緊急の大陸会議 1
緊急の大陸会議が招集されたのは、私達が勇者に情報を伝えてから2週間後だった。各国とも別ルートで情報を得ていたこともあり、開催に反対する国は現れなかったし、各国とも独自で対策を講じていたようだった。
今回の会議では、異例のことが多いと勇者が言う。
まず参加国だが、小国家群の代表が全員参加している点だ。
通常の大陸会議では、大国と呼ばれる神聖国ルキシア、オルマン帝国、ノーザニア王国、ラーシア王国と商業都市ダッカ以外の小国家群は持ち回りで2~3ヶ国が出席するのが通例だという。今回の事案の重大性を鑑みてのことだと言えよう。
また、各国ともゲストと呼ばれる参加者と同伴している。この会議でのゲストとは、議題に関係がある専門家が招集されることが多いのだが、ここまで多くのゲストが集うことはないという。かくいう私とヘンリーさんもミランダ社長とともにニューポートのゲストとして参加している。今回情報提供があったドライスタ様の秘書という位置付けだ。
周りを見ると各国ともゲストを連れている。小国家群はエルフとドワーフの代表ということでフロレインさんとドラガンさんが、ラーシア王国は私の両親とラドクリフ公爵婦人がゲストになっている。ラーシア王国には「モフモフ天国のモフモフ達が急遽騒ぎ出し、過去の文献を確認したらスタンビートが起こる前兆だった」という少し苦しい情報提供をラドクリフ公爵婦人にしたのがきっかけで、両親もこの場に呼ばれたようだ。
オルマン帝国はなんとキョウカ様を連れてきていた。会議の前に皇帝がキョウカ様のことを自慢していたことは言うまでもないだろう。
そんな中、ミランダ社長が勇者の紹介を受けて話始めた。
「こちらはミランダ教授でダンジョン研究の第一人者であります。まず彼女の話をお聞きください」
「それでは、スタンビートについて話しますね・・・・・」
ミランダ社長の説明は原稿を読み上げる形となった。というのもこんな会議でいつもの調子でやられたら、時間がいくらあっても足りないからだ。
要点は、3つだ。
1 新規ダンジョンからスタンビートが発生する可能性が非常に高いこと
2 スタンビートを止めるにはダンジョンコアを破壊するしかないこと
3 ダンジョンコアを破壊するにはスタンビートが発生するまで難しいこと
ミランダ社長の話の後にすぐに質問が出て来た。冒険者ギルドのトップで初代勇者パーティーのヘラストさんだった。
「話は分かった。だが、ダンジョンに潜っている冒険者に今すぐ潜るなとは言えん。あいつらも生活があるからな。それにできればそのままダンジョンを残すことはできないのか?新しくできたダンジョンはどこも取れる素材がそこそこいいし、魔物も圧倒的に弱いから新人の冒険者や果ては冒険者ですらない一般人が素材を取りに潜ってるからな・・・」
「それではこの資料をご覧ください」
ミランダ社長が示したのは、新規ダンジョン内のマップだった。
「全く同じじゃねえか・・・それに素材もモンスターも一緒だ」
「お分かりいただけたと思います。それと、スタンビートの始まりには多くのエネルギーが必要という仮説があります。あくまで推測ですが、ダンジョンにノコノコやって来た、ほとんど戦力を持たない一般人を大量虐殺して、そのエネルギーでスタンビートを発生させる可能性も考えられます」
「つまり、品質のいい素材が餌ってわけか・・・・分かった。こちらで対策を取るよ。ギルドとしては注意喚起をするが、それでも潜ろうという奴は止められない。できるとしたら、潜るときの届け出を厳密にさせるぐらいだろうが・・・」
冒険者も生活がかかっている。この辺が落としどころだろう。
次に発言したのは小国家群の代表者の一人だった。
「見せていただいた資料には新規ダンジョンは10箇所、内1箇所は破壊済み。残った9箇所のダンジョンの内4箇所は我々小国家群にあります。恥ずかしい話ですが、我々だけで対処できません。どうか援助をお願いしたい」
これにいち早く反応したのは、初代勇者のノーザニア王国のノビス王だった。
「貴殿らの不安はもっともなことだ。この会議の前に四大国で話したのだが、どのような支援が一番いいかという話になった。これは一つの案だが、まずはこれを見てほしい」
そこには温泉地ベッツで起こったスタンビートに対して、どのような対策を取ったかについて、詳細に記載されていた。資料に沿って、ノビス王の説明が続く。
ベッツ自体、温泉地ではあるが、郊外はそれなりに強い魔物が出没する。地元のAランクのクラン、パーティーとしてはSランクのベッツ・スパクラブがその防衛を担ってきた背景があった。
町の外周には予め簡易の砦が多数設置されており、砦を使用した防衛も得意のようだった。砦には食料も備蓄しているので、持久戦にも耐えられる。
スタンビートが発生し、魔物が溢れかえっても、被害を最小限に抑え、国軍が応援に駆け付けるまで持ちこたえ、国軍の精鋭部隊がダンジョンに突入してダンジョンコアを破壊して、スタンビートを止めたという。多分、この精鋭部隊は件の特殊部隊だ。
「ノビス王、有難いがここまで手の内を晒して大丈夫なのだろうか?」
「心配には及ばんよ。ベッツは我が国土のほぼ中心にある。ここまで、他国に攻め込まれたらもう滅亡だろうしな。ハハハハ」
ノビス王は豪華に笑った。ノーザニア王国の戦力はまだまだベールに包まれている。たかだか一都市の防衛戦術が公になったところで痛くも痒くもないだろう。
「それで、肝心の案なのだが、突入部隊はこちらで用意しようと思っている。貴殿らはスタンビートが発生したときに持ちこたえられるようにしてもらいたい。因みにベッツの防衛線を構築したベッツ・スパクラブには、小国家群の防衛線の構築の指導を依頼したが、快く引き受けてくれたよ」
「本当に有難い。感謝する」
小国家群の一同はノビス王に頭を下げた。
ここでヘラストさんとトルキオさんが発言する。
「今回は傭兵ギルドからも格安で傭兵の派遣を受けるぜ。働きがよかったらそのまま使ってくれ」
「商業ギルドもしっかり支援しますよ。補給関係は任せてください。こちらも格安で受けますよ」
これで、スタンビート対策は上手くいった。
それを見計らってドラガンさんが発言する。
「そっちはそれでまとまったようだな。ではこっちの話だ。今回の件、どう落とし前を付けてくれるんだ?」
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