緊急連絡が入った。
ダンジョン襲撃の実行犯、過激派組織アルボラが動き出したと。
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