マスター会議 2
話は少し遡る。
私がテイマーではないと衝撃の事実を知らされた日の夜、ヘンリーさんからもう一つの秘密を明かされた。
「本当ですか?そんな・・・・酷い!!」
「僕とミランダ社長は反対したんだけど、キョウカ様が『慌てて困ってる姿は面白い』って言うし、みんなも悪ノリしちゃってね・・・。後、ご両親も承諾してくれていたし、一人は完全に騙された者がいたほうが、成功率が上がると思ってね。悪いとは思ったんだけど」
実は私の実家のダンジョンにダンジョン協会からの話があったときにクワトロメイズのクリスさんからダンコルに連絡があったそうだ。そして、私の両親とも話合って、担当者を捕縛する計画を立てていた。
つまり、私の実家のダンジョンが経営危機に陥ったというのもダンジョン協会の策略を利用したもので、実際は、経営自体は良好なままだった。
そして、両親がダンジョン協会の担当者に「もうダンジョンの経営が成り立たない、助けてほしい」と言って呼び出したところで、捕縛したようだ。
担当者を尋問したところ、「マスターの娘の慌てぶりを見ると、この計画が上手くいくと思った」と語ったそうだ。
私としては、今回の計画に役立ったことは嬉しいが、少し複雑な気持ちだ。
その職員から決定的な証拠を手に入れ、更に芋づる式にダンジョン協会本部の会計担当者の捕縛に至ったようだった。
今、マスター会議の出席者の前に拘束された状態でいる二人は、実家に来た担当者と会計担当者だ。
ヘンリーさんが二人に尋ねる。
「証拠もありますし、言い逃れはできませんよ。ところで、なぜこのような悪事に加担したんですか?」
重苦しい雰囲気の中、最初に口を開いたのは担当者の男だった。
「お、俺もこんなことはしたくなかった・・・娘の病気の治療のための資金が必要で、成功したら資金を用意してやると言われて・・・・。馬鹿なことをしたと思っている」
「誰からその話を持ち掛けられたのですか?」
「そこにいる会長からだよ」
会場が騒然となる。
ヘンリーさんは、会計担当者に質問をする。
「あなたはなぜ、このようなことを?」
「以前、仕事で大きなミスをしてしまい、それを誤魔化すために帳簿を少しイジったんだ。それがバレて、会長に『このことを黙っていてほしいなら、言うことを聞け』と言われてね。何件もやらされていくうちにもう後戻りができなくなってしまって・・・。今思えば、最初に仕事のミスをしたときにキチンんと処分を受けていればよかったと思っているよ」
会計担当者から提出された裏帳簿の写しが、参加者に配られる。
これは酷い。7割強が使途不明になっている。ヘンリーさんが作成した帳簿と裏帳簿の対比表を見ると明らかだ。
ドワーフのマスターが声を荒げる。
「舐めくさりおって!!クレメンス会長の不信任決議を提案する!!」
予定ではドライスタ様かキョウカ様が会長の不信任決議を提案する予定だったが、そうするまでもなく、不信任決議が出された。他のマスターもこれに賛同する。
「ちょっと待ってください。この資料で不正があり、DPがどこかに消えていることは明白ですが、DPの行先も不明で、私と彼らの関係も彼らの証言だけです!!そ、そうだ・・・私も嵌められたんだ!!不正を正そうとした私を排除することが目的で・・・・」
そのとき、会場の扉が開き、いかにも位の高そうな壮年の魔族の男性が入ってくる。
「見苦しいぞクレメンス!!DPの行先もこちらは掴んでおる!!それに本国の協力者の身柄も拘束しているしな」
一体誰だろうか?
クレメンス会長が信じられないものを見たように狼狽え、つぶやく。
「こ、皇帝陛下・・・なぜこちらに?」
ヘンリーさんが冷静に説明を始める。
「こちらは別大陸のタルシュ帝国の皇帝、カイザー・タルシュ陛下です。一連のダンジョン協会の不正事件はタルシュ帝国の政争が原因でもあります。よって、タルシュ帝国の皇帝陛下にご足労いただいた次第です」
登場したのは、ヘンリーさんの母国である皇帝陛下だった。
皇帝陛下は言葉を続ける。
「紹介のとおり、我は第15代タルシュ帝国皇帝カイザー・タルシュである。まずは、迷惑を掛けた関係者に謝罪をしよう。本当にすまなかった」
会場は戸惑いの雰囲気に包まれる。
ここでヘンリーさんが説明を始める。
「マスタークラスでも御存知ない方もおられますので、簡単に説明をしておきます。まず、ダンジョン協会の成り立ちから話します。
最初のダンジョンは、神が作ったものです。タルシュ帝国がある大陸で生まれました。理由は、各種族の成長を促すためです。ダンジョンという困難に立ち向かい、相互に協力して成長していってほしいとの願いがあったそうです。これについては、かなり古い話なので、文献しか残っていませんが。
当初は神自身がダンジョンを運営していたのですが、ある程度ダンジョンが成長した時点で、後のタルシュ帝国の皇帝となる初代皇帝の一族に管理を託したのです。そして、このユリシア大陸にもダンジョンを作るためにダンジョン協会が発足しました。ダンジョンと共にユリシア大陸も発展していき、現在に至っています。
と、前置きはこれくらいにして、一連の事件の真相ですが・・・・」
「ここからは我が引き継ごう。
タルシュ帝国はDPを利用して、発展を遂げてきた。ユリシア大陸のダンジョン協会のDP収益の3割はこちらに納入されておる。ダンジョンも増え、DPの収益が上がっているはずなのにのタルシュ帝国に納入されるDPは一向に増えない。ヘンリーに言われるまでもなく、こちらでも調査を続けていたのだ。そして恐ろしい計画が判明したのだ」
ここで皇帝陛下が言葉を切る。
「DPを利用してクーデターを起こそうとしていたのだ」
DPは様々な分野に応用でき、魔力暴発なんかした日には一瞬で都市が消し飛ぶこともある。皇帝陛下の話では、これを兵器利用して、クーデターを起こし、世界征服を企んでいた組織がいたそうだ。
幸いヘンリーさんの情報と突き合わせて精査し、未然に防ぐことができたそうだ。
「観念しろクレメンス!!おまえの仲間達も拘束しておるし、不正に横領されたDPの半分は回収が済んでいる」
クレメンス会長がうなだれる。
「この者達を連れていけ」
皇帝陛下が部下に指示をする。職員の二人とクレメンス会長が連行されていく。
めでたし、めでたし・・・・・
とはならなかった。
問題はこれから、どうするかということで議論は紛糾する。
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